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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
281/285

280.記念撮影会(2)

小田桐玉将視点です

天道二冠とはあまり指したくない。オフレコの場であればそう口にする棋士は多い。その理由は様々だけど、一番主な理由は「女性」で「強い」ことだ。


ただでさえ御厨名人、櫛木竜帝がいるのに、自分がタイトルに出る機会が失われる。若手が危惧するのは理解できる。


だが勇のような中堅やそれより年上の棋士が言うのは少し違うと思う。プロの競技が成立するためにはスターの存在が不可欠だと思う。何もしなければ少子化と趣味の多様化が続くのは当たり前だから、競技人口もファンも減っていくのが目に見えている。


だから今の梅原会長はもちろん歴代の会長たち、そして勇自身を含む棋士会でも常に新たな取り組みを行っている。だがそんな努力が台無しになるようなことも起きる。その一方で労苦が実ることもある。


その際たるものはスーパースターの登場だ。将棋界の場合幸運なことに、御厨名人、櫛木竜帝という若くて人気も実力もあるスーパースターが立て続けに産まれた。勇は将棋以外のことは知らないけれど、おそらくどの競技でもスターは突然産まれるものではないと思う。継続的な普及活動や、育成に関わる人々の地道な努力が必要だ。


確かめようのない話だけれど、将棋でいえば御厨名人や櫛木竜帝に匹敵するような才能の持ち主が実は同世代に何人もいて、その多くが将棋に触れることなく友人とカラオケを楽しんだり、受験勉強にいそしんだり、部活動に汗を流しているのではないかと思う。


そういう人知れず失われてしまう才能にできるだけ早い段階、小学生かそれ未満で将棋に触れる機会を与えることができれば、今よりももっと良い循環を作り出すことができるはずだと勇は信じている。


将棋に興味が持ったことのない大人の人も、将棋に興味がない小学生にも将棋を知ってもらうことができれば自然にファンも増え、新たな才能が将棋の面白さに気づき、スポンサーを務めても良いと言ってくれる企業が出て来る。プロの興行であるからには、常にそのような努力を続けなければこの時代ではすぐに立ち枯れてしまうという危機感を勇は持っている。


でもそんな勇にも評価が難しい相手がいる。現在対局相手として目の前にいる天道二冠だ。


間違いなく強い。

疑うところなく人気がある。

なんなら将棋を知らない人でも彼女のことを芸名で知っている。


彼女は将棋界に大きな影響を与えた。勇が良く行く将棋道場でも子ども、特に女子が増えたという話を聞くようになった。彼女の影響力は名人や竜帝よりも大きい。


でも正直な話をすると勇も彼女とはやはり対局したくない。「女性」で「強い」こと とは別の点で。


ひとつは時間を使わないこと。


持ち時間が短い一般棋戦ならば構わない。でも玉将戦は持ち時間が8時間あって、スケジュールが決まっている。だいたいこんな感じ。


09:00 対局開始

10:30 おやつ(午前)

12:30 昼休憩

13:30 再開

15:00 おやつ(午後)

18:00 封じ手


これは1日目だけれど2日目も基本的には同じ。違うのは対局時に封じ手が開封されるのと、早くも遅くも終局で終わること。


昼食は「将棋めし」と呼ばれ、その棋士のファンでなくても注目されている。特に地方対局の場合は地元の名物を頂くのが普通だ。午前と午後のおやつもそれに準じると言って良い。


第一局は京都だったから昼食にはおばんざいと懐石弁当を頂いた。この第二局は仙台なので朝のおやつはずんだ餅を選んだ。


こういった取り組みはとても良いことだと思う。将棋にあまり興味が無くても近くで対局があるなら行ってみようと考える人もいる。地元の宣伝になるならうちを使って欲しいと会場を提供してくれる人たちもいる。素晴らしいことだ。


だがここで一つ懸念事項ができてしまう。天道二冠は極端な早指しだということ。幸いなことに彼女は空気を読んで、関係者の顔を立ててくれる。今のところは。


彼女は第一局でも、この第二局でも普段より時間を使って指していた。ちゃんと考えるべきところで時間を使っている。


順位戦の持ち時間は6時間あるが、彼女は以前対局相手に断った上でだが仮眠をとったことがある。流石に中継が入るところまで昇級してからはそのようなことはしていないと聞く。


でも彼女が考えているのは次の一手かは不明。今もまだ序盤なのに小考しているが、局面とは違うことを考えているのではないか? その疑いを勇は捨てきれない。


だがそれはまだいい。多分勇は対局者だからそれを感じてしまうだけで、周囲から見ればおそらくとても自然なはず。なんたって彼女はプロの女優だから。


でもいつまでこの理想的なペースを保ってくれるのかは不明。彼女は悪い意味でも空気を読む。玉将戦の第一局、SNSで最もバズっていた投稿は、天道静香二冠が対局中どれくらい寝るか、というものだった。それに対して、そんな失礼なことはしないだろうという良識的なコメントもあったけれど、居眠りしているところは是非見たい、というコメントの方がはるかに多かったことだ。


あの棋風なら、2時間あればまとめられるんじゃない?

千夜の寝顔が見たい

わかる、できれば居眠りじゃなくてごろんと横になって欲しい

だらしなくよだれを垂らしたらイメージダウンだろ

それがいいんだろ

もっとだらしないところを見せるべき


そのようなネットの声に彼女の好奇心が刺激されないか、勇はそれを今も心配している。


他にも勇が天道二冠と対局したくない理由がある。


将棋が本業……かもしれないが、少なくとも専念していないこと。あとお金に無頓着なところ。タイトルの名誉は欲しているだろうけれど、彼女の年収を考えると賞金には執着していないはずだ。


そして表情が読めないところ。


ポーカーフェイスという言葉がある。勝負師ならば身に付けて当然のたしなみ。その時点での形成判断や自分の失着やブラフを悟られないようにするためには、表情を消すのが最適解。だから将棋に限らず世界中の勝負師たちはポーカーフェイスを覚える。


だが彼女は表情を露わにする。


『表情がある方がファンのみなさまにもわかりやすいかと思うんです』


いつだったか、そんなことを新聞の観戦記で読んだことがある。だがその表情が彼女の本当の感情だと誰がわかる? 先ほどの考えと繋がるけれど彼女は女優だ。自分が劣勢の場合でもその気になれば自信満々に振舞うことができるだろう。


だから勇はできるだけこの対局相手の表情を見ないことにしている。そのように思考誘導を仕掛けることも可能なはずだ。 このように考えさせることが、実は彼女の盤外戦術なのかもしれない。

先週から新作を始めたので改めて、本作含む拙作の宣伝です。


【連載中】

みんなで私の背中を推して

連載開始当初の予定:100話目途⇒現在:274話  5,760pt

https://ncode.syosetu.com/n7493hm/

現代を舞台にした女主人公最強系のお話。芸能界+将棋です。そろそろ終わりが見えかけてきましたが、それでも350話ぐらいになりそうですね……


Stay Here

連載開始当初の予定: 30話目途⇒現在:5話   172pt

先週連載開始した競馬ものです。


【完結済】

音楽室と体育館  全169話  1,152pt

https://ncode.syosetu.com/n7547gz/

バレーボールをこよなく愛する音楽教師の主人公最強もの


ミスターフルベース 全16話  630pt

https://ncode.syosetu.com/n7878gi/

高校球児が甲子園で起こす奇跡のワンプレーのお話


夏の潜水艦  全23話  518pt

https://ncode.syosetu.com/n9256jo/

アンダースローに転向した高校球児のお話


宰相の失脚  全17話   252pt

https://ncode.syosetu.com/n9550gj/

ナーロッパの成り上がり系のお話


リージア顛末記  全14話   160pt

https://ncode.syosetu.com/n9782hn/

ナーロッパ世界で国王が4人の王女のうち、最も王配として優れた婚約者を連れてきた娘を後継者にしようとするが……


桜の下の彼女   全12話   128pt

https://ncode.syosetu.com/n8398gu/

毎晩、幼馴染の女の子に酷いことをしてしまう夢を見る男の話。

個人的にはお気に入りですがポイントが低いです


音楽性の違い   短編   128pt

https://ncode.syosetu.com/n6684kw/

人気デュオが「音楽性」の違いから解散するお話


以上です。本作ともどもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
将棋と女優を並行させてるストーリー、ダラダラと続く作品よりかは終わりがある方が、どんなエンディングなのか楽しみ
残すところ、後76話ですか。 少し残念ですが、頑張って最後まで読みたいと思います。
やっぱり対戦相手は色々考えてますね。 時間を使う使わないはなあ…時間かければ相手も読んでくるから思考続けない訳にもいかないし 主人公は思考力と体力上の問題からその辺を最適化して今のスタイルになってます…
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