275.木枯らし(7)
秋。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、いろんな言い方があるだろう。静香にとっては女流棋戦で忙しい季節になる。
10月に入ってから将棋の対局が増えている。それは玉将リーグもだけど女流のタイトル戦にも言える。
10月の頭に女流玉将のタイトル戦が始まって 向田雪白銀に2連勝し挑戦者を退けた。それが終わるとすぐに女流王者のタイトル戦があって、大沼千風女流四段の挑戦を受けた。
女流王者はある意味特別な棋戦だと静香は思っている。何と言っても女子オープンと並んでアマチュアでも参加することができる。
いや竜帝戦だってアマ竜帝をとれば6組に参加資格があるけど、まあ普通に考えると無理。そもそもアマ竜帝戦はプロが戦う竜帝戦と別の棋戦と考えるのが普通。でも女流王者と女子オープンはアマチュアもエントリーできる、広く門戸が開かれた大会と言っていいだろう。
そして女流王者は、女子オープンすらも含め、他のプロアマの棋戦にエントリーすら許されない立場でも参加できる唯一のタイトルだ。静香はこれを意義深いと思っている。
とは言え、女流王者も静香は容赦なく勝った。だが女流王者戦が終わる前に今度は所沢秋桜のタイトルをかけて、今泉七海白銀の挑戦を受けた。
おかしいと思わない? つい先日、向田白銀の挑戦を退けたばっかじゃん。
つまり静香が対局している裏で白銀戦も同時に進行しており、挑戦者の今泉先生が奪取したからこういうことになった。
だからもしこの後始まる女流順位戦のA級で静香が優勝した場合、今泉白銀に来年挑むことになる。静香自身はそう簡単にはいかないと思っているけれど、周囲から女流全冠制覇の期待を受ける立場にある。
白銀のタイトルが創設されてからまだ年数が浅いこともあって、現時点ではまだ女流八冠を達成した女流棋士はいない。静香がそれになるだろうとマスコミは期待している。
一方で、一部の女流棋士たちも静香の八冠達成を願っているという噂を聞いたことがある。いったいなぜそんな噂が立ったのかはわからない。何らかの誤解があったのかもしれないけれど気にしても仕方がないと思う。静香はいい意味でも悪い意味でも自分が噂になることに慣れてしまった。
ともかく来年に白銀に挑戦できたとするとこのスケジュールに白銀戦が追加されるのか……幸い今の静香は女流七冠なのでそれらの大会の予選には出ないで良い。白銀も取れれば女流順位戦には出なくて済むし、同じことが鋭王と棋神にも言える。スーパーシードでいきなり決勝戦、というかタイトル戦に参加できる。素晴らしい!
これが一般棋戦だと、例えば星雲戦の場合本戦トーナメントの11回戦から出る必要がある。それに勝って決勝トーナメントに出れる。本戦トーナメントの最終戦にシードされているのはわずか8名だけ。昨年優勝者として十分な配慮を受けているわけだから、それ以上は言うまい。
この女流タイトルラッシュに加えて当然ながら他の棋戦もある。玉将リーグ第2局、(第1局は抜け番)静香の初戦を御厨先生に幸先よく勝った2日後、棋奥戦の敗者復活戦で月影先生に負けた。
月影先生は後手でも強いんだよね。あと最近対局前には全然話しかけて来なくなったと思う。感想戦とかでは相変わらずマシンガン関西弁だけど新しいルーティンなのかもしれない。月影先生にはその後玉将リーグでリベンジしたので良しとする。
その後先ほど例に挙げた星雲戦と将棋チャンピオンシップ。どちらも決勝の相手は御厨先生だったけど、無事チャンピオンシップは連覇、星雲戦は三連覇することができた。さっきは悪いことを言ってしまった。一般棋戦最高!
でもそのふたつの決勝の間にあった玉将リーグの第5局では櫛木さんに負けた。そこまで全勝だっただけに痛い黒星。櫛木さんは海老沢先生と野々村さんに負けていたからだろうか、凄い気迫を感じた。
相手に気迫があったら不利なのかというと、そうでもないはず。気負うとろくなことにはなら無いと思うのだけど、負けた静香が言っても説得力がない。残りの2戦両方とも勝てば少なくとも決定戦には入れるはず。第6局の相手は早蕨先生で、第7局は海老沢先生。もちろんふたりとも強いけど静香の方が勝ち越しているから、玉将のタイトルにも挑戦できればいいと思っている。
千夜の方の仕事は、映画は前売りが好調らしいけど封切り近くなって販促が追い込み。千夜は主役だから一番頑張らなければならないのだけど、流石に渡米するのは難しい。しかたがないので、日本以外のテレビ局の取材は日本の支局で制作してもらっている。録画が多いのは時差があるから仕方がない 。
もちろんプラスドムーブ(プラスドクリップ社の動画サイト)を使ったキャンペーンもやっている。封切りに向けて映画で使った曲とかをネットでライブ中継している。結構な人が見てくれているけど、ちゃんと映画館にも足を運んで欲しいと切に祈っている。
あと販促活動と言えば、10月末に千夜が始球式したギガンテスはその試合だけでなく日本シリーズでも優勝したから、来年の開幕戦にも呼んでくれるとのこと。 こうやってお仕事が繋がるのは嬉しい。
こんなごたごたしたことをやっているうちに映画の封切りの日になったので、千夜は日本での舞台挨拶に向かった 。こちらはひとりで対応。そしてその日が終わる頃に、アメリカでの舞台挨拶にリモートで参加した。鎌プロの事務所からだから味気ないけど、監督が頑張ってくれた。ありがとうございます。
昨日短編を投稿してみました。もしよろしければご覧くださいませ。
音楽性の違い
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