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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編

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291/292

291.始動(1)

「とても急なオファーだね」


ジョシュ=オースターは自分の代理人からの電話でそう答えた。


『しかもまだ詳しいことが全然決まってない。断ろうと思うけど一応話しておいた』


だがこの短いやりとりをしている間にもう決断した。


「いや受けるよ。とても興味がでてきた」


ジョシュは代理人が言葉に詰まったことを理解した。代理人、つまりエージェントは個人だけど、実際にはエージェンシーという会社組織に所属している。そのエージェンシーがいい顔はしないだろうな、と思うけれど彼らはあくまでジョシュの代理人が所属する組織でしかない。


『わかった。その方向で進めるよ。あちらに返事を返したらまた連絡する』


「頼むよ」


ジョシュは電話が切れたことを確認して、スマートフォンを机に戻した。



「ダニー、つい先ほど新しいオファーが来た」


「へぇ、どこかのステージのゲストかな」


ダニー=キアネーゼ、R&Bの世界では誰もが認める第一人者だ。


「いや、ストリーミングドラマに出演して欲しいってさ。間違いじゃないか、って聞いたけど……」


「間違いじゃなかったんだな。俺は演技なんてハイスクールでもしたことないぜ」


「流石に演技じゃなくて演奏シーンを撮影するらしい」


ダニーは大げさにため息をついた。


「はっ、ドラマのワンシーンで演奏しろって? 誰だよそんなオファーをする奴は?」



4月になり静香は4年生になった。普通の大学4年生は就職先など進路が決まっている者はその準備をしたり、卒論のためのデータや文献を集めたり、あるいは学生生活の最終年度を楽しもうとする。進路が決まっていないものは、上記と並行して、就職活動を続けたり、大学院に進学するための準備を進めたりする。


普通の学部ならば。


だがこと医学部に関しては5年生への進級のための準備期間だ。ここで成績を落とすと後々まで響くことがわかっているからだ。


「で、美桜みおはどうするの?」


「美桜ってまったく就職活動してないわよね」


静香は春休みに純子と美桜と一緒に美術館を回った。企画展を見た後、常設展も見た後で少し遅い昼ごはんにすることした。それぞれ好みのパスタとシェアするピザを注文した後歓談する。


「正直、東京にいるのって美術館、博物館のためよね」


「露骨に話を逸らしてもダメよ」


「あとはコンサートか。東京にしか来ないアーチストもいるものね。そう言えば静香も最近ツアーしてなくない?」


「だからダメだって。もしかしてそもそも卒業できないの?」


3人は笑顔でわいわいと話す。この3人でテーブルを囲んでいると一番地味なのが静香だと思う。


「まあ、素直にロースクールに進学しようかと」


「「おおっ」」


別に驚きは無かったけれど、静香と純子は大げさにどよめく。


「うちの?」


「まあ、ふたりも含め知り合いも多いから、ね」


「弁護士になるの?」


「ちゃんと決めてないけど、なれたら検事かな」


「「おおっ」」


検事になるのは相当に難しい。そもそもロースクール、法科大学院に入るのが難しい。東大のロースクールの半数は他大学の卒業生だし、社会人としての経験を得た上で合格する者もいる。


そして司法試験も相当に難しい。これも東大の場合は半分ぐらい。つまり半分は司法試験に落ちる。これでも合格率としては高い方になる。そして落ちた場合、翌年の再受験を目指すものが多い。これは俗に司法浪人と称されるが、浪人したからと言って受かるわけではない。司法試験は5回までしか受けることができないから、司法浪人には限度がある。


だから近年、リスクヘッジするロースクールの学生も増えている。具体的には司法試験以外の資格を取るとか、企業の法務部門に就職活動するものもいる。企業に就職してから司法試験を続ける者もいる。


ともかくその超難関の司法試験に受かった場合、最高裁判所の付属機関である司法研修所に入り、司法修習生として修業する。その際、最初に進路希望を表明しなければならない。裁判官、検事、そして弁護士。それぞれJ志望、P志望、B志望と略される。


JはJudge、PはProsecutorとそれぞれ裁判官、検事の英語由来なのに、BはBENGOSHIのB。(「棒」や「飲み屋」以外に「法廷」の意味を持つBarから来ているという説もある)


そしてP志望を表明したからと言って検事になれるわけではない。司法修習で優秀な成績を修め、かつ法務省での面談をクリアしないといけない。ちなみに裁判官はもっと難しいらしいです。


そしてこれはどの志望でも同じだが、 最後に司法修習考試があってそれに合格し、法務省の採用選考にも合格してようやく検事になれる。「司法修習考試」は通称「二回試験」とも言われているが、これはせっかく司法試験に合格した修習生たちの、もう一度試験があるのかよ、という嘆きを感じてしまうのだけど静香の気のせいなのだろうか?


こうして試験と実習漬けになるのを外部からぼんやり眺めると、どことなく医者に通じるものがあるような気がする。

これから年明けまで更新が不安定になると思います。申し訳ないです。

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