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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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278.木枯らし(10)

年末年始は大学がない。そして対局もない。将棋のイベントと言えば年始の指し初め式ぐらい。でもその分芸能のスケジュールが詰め込まれている。千夜は朝からいろんな媒体を駆けまわる。そんな中のオアシスがスポーツ雑誌の取材。


以前は静香がインタビュアーとして御厨先生にインタビューしたこともあるスポーツ全般を広く扱う「número」の記事だ。将棋もスポーツとして扱ってくれる素晴らしい雑誌。 だからこれは静香の仕事。千夜のお仕事は頑張って背伸びをしている感じがするので、こちらの取材の方がありがたい。


--- それでは天道二冠に今年を振り返って頂こうと思います。


「良い一年だったと思います」


--- それはやはりタイトルを取ったというのが大きいでしょうか?


「もちろんそうです」


ここで謙遜しても仕方がないので静香は素直に答えた。だってタイトルホルダーですよ。現在の将棋界では女流を含めても5人しかいない。師匠の大江九段がタイトルを取ったことがあるかないかで棋士の扱いは全然違う仰っていたのを思い出す。まだ奨励会で足掻いていたころの私に今の状況を教えてあげたい。


でも昔の静香が聞いたら、案外ここまでこれなかったのではないかとも思う。


--- 今年の天道二冠の活躍ぶりは目を見張るものがありました。鋭王そして棋神を続けて奪取されました。


「はい。正直自分でも出来過ぎだと思うので、来年そのぶり返しを覚悟しています」


--- 年が明けると早速大一番がありますね。


「そうですね。なかなか難しいとは思いますが、調子の良いうちに目指せるタイトルは全部狙っていきたいです。一旦悪循環に入るとなかなか抜け出せなかったことを奨励会時代に経験しているので」


--- 難しいというのはやはり二日制ということですか?


「単純に小田桐玉将が強いというのがまずあります。そして二日制、持ち時間8時間というのも私には未知の世界なので厳しいかと」


静香は二日制の将棋の経験がない。学生ということもあり記録係になったこともないし、当然正副の立会人の経験もない。もしかするとこれまでに鎌プロに打診があったのかもしれないが、静香は何も聞いていない。


--- 二日制はやはり違いますか。


「違うでしょうね。年が明けたら思い知ることになると覚悟しています」


--- 二日制の8時間よりは持ち時間がやや短いですが、順位戦も好調ですね。


「まだ気を抜くことはできませんが、今の所は望外の成績です」


今のところ全勝をキープしているので昇級には最も近い場所にいる。でもあっさり決まるかと言うとそんなことはない。野球やサッカーなどのスポーツで良く言う「流れ」は将棋にもある。それはひとつの試合/対局の中でもあるし、その大会/棋戦の中にも、一戦一戦の積み重ねの中にもある。


どの世界でも逆流を遡るのは難しい。


--- 昨年までの天道二冠には、持ち時間が短い将棋が本領だと思われていました。ですが、最近は持ち時間の長い将棋でもきちんと結果を出されてます。


「私自身はまだ時間の使い方は模索中です。年明けの玉将戦の課題のひとつだと思います」


昔はタイトル戦で寝る棋士もいたそうだけど、近年は聞かないな。静香は順位戦でもそこそこ寝ていたが、B1で中継が入る日は短時間の仮眠に留めている。対局者に対してはルールとマナーの問題だけど、視聴者に4時間動きのない盤面を中継させるのはちょっと頂けない。


だが世の中には変わった人もいて、静香が仮眠に入った時『疲れているだろうからこのまま5時間ぐらい寝て欲しい』というコメントがものすごく『イイネ』されていたので、一度試してみても良いかもしれない。その場合予告した方がいいのかは悩む。


--- ところでご存じかもしれませんが、最近ネットでは天道二冠の将棋は殲滅戦が多いというのが評判になっています。


「殲滅戦」という言葉は将棋では聞いたことがない。相手の王将以外の駒をすべて取ってしまうという、「全駒」というマナー違反があるけどそのようなものだろうか? でも相手の頓死を除けば、一方的に蹂躙した対局など静香の記憶にはないような気がする。女流順位戦のD級にいた時も、その辺はちゃんとした将棋にしたつもりだ。


「殲滅戦ですか?」


--- はい。一方的な蹂躙というわけではなくて、盤面から多くの駒が消えてお互いの駒台がいっぱいになることです。


昔の王者戦で両対局者の駒台があふれたことがあると聞いたことがあるがそのようなものだろうか?


静香に限らず近年の将棋は、あまり玉を囲まない対局「も」多い。御厨先生がその典型で裸玉でも攻め続けることがある。確かに静香もその系譜に分類されるかもしれない。実際急戦大好きだし。


また角換わりなど早めに大駒を持ち駒にして、成らせて相手陣を荒らすという戦法も静香に限らず多いような気がする。


「それは特に御厨先生の影響による今の将棋のトレンドだと思います。私に限った話ではないと思います」


--- ですが、天道二冠の対局では互いの駒台に何枚乗っているかを数えるのが流行っているようですね。盤上から駒が消えていくので「木枯し流」なんて名前が付けられたりしています。


静香もいつか自分の名前がついた戦術ができればいいな、と思っていた。「天道システム」とかいいんじゃないかな? それで「升田幸三賞」とか取ってみたい。でも自分の知らないところで名前が付けられていて、しかも戦術じゃなくて経過というのが悲しいところ。


「そうですか……楽しんで頂けているのであれば幸いです」


静香はやはり複雑な気分になった。




今年度第3四半期成績(10月~12月)

10月上  女流玉将戦 第1局     〇 向田雪 白銀

10月上  将棋チャンピオンシップ準決勝  〇 御厨陽翔 名人

10月上  玉将戦 本戦L 第2局    〇 御厨陽翔 名人 (第一局は抜け番)

10月上  順位戦 B1 第5局     〇

10月中  棋奥戦 敗者復活戦 2回戦 ● 月影拓也 八段

10月中  公共放送杯 本戦 3回戦  〇 武田将運 五段

10月中  白銀戦 A級 第1局     〇

10月中  女流玉将戦 第2局     〇 向田雪 白銀 <防衛>

10月中  玉将戦 本戦L 第3局    〇 月影拓也 八段

10月下  順位戦 B1 第6局     〇

10月下  女流王者戦 第1局     〇 大沼千風 女流四段

10月下  所沢桜花戦 第1局     〇 今泉七海  白銀


11月上  玉将戦 本戦L 第4局    〇 野々原朝 六段

11月上  星雲戦 決勝T 決勝     〇 御厨陽翔 名人

11月上  女流王者 第2局       〇 大沼千風 女流四段

11月上  玉将戦 本戦L 第5局    ● 櫛木蒼 竜帝

11月中  順位戦 B1 第7局     〇

11月中  将棋チャンピオンシップ決勝  〇 御厨陽翔 名人

11月中  公共放送杯 本戦 準々決勝 〇

11月中  白銀戦 A級 第2局     〇

11月下  女流王者戦 第3局      〇 大沼千風 女流四段 <防衛>

11月下  所沢桜花戦 第2局      〇 今泉七海 白銀 <防衛>

11月下  順位戦 B1 第8局     〇

11月下  玉将戦 本戦L 第6局    〇 早蕨大輔 九段


12月上  順位戦 B1 第9局    〇

12月上  玉将戦 本戦L 第7局   〇 海老沢直樹 九段 (挑戦者決定)

12月中  竜帝戦 3組 1回戦    〇

12月中  白銀戦 A級 第3局    〇

12月中  順位戦 B1 第10局    〇 櫛木蒼 竜帝

12月下  公共放送杯 本戦 準決勝 〇 月影拓也 八段


<今年度成績(4~12月)>

棋戦:50勝7敗   勝率0.877

女流棋戦:23勝無敗  勝率1.00

合計:73勝7敗

タイトル等:

  棋神

  鋭王

  女流王者(4期)

  所沢桜花(3期)

  女流玉将(3期)

  聖麗(3期)

  女流王偉(3期)

  女子オープン女王(4期)

  女流名人(2期)

懲りずに9/8、来週月曜から新作を投稿しようと思います。本当は切り良く今日、9月の頭から始めたかったのですがちょっと間に合わないのです。なのでここで宣言して自分を追い込んでいきます。


Stay Here(仮)

競馬+恋愛もの

零細地方馬主が自分の人生を変える女性と馬に巡り合うお話です。

こちらは30話目途です。


本作よりも早く終わりそうですがどうなるでしょね。


あと本文にある、「昔の王者戦で両対局者の駒台があふれたことがある」というのは「第56期王座戦五番勝負第1局 2008年9月2日」のことですが、この棋譜を見ようと公式ページに行ったのですが、今はもうサポートされていないFlashPlayerが必要なんですよね……残念。

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― 新着の感想 ―
最新話まで再度読み直し終了しました。 やっぱりある程度長い小説は忘れてる部分も多いですね、私も主人公のような頭脳が欲しい…。 númeroとか完璧に忘れてて何だっけ?ってなりました、名人と対談した時で…
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