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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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99.瞬息(4)

今後もできるだけ時間を使わずに、このいいペースを守りたいところだが、どこまでこのペースが保てるだろう。3八金、同銀で金同士の交換。そして102手目に6九飛打で王手をかけられる。静香はここで時間をカウントダウン寸前まで使った。相手の駒台には金が2枚。少しでも隙を見せれば詰まされる。でもここで虎の子の金を使うのはもったいない。合い駒は桂馬でも問題ない。


御厨先生はいつものように秒読みのカウントダウンが始まってから3一金打と自陣を固めた。ここも解消するしかない。同銀成、同銀で金銀交換というよい交換。これで御厨先生の自陣も薄くなってきたが、同時に4一にいる静香の角も詰んだ。だができるだけのことはする。静香は2三角成として、死ぬまでは相手玉を窺える場所に置く。


ここまでの107手で、盤面はほぼ互角に戻っているという見立て。どちらも自陣が薄くなり、金駒が2枚づつあるが、それでもまだ詰ますには至らない。静香はまた水を含み残り時間を確認する。静香はほとんどノータイムで指し続けているからまだ15分以上ある。


終局までのどこかでこの15分を1度に、あるいは2回に分けて使う。そのタイミングを見計らわないといけない。最後まで持っていたら、単に不利なだけだ。静香は時間をほとんど使っていないけど、御厨先生は必ず50秒使って指してくる。


108手目は2八歩打ちで王手を受ける。問題ない、迷わず同玉。その後は2二銀打ち、時間の問題だった馬を殺しに来られた。迷わず同馬で王手、おそらく同銀と思いきや1分弱の時間の後の一手は同玉。御厨先生の玉が穴から出て来た。確かに他の金駒に近づくための手としてはアリだ。


そしてそれならそれでやりようがある。113手目に静香は2三銀打で王手する。読み通り同玉なので、3一飛成で銀交換。これで相手の持ち駒を減らす。つもりだったが、御厨先生は3二金。確かにまだ詰みにいかせられないけど、御厨先生の玉はとても薄い。さすが現役最強、思い切った手を指してくる。


静香は当然のように2一竜で桂馬を取って王手。ここで2二金打させて相手の金を使わせた。これで後は9一の香でも取って逃げればいい。本当にいいか? 静香はここでも時間を少し使う。いやここは邪魔な馬を食って金を遠ざけた方がいい。3七桂打ちとする。2一の竜は金で取られたが、2五に居座っていた角を取り、なおかつこの桂馬を攻めの足掛かりに出来る。


だが早速その桂馬を払うべく3六に銀を打たれる。ここでもまた静香は時間を使ったので残り時間はあと5分を切った。お互い2筋にいる玉を鉄火場にしよう。123手目2六銀打ち。静香は3五桂打ちと双方の駒が狭いゾーンに塊を作る。静香の駒台には角、金が2枚と歩が2枚。だが、御厨先生の駒台には飛車と歩が3枚。


だから御厨先生は早めに解消することを選んだのだろう。126手目から同角、同銀、同歩となる。ここだけ見ると銀桂を失って角を得たと言う事になるが、その角を129手目に7九に打ち込んで王手飛車とする。


これでだいぶ先手持ちになったのではないだろうか? 御厨先生は3四銀と合い駒。このままだと攻撃の足場にしようとしていた2五の桂を失うけど、もちろん飛車を取る。6九角、2五銀引。


もちろん取った大駒はすぐに打ち込む4一飛打して、御厨先生に3一飛打を強制する。この飛車は前が塞がっている状態だからしばらくの間は守りにしか使えないはずだ。135手目4六飛成。少しづつ、本当に少しづつだけど、静香は自分が有利になっているのを感じる。だが、まだ相手の玉を詰ます道は見えない。相手の攻め駒はだいぶ削ったが、逆にいうと守りは堅くなっている。


そう考えていると3六桂と王手をかけられた。角はまだ自分の駒台にある。だからこの一枚は捨てても自分の形を良くできるのであれば大丈夫。同角、同銀、その銀を追い払うために3七に歩を打って、相手の銀を下げる。これで同じ位置に桂を打ち込むことも防げる。そして長い間7六に根を張っていた成桂を竜で取る。


これで一旦攻防は終了。四段目より上に静香の駒は1枚もなく、逆に六段目より下に御厨先生の駒は1枚も無い。こちらの玉を守る駒は少ないけど、歩が前を守っているし、持ち駒は角、金2枚、桂2枚と歩が1枚、御厨先生は角と桂、そして歩が3枚。御厨先生の飛車は最下段で守りについているから、すぐにでも角を使いたいはず。だが今のままでは角を打つスペースが無い。どこから動いてくるだろう? 御厨先生が考えている間、静香も考える。


答えは2五桂打ちで、静香の予想どおり。嘘じゃないよ。だから静香はノータイムで2六竜。あり得ないけど2五の桂が跳ねたらそのまま相手の王に竜が利いて勝負が終わる。そして空いた7五に角を打たれる。4八の静香の銀はずっと浮いていたからいつか狙われるのはわかっていた。だからすぐに5七桂で合駒、これは4五の銀にも利く。こうやって一手一手に複数の意味を持たせないといけない。


A級の人たちはこういうのを当たり前のようにやっているんだな。静香はまた将棋の奥の深さを教わった。

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