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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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89.レッドカーペット(2)

そこにはブラウンさんを始め、何人かの有名ミュージシャンたちが集まっていた。千夜はここにいる全員の顔と名前がわかる。というか多分世界中の人が彼らを知っている。


『やあ、チヨ、一昨日のライブには行けなくて悪かったね』


おお、ブラウンさんから話しかけてきてくれたぞ。ちゃんと千夜がライブをやったことも知ってくれている。


そしてスタッフと思われる人が千夜のための椅子を持ってきてくれ、スタンリーや他のセレブ達が千夜の椅子が入るスペースを空けてくれる。なんかVIP扱いされている。


アメリカの人……いやブラウンさんはイギリス人か……は本当にオープンだな。というよりは紳士的なのかな。


『こんにちは、Mr.Brown. いつも素敵な楽曲をプレゼントして頂きありがとうございます』


そう言って千夜はまず日本人的に礼をする。


『ハハッ、まずは座って、その後は「スタン」って呼んで欲しいな。キモノがとても良く似合っている』


千夜は行儀よく椅子に座る。


『ありがとう、スタン。こうして直接お礼を言う事が出来てとても嬉しいわ』


『どういたしまして。まず今ここにいるメンバーを紹介しようか?』


すごい、報道陣の前だからかもしれないけれど、とってもフレンドリー。


『いえ、大丈夫です。私は、皆さんのお名前を知ってますから。私は マイヅル=チヨ。ご覧の通り日本人で、スタンから提供された楽曲も歌っています』


千夜が自己紹介すると、一人の若い黒人女性が笑い出した。アン=オージェロ=フェンティ。千夜と同じく、『最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞』にノミネートされていて、既にグラマフを各部門合わせて6回受賞している。


『私は、アン=フェンティ。この会場にいる全員がチヨ、あなたの事を知ってるわよ。なんたって今日の主役だもの。ファッションもバッチリ決まってるわよ。こうやって話ができて嬉しいわ。あなたの歌声は繊細さと力強さが上手くミックスされているからとても好き。私は日本語の歌詞は理解できないけど、それでも聞いているとあなたのメッセージが伝わって来るの』


すごい、私、今、アン=フェンティと話をしている。しかも持ち上げてくれている。


『いえ、私はあなたのパワフルでダイナミックな歌唱力を何度も参考にさせてもらっています』


千夜が言い終わると、次は年配の男性だ。


『俺もアンと似た感想を持っているよ。俺とはまったく表現方法が違うから、逆にとても興味深い。あっ、知ってるって話だったけど、自己紹介させてらう。俺はダニー=キアネーゼだ。よろしくね』


もちろん知っている。R&B の世界の元締めとも揶揄される超大物だ。


『R&Bのオーソリティに評価してもらってとても嬉しいです。私はベッシー・スミスの大ファンなんですよ』


千夜は少し興奮してきた。あのダニーだよ。


『知ってる。学校で『Baby Won't You Please Come Home』を歌っているビデオも見た。もっと本格的にブルースをしてみない? 協力するよ』


なんか夢みたいだ。思い切って声を掛けて見て良かった。千夜は彼らと話をし、連絡先を交換した後、スタンのアドバイスに従って、他の集団にも思い切って声を掛け続けた。


ロック、ジャズ、ラップ、R&B 、クラッシック、カントリー、ミュージカル、ゴスペル……


千夜はいろんな音楽の一流のミュージシャンたちと存分に話し、そして彼らの連絡先を手に入れた。そしてほぼすべての人が千夜の事を知ってくれていて、千夜の話を興味深く聴いてくれる。これってすごいことなんじゃないの?


ある天才的なジャズプレイヤーが千夜に聞いて来た。


『チヨは日本のチェスのプロフェッショナル、というか ”The Queen" だろう? 普通のチェスはしないの?』


一説によるとチェスも将棋も古代インドのボードゲーム「チャトランガ」を起源とすると言われており、棋士の先生方の中には、チェスの「マスター」の称号の人が複数人いらっしゃる。だが、千夜はあまりチェスを指したことはない。


そして日本の女流の称号として、女王とクイーンは全然別の意味を持つが、それをここで指摘するのは野暮だろう。


『あまりしませんね。チェスはオープニングを少々知っているぐらいで、ほとんど日本のチェスばっかりです。ローガンはチェスがお好きなんですか?』


ローガン=パーキンス、ジャズ界の超大物だ。


『うん、大好きだよ。もし時間があれば後で指したいな』


千夜は少し挑発的に笑った。


『私が勝ったら曲を作ってくれますか?』


ローガンもにやりと笑った。


もうすぐセレモニーが始まる時間だ。でも、千夜の棋士としてのお仕事もご存じの方がいらっしゃるのだな。確かにちょっと指してみたいところもある。


そして、千夜はひとつ気になることがあった、壁際から千夜をずっと見つめている人物がいることを、そしてその彼は他の誰とも話しをしていないことを。


千夜はセレモニーが始まる前に彼のところに行くことにした。千夜が彼に近づくと彼の方から挨拶してくれた。


『ハイ、チヨ』


千夜が顔を知らない人物だ。


『私はナイジェリアから来た、イブラヒム=イウェアラです』


イウェアラ……


『ああっ』


千夜はイウェアラにハグした。アメリカに来てまだ4日目なのに、随分とハグの敷居が低くなってしまった。これを将棋会館でやったら多分会長と社長に大目玉をもらってしまうだろう。


『あなたのおかげで今日私、ここに来れたわ』


イブラヒム・イウェアラ、ナイジェリアの大学生。彼が2年かけて初めて書いた曲を千夜に送ってきてくれてからまだ1年も経っていない。2曲目は1曲目の契約を交わしたその後2週間で送って来てくれた。おそらくはそれより前から作っていた曲だと思う。


『多分チヨは私がいなくてもここにいたと思うよ。でも私がここに来れたのは完全にチヨのおかげだよ』


彼はシャイな性格なのかもしれない。


『そんなことないわ。私はただ歌うだけしかできないもの』


『僕はただ曲を作ることしかできない。アレンジすることも歌詞を書くこともできない』


『じぁあ足りない者どうし、これからも仲良くやっていきましょう』


そう言って千夜は右手を出した。


『そうだね』


イブラヒムも千夜の手を握った。さてこれからはセレモニーが始まる。座席は決まっているので、千夜は自分の席に向かった。イブラヒムの連絡先は鎌プロの人たちが知っているはずだけど、改めて連絡先を聞いた。


そして、後はショーを楽しめばいい。

スタンリー=ブラウンやイブラヒム=イウェアラは48話が初出ですが、その時には名前を決めていませんでした。


それなりに元ネタの賞についても調べたのですが、いろいろとわからないことがあるので、元ネタとは違うことも多いはずです。

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