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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
前編:高校生編
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86.ホームゲーム

千夜はこれまで日本で行って来たライブでも特に凝ったセットは使わない。基本演奏して、歌って、時に踊って、曲と曲の合間にMCをするだけ。途中で着替えたりもしない。昼夜どちらも2時間ずつなのもいつもと同じ。MCを全部英語でしなきゃいけない、というのは大きいが、スピーキングの練習と割り切ることにする。


でもなんだか不思議な感覚だ。普段だと千夜のライブのお客さんは当然ながら日本人ばかりだけれど、今日のライブには東洋系のお客さんの数は少ない。千夜が一目見て外国人だとわかる人たちばかりだ。本当はここでは千夜が外国人だけど。


そしてまだオープニングの1曲目の途中だけど、全然アウェイな感じがしない。ほぼすべてのお客さんが千夜のライブに来るのは初めてなはずなのに、千夜のライブ特有のお約束で動いてくれる。


その興奮についての表現方法にはもちろん日米の違いがあるけれど、声援が出るところでやはり声援が千夜に押し寄せて来る。ああそれはそうか、ファンクラブ会員の人が結構な数入ってくれているわけだし、それ以外のお客さんもチケットの発売開始とともに購入してくれた人たち。つまり以前から千夜のファンの人たちだ。これまでのライブ映像だって見たことがあるかもしれない。ここはアウェイじゃない。千夜のテリトリーだ。


千夜はノリノリで1曲目を歌い終わると客席に礼をした。拍手と声援が千夜に浴びせられる。声援のかけ方はやはり日本との違いを感じる。


「皆さんこんにちは!」


千夜は敢えて日本語で客席に挨拶をする。


「「コニチワ!!」」


客席からもちょっと怪しい日本語が帰って来る。ここからは英語でMCする。


『今回は私の初めて日本国外で行われるライブにようこそお越し下さいました。こんなに大勢の人に聴きに来て頂いてとっても嬉しいです!!』


MCに対してのレスポンスのノリはやはりこちらの方がいいかな。


『本当だったら、今頃私は日本の高校で受験勉強をしていたと思います』


千夜のクラスメイト達はおそらく教室でそれぞれが受験する大学入試の対策をしているはずだ。本当は千夜だって受験勉強した方がいい。でも明石さん始め、学校の先生や、連盟の会長や職員の人たち、多くの人の努力のおかげで、千夜は今このステージの上に立つことができている。ここまで来たのだからそれを全うするだけだ。


『しかしながら、とあるところからお招きを頂いたので、この街にやってきました。産まれて初めてパスポートを取って母国を出て、初めての外国が昨日降り立ったこの街です!』


今度は驚いたような声がしてそこからまた拍手と歓声がする。アメリカの人はパスポートを持っているのが当たり前なのかな? ここからメキシコの国境までは100マイルぐらい。同じカリフォルニアのサンフランシスコまでの距離に比べて半分どころか3分の1ぐらいしかない。


『そんなわけでとても緊張していたのですが、とてもいい感じで2曲目に入ります。ではよろしく』


今回プロモーターはちゃんと一流のメンバーを集めてくれた。ベース、ドラム、そして今日はキーボードじゃなくてピアノ、の3人のスタジオミュージシャン。彼らをこんなグラマフがある時期に集めるのは相当の苦労とお金がかかっているはずだ。おかげで昨日一日で千夜のイメージ通りの音を作ることができた。今日は1回通しただけ。


再び千夜は声を張り上げて2曲目を歌う。5曲目にはギターソロを入れている。ライブはまた夜にもあるからね。ちょっと喉にも休み時間が必要だ。他の曲もイントロ、間奏、アウトロがそれぞれ長くアレンジされており、MCの合間に千夜は水を飲んで喉を湿らせる。はい。この水もスポンサー様から提供されたものです。


『みんな、今日はどこから来てくれたの』


客席に聞いてみるとやはりカリフォルニア州内が多い。カリフォルニアと言っても日本より大きいけれどね。アリゾナやネバダもいたが、東海岸から来てくれた人が予想以上に多かった。そして予想通りカナダも。


『みんな遠いところからありがとう。次の曲は日本語曲で『トオクテトオイバショ』。無理やり英訳したら『The Far and Too Far Place』かな』


千夜の周りのものはスポンサーから提供されたもので満ちている。衣装はルイッチ。楽器は破魔矢。ギターは千夜が自前で購入したものだけどこれも破魔矢さんのものなので、メンテはお願いしている。そもそもこのステージ自体のスポンサーが破魔矢様だ。



千夜は午後のライブを盛況のまま終わらせることができた。この後は、軽くご飯を食べて仮眠。起きたら夜のライブだ。こちらも滞りなく進んでいく、昨日初めて合わせた時と違って、3人のメンバーたちもどんどんアドリブを入れて来る。みんな上手いな。もちろん千夜もその掛け合いに混じって音を盛り上げていく。


そして最後は『Everything is Forgettable』を歌い終わった後、メンバーを紹介し、最後に『Thank you, Los Angels! I love you all』と思いっきり叫んでライブを終わらせた。いつものようにアンコールはしなかった。


初めての海外で初めてのライブ。とても充実感がある。千夜は昨日から頑張ってくれたメンバーと抱き合って別れた。


これで明日はハリウッドで、明後日はグラマフでニコニコしていたら終わりだ。もしかりにどこかの部門で受賞したら、とにかくいろんな人へのお礼を言い続ければいい。

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