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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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264.ペンギンシアター(3)

撮影は前倒しで終了。千夜自身の感触もそうだけど、ジョシュはじめ共演者たち、監督を始めとするスタッフ、プロデューサー、原作者も満足そうだったので、主演女優として良い仕事ができたのではないかと思う。だからと言って映画が売れるかはまた別の話なのがこの世界の厳しいところ。


撮影終了後も封切りに到るまではいろんな事が行われる。大きく分けるとポストプロダクションとマーケティング。


ポストプロダクションの中心は当然編集。コメディでタイミングが命なのは演技だけでなく編集も同じ。そして音入れ。効果音の他BGMを入れるけど、この映画ではジーリグ・リヒターが起用されている。現代クラッシックの作曲家として有名で、千夜とグラマフの授賞式後にチェスで対局したこともある。本作はコメディだけど視覚効果も重要。これらの作業の最中にも常に編集の手が入る。


そしてもう一つの柱がマーケティング。そのためにはまず封切りの時期を決める必要がある。アメリカでは年末近くの映画の封切りの機会は主に3つある。


ひとつは11月の第4木曜日にあるサンクスギビングデー。日本ではその翌日のブラックフライデーの方が耳にするかもしれない。この連休がアメリカの映画業界の稼ぎ時のひとつ。


次はクリスマス前。日本と違って家族で集まる場合が多いので、ファミリー向けの映画が良く公開される。そして最後が年末。


この時期は興行的にもそうだけど、アカディムア賞を狙うにもよい公開時期とされる。アカディムア賞の投票は1月末ごろから始まるので話題になりやすいのだとか。そうして話題になった作品が数多い。


今回の作品も当初、なんとか年内に公開してこの路線に乗せたいという思惑があったと聞いている。でも予想以上に撮影が順調に終わり、かつ編集作業も圧縮できる見込みなので、遅くともクリスマス。可能であればサンクスギビングデーに間に合わせたいというのがマーケティングサイドの考え方だ。


封切が決まれば、どの国でおよそ何館で上映するか。その目標を決めて交渉が始まる。時間の経過によってそれらはより細かくなり、具体的にどの映画館のどのスクリーン(シネコンとか複数のスクリーンがあるからね)でどの時間から上映するかが決まる。上映回数は封切り後も客入りで増減する。


それから宣伝。大物俳優の監督デビュー作品、世界的なベストセラーの初の映像化。これら話題性になりやすいネタがあるのは大きい。原作の小説を2時間枠に収める映画化には「これじゃない」という失望を観客に与える危険性もある。だが原作者が太鼓判を押してくれていて、それを公の場でも言ってくれているのはプラスに働くはず。


こうしたポストプロダクションとマーケティング。その集大成が試写会。試写会は他のお客さんより先に見られるラッキーなイベント。静香がまだ芸名を持つ前はそういうイメージを持っていた。応募したことはないけれど。


だがアメリカの映画関係者にとってはものすごく重要なイベント。


日本と同じように映画関係者を集めた宣伝、一般の人の口コミを狙ったマーケティング手段であることは同じ。でもアメリカの、特に今回のようなコメディ映画の場合、客席の反応をものすごく重要視する。観客の反応は分析され、そのデータを基にさらに編集の手が入る。


狙い通りに観客を笑わせることができたかどうか、それらを指標としてさらに編集作業が続けられる。


多分試写会が行われる頃には千夜もいろんな場で映画の宣伝をすることになるだろう。契約には入ってないけど、プレスツアーというメディア向けのイベントとかインフルエンサーとのコラボなどに動員される可能性もある。時間があればだけど。


もちろん契約に無くても、ことあるごとに宣伝をするのは主演女優の義務だ。どんな俳優だってそうするに決まっている。その一発目が今夜のペンギンシアターでのライブの初日ということになる。


ジーリグが作曲した映画のBGMは基本的にオーケストラが演奏するけれど、一曲だけは主題歌に使われる。千夜が作詞してジーリグ自身が編曲してくれた。その新曲も含め、ライブの練習とリハは十分にすることができた。これは撮影が早く終わったおかげ。こちらのミュージシャンとの息もばっちり合わせることができたと思う。


問題はゲスト。よくある話だけど、ゲストとは当日に短時間のリハをするだけで、ほぼぶっつけ本番。3日間それぞれ別のゲストが来てくれる。


2日目のケイトとは何度も一緒にライブをしたこともあるから多分問題ない。初日はR&Bの第一人者であるダニー=キアネーゼ。最終日はジャズの神様ローガン=パーキンス。このふたりと共演するのは初めて。超大物ミュージシャンだから能力的にはまったく心配はしていないけれど、ふたりのライブDVDを見るとアドリブしまくりなので千夜がついて行けるかが心配。


そういえばケイトだってライブが壊れない程度に無茶を繰り返してきたことを思い出した。逆に2日目が鬼門かもしれない。

6月前半は、土日とも遊びに行く日が続くので更新が安定しないと思います。

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― 新着の感想 ―
コメントで書いたのはディズニーの白雪姫の件です。 主演女優が原作の主人公を嫌いと公言するとか映画にとってマイナスにしかならない事しかせず映画は大爆死となったので、千夜さんの爪の垢でも飲ませたいなと。 …
宣伝するのは主演女優の義務。それ、某アニメを実写化した映画の主演女優にも言ってあげて(笑)
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