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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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94.減点要素

天道五段、なかなか悪くない響きだ。だが天道五段は初戦こそ勝ったものの、2戦目の棋神戦決勝トーナメントの1回戦で早蕨さわらび先生に相掛かりで挑んだがあっけなく負けた。静香はこの前B2の月影先生に負けているけど、他のB級棋士には勝ったことがある。だがA級棋士にはまだ勝ったことがない。


どんな棋戦でも勝ち上がれば強い人とあたるので、純粋に棋力をあげるしかない。夕陽杯で千夜はベスト4に進んでいるが、それは途中で番狂わせがあったので、結果的に組み合わせに恵まれたからだ。それでも次の相手は御厨みくりや先生だからかなり無様な姿をさらしてしまうことになると思う。後は研究ブーストだけど……そんな時間は今の所なさそう。とりあえず早蕨先生に負けたマイナスの感情を切り替えて、千夜は恵愛堂の入試に臨むことになった。


「はい。ここはですね。恵愛堂医科大学の近くにある駐車場前です。今日は一次試験です。ここで1700人のうちおよそ3分の1が2次試験に進めます。そして1次試験の結果によりますが、やはり半分から3分の1が合格できる、というシステムです」


そう言いながら千夜は歩き始める。カメラがそんな千夜を映す。


「大学入学共通テスト以来の入試なので少し緊張しています。ここからが入試の本番と言ってもいいので頑張ります」


実は千夜はこの一次試験はそれほど心配していない。いや楽勝というわけではなくて、二次試験の方が難しいと言う意味だ。そもそも二次試験が3日間のうちの初日になれば、元治大学の一次試験と日程がもろ被りするのでどちらかを諦めないといけない。そして一次試験で選抜されるのは学力だけど、二次試験で選抜されるのは医師としての資質だ。


学力は短い時間を繋ぎ合わせてながら上げてきた。だが、こんな他のことをいろいろやっている人間に医師の資質があるのだろうか? 多分試験官の誰もが当然のように疑問に思うに違いない。


そして今日の恵愛堂、元大、東大、いずれも資質を推し量るための面接や小論文がある。その対策を千夜は間合塾の先生から入念に受けてはいるが、それでも不安だ。普通の学生だと先入観無しで見てもらえるかも知れないけれど、千夜が先入観無しで審査されるとはとても思えない。とは言えまずは一次を通過しないことにはそんなことは言ってられない。


大学に近づくにつれて人が増える。その中でもビデオカメラを連れた千夜は目立つけれど、話かけて来る人はいない。おそらくは受験生でそれどころではないのだろう。それが千夜には心地よかった。


だが、大学の正面には人だかりができていた。高校とか予備校かの関係者で、自分のところの出身者の激励に来ているみたいだけど、結構若い子も多くて、千夜が行列に並ぼうとすると一斉に歓声が起きた。


まあ撮影があるから帽子はもちろん眼鏡もかけてないし、朝早くから髪も整えてもらってるからね。寒いから本当はニット帽をかぶりたい。


「千夜ちゃん頑張って!」


若いから友だちか誰かを応援しに来た女の子だろうか? その子に続いてあちらこちらから千夜に声援が届く。千夜が頭を下げると、あちこちでシャッター音がする。そうか、この人たちは私を応援しにきてくれた人たちだ。それに気が付いたのでファンにピースサインをしているうちに千夜……静香の番になった。


「お騒がせしてすいません」


受付の人にそう言ったが、相手は苦虫を嚙み潰したような顔で、返事も無かった。これは悪い兆候だ。この人だけではなく、大学全体がこんな変な学生を合格させるのはけしからん、みたいな雰囲気になっているとすれば面談で落とされてしまう。


でもここまできたのだから、気にせず受けるしかない。さすがに校門の中にはそんなに浮ついた人はいないようだ。せいぜいジロジロ見られるか、知り合い同士でこそこそ囁かれるぐらい。


静香は開き直って自分の試験会場を探した。さて、予選は突破できるでしょうか?



試験が終わり校門を出たところで静香はまた千夜になった。


「そうですね手ごたえは感じました。大きなミスもないはずなので、2次試験に進めるのではないかな、と思います」


「結構自信ありげですね?」


「こういうペーパーテストは終わった時点でだいたいわかるじゃないですか。本番は次の二次試験だと思っています」


今回受ける大学の中でも、倍率的に言うと一番二次試験で落ちる可能性が高い大学なのだけれど、流石にそんなことは言わない。だってこれCMで流れるんだよ。こういったCM、そしてそれ以外の発言がプラスになることもあるかもしれないが、普通に考えるとマイナスに働くことはあっても逆はないだろう。静香が試験官ならそうする。


もちろん仮になにか不利なことを口走っても間合塾の広報の人がカットして、CMには流さないようにしてくれるとは思うけれど。なにか他のところでの発言が問題視されることは十分にあり得る。


芸能活動をしていること。将棋のプロであること。これらははっきり言って減点要素だろう。そして予備校のCMに出ていることも減点要素だろう。今朝ファンが校門に応援しに来てくれたのも、ありがたいけれど、おそらく大学的には減点要素になるはずだ。これらの材料だけで初めから落とす気満々の試験官がいても全然おかしくない、千夜はそう考える。


でもまずは今日受けた試験の点数が高いこと。そして二次試験が元大医学部の一次と重ならないことを願いつつ。千夜は恵愛堂医科大学を後にした。

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