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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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97.瞬息(2)

振駒の結果はとが3枚、静香の先手だ。互いにお願いします、の挨拶を交わすと、静香は初手で飛車を7筋に振って、チェスクロックを押す。静香が三間飛車にするのは、おそらく四段になってからは初めて。


御厨先生は少し驚いたようで少し時間を使って飛車先の歩を突く。振り飛車対居飛車の対抗型が確定。2手目に角道を開けてくれたら、より乱戦になったかもしれないけど、堅実に勝ちを狙うことを優先したということだろう。


静香はノータイムで角道を開けた。ここは他の手がない。これでまた御厨先生に選択肢が渡されるわけだけど、2手目で時間を使ったということはもう決めているはずだ。予想通り御厨先生はすぐに飛車先の歩を突く。堅い。


静香は間髪いれずに二択のうちの堅い方7七角で応じる。御厨先生はまた時間を少しかけ、6手目は4二玉。角道を閉じたままで穴熊一直線ってこと? 一瞬でそれだけ判断して静香は4八玉と自分の王様を動かす。


後手は居飛車穴熊が本戦。先手としてどうするかを決めなければならないが、とりあえず後手待ちだ。ここで後手が角道を開ける。んん? これでまた戦型が判らなくなった。これで角交換振り飛車の目が出た。結果的に盤面はままある形になっているが、手順が違うので細かい駆け引きが成されている。


また静香に選択権が渡される。ここはさらに玉を端に持って行くのが一番堅いか? でも普通じゃ勝てない。静香は6六歩で角道を止める。別におかしな手ではないが、このあたりから先達が残してくれた道標みちしるべが減っていく。


10手目と11手目はお互いに1筋の端歩を突き合って、12手目が3二玉。さすがにもう穴熊ですよね。静香は6八銀と上げる。こちらはまだどう玉を囲うか見えない。


その後後手が穴熊に向かう間に静香は27手目に4六に歩を上げて、4六歩型の三間ミレニアムの形を取った。三間ミレニアムだと4六に銀を上げる場合が多いが、持久戦が見えてきたので、この方が手が厚いはずだ。


この時点で静香が勝つための方針が見えた。この40分の短期決戦で敢えて持久戦に持ち込み、そして時間攻めをする。御厨先生はどちらかというとだけど終盤に時間を残すタイプ。1分将棋なら静香にも多少の分があるかもしれない。


35手目、相手の穴熊が完成する直前に4五歩と駒をぶつける。同歩で取られた場合は、同桂で角銀の両取りになるから当然、御厨先生は取らない。3一金で穴熊を完成させる。そして静香は空いた4六に銀を上げる。ここに双方の駒が固まっているので、ここがこの対局の天王山になるだろう。


静香から見て左辺では双方の飛車は何もしていないし、静香に到っては角もまだ遊んでいる状態なので、この後はこの左辺で大駒で牽制する流れになるかな?


そう思った矢先に38手目に2四角。先に火薬庫に火を点けられた。仕方がない。まだ早すぎるけど、火薬を小出しに燃やすことにする。4四歩で相手の歩を払うがすぐに同銀で取り返される。これでお互いの駒台に初めて駒が乗ったが、それは一瞬のこと。すぐに4五歩と打って、相手の銀を下げる。


だが、これで静香の角にも出番がきた。これまで角道を閉じていた歩を上げる。これで2二の銀まで角が届く状態になった。ここで御厨先生が時間を使ったので、静香はペットボトルの水を飲んだ。


おそらくまだ形勢は互角。そして御厨先生は10分以上時間を使っているが、静香は43手目まで指してまだ3分も使っていない。1手に10秒かけてないってことだ。なんだ私は御厨先生相手でもやれてるじゃないか。


1分程時間を使った後7四歩と桂馬を跳ねる準備をされた。静香から見て左辺がようやく動き始めるようだ。だったら自分は先に右辺の桂馬を跳ねる。御厨先生は左辺の桂馬を跳ねる。静香は当然それを読んでいたので、9五角と上がる。跳ねたばかりの桂馬を狙い飛車も追い払う手だ。当然読まれていて7ニ飛。これで静香の角の利きが悪くなるが、御厨先生の飛車も使いづらくなったはず。


静香は空いた7七に桂を跳ねる。ここでまた御厨先生に時間を使わせる。これでもう半分は使わせた。するとさっき下げさせた銀が6二にさらに下がった。右辺で使われると思った銀があっという間に左辺の戦力にされてしまう。だが、まだ互角。静香は第一感を信じてさっき跳ねた桂で相手の8五の歩を取る。当然同桂されるので、8六に歩を上げてその桂にプレッシャーをかける。これは静香の角の逃げ場を失うけど仕方がない。


これで歩切れを解消できたし、静香の角が無駄死にする可能性が減ったけれど、だからといって歩桂交換は早まったかもしれない。早速6六に打ち込まれ、初手以降動いていなかった7八の飛車を狙われる。当然逃げるけど、後々橋頭堡きょうとうほにされるのは間違いない。早速先に跳ねていた桂馬が自陣に飛び込んでくる7七桂成。こちらは6六の桂を飛車で取るけど、そこそこ天秤があちらに傾いたと思う。


静香よりも御厨先生の方が強いのだから当たり前の話だ。だが勝負はまだまだ始まったばかりだ。

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