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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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90.レッドカーペット(3)

ショーを見て、表彰を見て、拍手して、たまにコメントする。80を超える部門があって、合間にショーが入る。もちろん見ごたえは十分あるのだけれどとても時間がかかる。しかしもうすぐ終わるはずだ。


『毎年思うんだけど、なんでこんなに長くする必要があるのかしら?』


千夜がちょうど席に帰って来て、「シートフィラー」と入れ替わった時に、隣に座った、ケイトリン=オブライエンが愚痴る。


彼女はたまたま席が隣だった、Caitlín=O’Brien。アメリカ人なので本来ならキャサリンになって、あだ名はキャシーになるのが自然だと思うが、アイルランド系のルーツを大事にしているので、ケイトと呼んで欲しいと本人に言われた。彼女は千夜より数ヶ月年上で今は18歳。驚くべきことにこれが3回目のグラマフ賞だという。


『さあ? それが伝統って奴じゃないの?』


彼女は今日パフォーマンスにも出たし、既に「Best Rock Performance」と「Best Rock Song」の2部門のウィナーになっているし、ようやく残り2部門になった賞の双方にノミネートされている。


なおノミネートされたのは3年連続だが、ウィナーになったのは今回が初めてとのことなので、実際彼女も受賞してしばらくは、席に戻ってから千夜と抱き合ったり、神様に自分の幸運について祈ったりしていたが、さすがにもう限界らしい。せっかくの4大タイトル、それも残り2つの両方にノミネートされている彼女ですらこの長すぎるイベントにはうんざりし始めていて、我慢が限界のようだ。なお、千夜もその片方にノミネートされている。


『さっきのシートフィラーは行儀が悪くて私に話しかけてくるしさ』


シートフィラーというのは要するに席埋め係。受賞中やトイレなどで本来そこに座るべき人物が席を外した時に空席を目立たなくするのが仕事だ。通常は話しかけてきたりはしない。でも、多分ケイトの大ファンだったのだろう。


『もう残り少ないですが、それでは次の賞を発表します。「Song of the Year」です』


今日の表彰の中でも最後から2番目、千夜自身はノミネートされていないがそれでも4大タイトルのひとつで個人的にも関心がある。ノミネートされている作品とその対象者が読み上げられるが、名前を呼ばれたケイトの方が千夜よりもやる気が無い様に見える。おそらくウィナーになったらその途端に態度が変わるだろうけれど。


「『Gramaph Award for Song of the Year』 goes to ……」


千夜はケイトを見ていた。今の気だるげなケイトが、この後自分の名前が呼ばれたらどんな反応を示すのだろうかと。


「『Everything is Forgettable』!!  Ibrahim Iweala and ……」


途中から聞こえなくなったが、千夜は立ち上がって拍手をした。ケイトには悪いけど、イブラヒムたちが受賞してくれてよかった。千夜が座るとそのケイトから愚痴が寄せられる。


『やっぱりねぇ。もうそうなるとわかっていたんだよね』


投げやりなケイトの愚痴に千夜は付き合う。


『そういうもの?』


『そういうものよ、これで最後の賞ももう決まりでしょう? まあ今年はこういう年ってことね』


そんなものだろうか? 千夜は壇上のイブラヒムたちのコメントを聞こうとするが、ケイトがなかなか放してくれないので、仕方なくその愚痴に付き合う。


イブラヒムたちのコメントが終わり、いよいよ最後の賞が発表される。


『では今年度のグラマフ賞、最後の部門の発表です』


ケイトはこれにもノミネートされているくせに全然関心無さそうに見える。


『チヨ、発表されたら、真っ先にあんたに抱き着くからね。背骨を折ってやるわ』


ケイトは半分ぐらい本気ではないかと千夜は思った。


『ケイト、怖いこと言わないで』


「『Gramaph Award for Record of the Year 』 goes to ……」


少しの沈黙。もしここで千夜の名前が呼ばれてもケイトの名前が呼ばれても、とりあえずケイトに抱き着けばいいということだけはわかった。


「『Everything is Forgettable』!! Maizuru Chiyo, Ibrahim ……」


とりあえず千夜はケイトに抱き着かれる前に先手を取ろうとし、ケイトと正面衝突しそうになった。そしてケイトもさっきまでの気だるげな感じが無く、千夜を心から讃えてくれているのだろうとは思う。このハグは多分撮影されているに違いない。


でも流石3度目のグラマフだけある。これだけ切り替えが早くないとダメなのだろう。しばらくケイトと抱き合った後、千夜少々乱れた和服を整えてステージに向かった。


『マイヅルです。光栄ある賞を頂きありがとうございます。先ほどからいろんな人たちに感謝をし続けたので、あと誰にすればよいか今必死に考えています』


千夜がステージに上がるのは今日5回目。『最優秀アルバム賞』、『最優秀新人賞』、『最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞』、『最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞』を取って、今新たに『最優秀レコード賞』を取った。そのうち3つが4大タイトルで、千夜が取れなかった残りのひとつ、作詞者・作曲者に贈られる賞はイブラヒムたちが代わりにとってくれた。最高の結果に終わったので、わざわざ学校を休み、対局の予定日を変え、受験の準備をほったらかして、ここまで来た甲斐があったと思う。


最高の結果だ。もちろんこの後インタビューなどこなさなければいけないことは多いが、それは賞を得たものの義務だ。おそらく英語で、その後日本語でも多くのインタビューに答えなければならない。だがそれが終われば、今夜こそは飛行機の中で気持ちよく眠れるだろう。千夜はそう思ったが、もちろんそんなことはなかった。

大事なことを忘れていたので追記。里見女流四冠が編入試験挑戦を表明されましたね。試験官も結構強力なメンバーだそうですが。


中三段もいらっしゃるし、女性の棋士がリアルで誕生する日も遠くないですね。

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― 新着の感想 ―
後書きですが結構協力なメンバーだそうですは笑ってしまうので書き換えた方が良いのでは
[良い点] いつも更新ありがとうございます。 [一言] この話の序盤を読んでまだ主人公は受賞出来てないだなという感じで読み進めて行ったらケイトのセリフで流れが変わり5部門受賞って凄すぎますね。日本人の…
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