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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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268.ペンギンシアター(7)

大学生は夏休みが2ヶ月ある。宿題もない。だから十分な時間があるかというとそうでもない。はじめの2週間を有意義なアメリカ旅行で使った。その分のしわ寄せが帰国後に来た。


千夜はアメリカで観光していたわけではない。映画の撮影というメインのお仕事を無事に終わらせ、3夜連続ライブを盛り上げて終わらせた。ライブはプラスドムーブで3夜とも有料で中継されていた。元々はそのうちの1本がアーカイブとして残る予定だったのだけど、ゲストが出ずっぱりだったため、結局3本とも編集されたものが配信されている。


千夜自身はお仕事なので3本とも見た。仕事じゃなかったら1本だけで十分だと思う。でも熱心なファンは3本とも見てくれたようだ。多分セット割引があるからだと思う。収益が十分上がったので、ゲストに来てくれた3人にはギャラを上乗せして渡したと聞いた。


これだけ貢献したご褒美ということなのか、芸能の仕事は事務所が減らしてくれた。だから千夜は本来夏休みを満喫できるはず……だがそうならない理由は静香としてのお仕事が多いからだ。


静香はアメリカに2週間いた。帰国はビジネスジェットでスムーズだったけれど、それでも太平洋を跨ぐには時間がかかる。そして往路で借りていた時差の借金も返さないといけない。流石に帰国した当日には仕事は入れられない。


そんなこんなで静香は2週間の間に8局をこなすことになった。ほぼ2日に1局のペースで対局をこなす。対局の無い日は、朝から前日の棋譜をAIにかけて検討しそれが終わると翌日の対局相手の研究を泥縄的にこなす。そして寝て起きたらまた対局。


こんな厳しい日程になったのはなぜか? 連盟は必至でスケジュール調整をしてくれたむしろ被害者であり、のんき……ではないが渡米していた静香が完全に悪い。自業自得というやつ。


そして一番の被害者は静香を応援してくれているファンだろう。だから何が何でもこれらの対局には勝ち続けなければならない。対局者も被害者のような気もするが、過密日程の静香と戦うというアドバンテージもあるはずなので申し訳ないがここでは取り上げないものとする。


帰国した翌日は棋奥戦挑戦者決定トーナメントの3回戦。これに負ければ8月の対局がひとつ減るのだけれどもちろん勝ちに行く。静香は最近よく使う角換わりで連戦を白星スタートできた。


1日挟んだ翌々日は玉将戦の2次予選、決勝。相手は櫛木さんの兄弟子の田丸さん。


「随分ご無沙汰しております」


特に知人相手の時、上座に座る事にはまだ慣れない。この世界は狭いから知人だらけだけど、それでも濃淡がある。


「いやいや、めちゃくちゃ忙しいでしょ?」


「おかげ様で」


対局日をずらしてもらったのに、田丸さんの機嫌は良さそうなので少し気が楽になる。振駒の結果静香は後手になったのでゴキゲン中飛車を選択。中盤まで怪しいところもあったけれど、相手のミスを上手く咎めて勝利をもぎ取った。


対局後の感想戦でも田丸さんはそのミスについて触れていた。


「やはりこの手が悪かったかな」


「そう感じましたね」


「疲れてるよね。しかも今夜が前夜祭でこれから移動だよね。感想戦はこのへんにしておこうか」


田丸さんはちゃんと静香のことを調べてくれていて、さらに空気が読める人なんだな。静香は田丸五段を再評価した。


「でもこの写真集にサインくれない?」


静香は素直にサインしたが、田丸五段本人への評価は再度査定し直すことにした。


静香は時間をほとんど使わなかったのでまだお昼過ぎ、前夜祭は18時から。ありがたいことに会場は浜松なのでこれならなんとか間に合う。聖麗戦の前夜祭は和服に着替えたりしないので静香は遅刻せずに済んだ。なお検分には間に合わなかったがそれは想定通りなので仕方がない。


大沼女流四段との聖麗戦第一局。先に仕掛けて来たのは大沼先生なので、しばらく静香が受け続けることになったけれど、途中で大沼先生の攻めが切れたので、そこから後は静香は無難に勝つことができた。こちらはタイトル戦なので感想戦はもちろん、しっかりファンサービスもした後で、慌ただしく当日中に東京に戻る。


1日休みを挟んで星雲戦決勝トーナメント2回戦。相手は櫛木さん。なぜこんな準備不足の時に当たるんだろう。戦型は本局も角換わりで、なんとか一手差で勝てた。先手が取れて無かったら、あと櫛木さんがもっと短期戦に慣れてきたらかなり危うかった気がする。


そんなドタバタが8月末まで続いた。9月は最大でも7局だけど、大学がお休みのうちに千夜のお仕事もあるみたい。


今年度第2四半期成績(7月~9月)

7月上  星雲戦 決勝T1回戦   〇

7月上  棋神戦 第3局     〇御厨陽翔 棋神(名人・王者)

7月上  白銀戦 B級 第9局   〇(A級昇級) 

7月中  順位戦 B1第2局   〇

7月中  棋神戦 第4局     〇御厨陽翔 棋神(名人・王者)<奪取>

二冠(鋭王・棋神)/女流七冠(八段昇段)

7月中  星雲戦 決勝T1回戦   〇

7月下  玉将戦 2次予選2回戦  〇

7月下  棋奥戦 挑決T2回戦   〇 箱石鈴久 八段 (2回戦から出場)

7月下  将棋チャンピオンシップ 2回戦  〇 月影拓也 八段(2回戦から出場)


8月中  棋奥戦 挑決T3回戦   〇

8月中  玉将戦 2次予選決勝   〇 田丸勇吾 五段

8月下  聖麗戦 第1局     〇 大沼千風 女流四段

8月下  星雲戦 決勝T2回戦   〇 櫛木蒼 竜帝

8月下  順位戦 B1第4局   〇 海老沢直樹 九段 (第3局は抜け番)

8月下  棋奥戦 挑決T4回戦   〇

8月下  聖麗戦 第2局      〇 大沼千風 女流四段


9月上  公共放送杯 本戦2回戦 〇(2回戦から出場 )

9月上  竜帝戦 本戦2回戦    〇(2回戦から出場)

9月中  棋奥戦 挑決T準決勝   〇

9月中  聖麗戦 第3局      〇 大沼千風 女流四段 <防衛>

9月下  竜帝戦 本戦3回戦    ●御厨陽翔 名人

9月下  星雲戦 決勝T準決勝   〇

9月下  棋奥戦 挑決T決勝   ●御厨陽翔 名人


<今年度成績(4~9月)>


棋戦:32勝5敗   勝率0.865

女流棋戦:13勝無敗  勝率1.00

合計:45勝5敗


タイトル等:

  棋神(New!)

  鋭王

  聖麗(3期)

  女流王偉(3期)

  女子オープン女王(4期)

  女流名人(2期)

  女流王者(3期)

  所沢桜花(2期)

  女流玉将(2期)

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― 新着の感想 ―
櫛木君は本当に苦手意識もってそう 反対に名人は流石
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