表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
271/284

270.木枯らし(2)

10月になると忙しくなるのはわかっていた。だから9月、大学生の夏休みの間に千夜は数多くの取材をこなした。掲載、あるいは放映されるまで時間がかかるコンテンツだってある。 映画の封切りは11月下旬だから、10月後半からそれらが少しずつリリースされるはず。


実際10月になるとやはり色々と大変になった。講義は夏学期と同じように朝から夕方までどっぷりある。臨床実習が増えたのでずっと緊張している気がする。臨床実習というのは実際の患者さんに触れる機会もある。その日の講義が終わるとぐったりするのは、日が暮れるのが早くなったからかもしれない。


来年度末には共用試験があるんだよね。共用試験とは臨床の場に出るために必要な知識を問うCBTと、技能・態度 を問うOSCEの二種類があって、両方に合格する必要がある。両方とも受からないと5年生からの診療参加型実習に参加できない。


そこでは指導医の元で医療行為を行うことになる。それに比べると静香たちがしている臨床実習は準備段階のようなもので、あくまで医療現場に慣れ、スタッフの動きなどを観察するのがメイン。


5年生以降に比べるとまだマシとは言え、実習というまたとない機会を一日休むとそれを取り戻すのは難しい。だが対局予定がこれでもかと入る。


ここで10月から12月までの間にある棋戦について復習。


順位戦は当然ある。B1だと13人の総当たりなので、多い時はひと月に2局ある。持ち時間が6時間もあるので夜中まで指す場合もある。静香は極端な早差しタイプだけど、それでもB1まで来ると最後まで走り抜けられるような相手がいない。


竜帝戦の3組のランキング戦は11月から始まる。


棋奥戦は決勝で負けたけど、敗者復活戦がある。これに勝てばもう一度御厨先生に挑むことができる。ただし二連勝が必要。


そして玉将戦決勝リーグが6局ある。リーグ戦の最上位者が小田桐玉将に挑むことができる。順位戦と比べると持ち時間は4時間なのは良い。でも参加メンバーは順位戦よりもえげつないし、対局間隔が短く2か月で6局あるのも困る。


一般棋戦では、公共放送杯とチャンピオンシップがある。今年もチャンピオンシップの司会の依頼があったけど受けることができなかった。12月になれば夕陽杯も始まる。


そして女流。静香はいよいよA級に昇級したが、これは11月から始まる。勝ち抜ければ来年の今ごろ、静香が唯一持っていない女流称号、白銀に挑戦することができる。相手は向田白銀か挑戦者の今泉さん。今泉さんが奪取すれば1年で奪還することになる。


それよりも問題は10月から12月の間に女流王者、女流玉将戦、所沢秋桜の3タイトルの防衛をしなければならない。


対局多すぎない? 学業が厳しくなる来年、さらに厳しくなる再来年……正直あまり考えたくないなあ。


ただ、鋭王戦と棋神戦の予選は既に始まっているし、年が明ければ決勝トーナメントもある。タイトルホルダーの静香はこれらには参加する必要がないので、この年末の3ヶ月が一番対局過多かもしれないので頑張るしかない。


そんなことを考えていると芸能のお仕事を入れて良いかという相談が明石さんから届いた。


当たり前だけど取材は先に受けることができるけど、生放送の場合はその日でないと受けられない。ニュース番組はもちろんだけど、歌番組やトークバラエティでも生放送を売りにしている番組だってある。映画の封切りに向けてそれらは既に予定を押さえていたのだけどそれが増えるのだろうか?


『生放送されますがちょっと方向性が違います。プロ野球の始球式です。日本シリーズの初戦、当然国家独唱もあります』


「始球式って今年一度しませんでしたっけ?」


静香は明石さんに聞いてみた。


『そうです。今回も水道橋ドームです。今シーズンの開幕戦で舞鶴さんが始球式をしました。今年のレギュラーシーズンで優勝したので縁起がいいとのことで、日本シリーズでも投げて欲しいそうです』


なるほど……私は縁起物なのかな。でもそれでお声がかかるのは良いことだ。レギュラーシーズン開幕戦は盛り上がっていたけど、日本シリーズの開幕戦もあれに負けないぐらい盛り上がるのではないだろうか? 前回はなんとかキャッチャーミットに届いたけれど、もう一度あれができるかは心もとない。


静香の投げたボールが明後日あさっての方に飛んだから負けた。そんな風には言われたくない。


「またボールの投げ方を練習したいんですけど、教えてくれる人っていますか?」


『わかりました。伝手つてはいくつかあるのでスケジュールしておきますね』


ありがとうございます。そう言って静香は電話を切った。やはり時間の効率化が必要だ。でも何を効率化すればいいんだろう? 


将棋の研究や大学を休んだ日の講義の取り戻しを、移動中にするのは既にやっている。日々の通学はもちろんだけど、女流のタイトル戦やチャンピオンシップだと地方対局も多いのでその時間に頑張る。


対局で相手が長考している時間は普通にその局面のことを考えているか、逆に脳を休めるために何も考えないことが多い。そもそも対局中、将棋に関係のない微生物学であっても教科書やノートを開いたりはできない。たまたま新しいメロディが頭に降って湧いてくることもあるけれどそれを意図的に行うのは難しい。


とりあえず年末まで頑張ろうと静香は思った。

7月9日追記


えっとですね。感想欄で始球式は前にしているというコメントを頂きました。

あれ? 本作でやったかな? じゃあ検索エンジンで

始球式 site:https://ncode.syosetu.com/n7493hm/


239話で思いっきり書いてますね。作品内では半年しか経ってません。

というわけで急いで修正しました。はぁはぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
2度目の始球式なのに初めてのような発言なのが多少変ですね
コーチに来たのが星一徹というオジサンで、筋力を強化するギプスを付けられたり・・・ そして静香は大リーグボールという魔球を習得する事に。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ