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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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262.ペンギンシアター(1)

全米2位の人口が集まる巨大都市ロサンゼルス。アメリカではL.A.と称される。その周辺も含めた、いわゆる「グレーターロサンゼルス」は人口は2千万に迫る。映画の都ハリウッドはもちろんだけど、東海岸のニューヨークと並ぶ一大エンター


テイメントの聖地でもある。


当然ライブハウスだって大きい。東京にだって3000人近いキャパシティを持つ巨大ライブハウスがあるが、LAには7千人以上入る、ペンギンシアターと呼ばれるライブハウスがある。ニューヨークには2万人収容できるステージがあるけど、あそこはバスケットやアイスホッケーの試合も行われるからライブハウスではない。全体の形も楕円型だから、千夜の感覚では多目的ホールに分類されている。


まあペンギンシアターでもバスケットの試合をしたこともあるけれど、こちらは形も箱型だからライブハウスだと千夜は言い切る。


なぜこんな力説をしているかというと、今回の渡米の一番の目的は映画の撮影。でもそのペンギンシアターでのライブを予定している。


箱が大きければいいライブができるわけではないむしろステージから遠い席のお客様にも楽しんでもらう必要があるから難しくなる。


前回、まだ高校生だった時にLAでライブしたのはもっと小さな箱。今回はペンギンシアターだし3日連続。ひとりのアーチストがメインで3夜連続でライブをするのは珍しい。


今や千夜担創設時からの古株となった大久保さんに強気すぎないか聞いたけれど、前もお世話になったプロモーターが太鼓判を押してくれたらしい。


幸いなことにチケットは発売まもなく売り切れた。豪華なゲストがいるおかげかもしれない。LA在住のアーチストも多いので、例えば日本まで来てもらうというようなことが無くて良い。ケイトみたいに日本でライブするからゲストと観光案内をお願いと連絡してくるタイプもいるけど。


考えてみるとファンクラブ会員向けの先行発売ですべて売りさばけたので、来てくれるお客さんは千夜のファンのはず。


もしかし他のアーチスト目的で千夜のファンクラブに入っている人がいるかもしれない? それでも売り切れたからいいや。


曲目はこの前発売されたアルバムの英語曲を中心に、他の英語曲はもちろん日本語の歌詞の曲も含めている。一般販売されたらファンクラブに入っているなら知ってるよね?


バックミュージシャンにも前回のメンバーと中心に一流どころを揃えてくれた。中には既に単独あるいはバンドを組んでメジャーデビューしてる人もわざわざ参加してくれるというからありがたいことだ。


残念ながら今年のアルバムを作成する際のメンバー、民族楽器の演奏者たちはいない。癖が強いし特定の曲しか使わないから仕方がないね……他の楽器で誤魔化すのも少し違うので編曲することにしている


夏学期の期末試験を無事に終えた千代とスタッフは今回も羽田からビジネスジェットでアメリカ西海岸に飛ぶ。自分の都合で出発時間を変更して、スムーズに出国できる。


これがタダなんだから本当にスポンサーはありがたいこと。ライブだってテーラー証券がスポンサーに付いてくれているし、プラスドムーブで有料配信される。ファンクラブ会員なら無料。


仮に食事も含め物販の売上がゼロでも十二分の利益が確定している。そう考えるとすべてファンの皆様方のおかげだ。熱心なファンがいるからこそスポンサーが付いてくれる。芸能界は好循環を作り出すまでが大変だけど、その循環を維持するのも難しい。


千代がここまでこれたのは我ながら奇跡だと思う。将棋も同じだけど相乗効果なのかもしれない。


LAに着いてすぐにするのは当然映画の撮影。千代が出ないシーンはすべて撮影済、さわりだけとはいえ一部の編集すら始まっていると聞いているので頑張らないといけない。


そして現場に向かうバスの中で確認すると監督から最新版の脚本が届いていた。太平洋を飛んでいるうちに更新された箇所はすぐに覚え、現場に着くまでに頭の中でシーンを何度もシミュレーションする。


シミュレーションに用いるのは台本だけではない。ゴールデンウィークにジョシュと語り合った役作り。NGも含めたこれまで取られた映像。アプリで通話した監督の表現したいこと。自分の表情で何をどこまで表現するか。セリフの間をどこでどう取るか。その時自分の手足はどこに配置するべきか。


カメラの位置、セットの小道具、ジョシュの立ち位置と手足と表情と発せられる言葉。それらすべての自分の頭の中で作り上げ、そこで自分をどうするべきかを考える。そしてそのバリエーションを考える。あるいは一旦候補として頭の片隅に置いて、全く別の表現を考える。


静香が将棋指しだから、千夜も似たように演技を捉えるようになってしまったのだと思う。自分の想像力に任せた演技をしていたのに、今は事前にこんなにいろいろと考えるようになった。


でもいざ本番になったら何が起こるかはわからない。監督が台本を変えた意味を千夜は誤って解釈しているかもしれない。ジョシュ=オースターがアプリで話したよりも深くキャラクターを掘り下げているかもしれない。


本番が始まったらできる演技はひとつだけ。それも将棋と一緒だ。違うのは将棋は1対1の勝負で、負けるのは自分だけの責任だということ。応援してくれている人がそれをどう解釈するかはわからないけれど。


演技は、少なくともこの映画では、ひとりではできない。それがOKかNGかを決めるのは監督だということ。そして監督が決めた基準、ベースラインを上回る演技をしなければわざわざ千夜を使う意味が無いと言う事。


現場に着くまでに千夜はその準備を終えた。後は撮影スタジオで努力ではなく結果を出さなければならない。

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― 新着の感想 ―
十数回は読み直しましたが対局シーンはよく分かりませんが面白い小説です。 撮影したこの映画でアカディムア賞の主演女優賞を受賞して更に背中を押されて将棋のタイトルを次々と総なめして行くのでしょうかな。
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