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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
262/284

261.鬼神(23)

---まずは今のお気持ちをお聞かせください


将棋に限らず、ありとあらゆる競技で耳にする質問。でも適切に答えるのは案外難しい。


『芸の無い質問ですね』


まかり間違ってもそんな回答をするわけにはいかない。舞鶴千夜は芸能人、つまり人気商売だ。そして静香と同一人物であることも広く知れ渡っている。百歩譲って静香が普通の棋士であれば、そのような悪役ヒール寄りの役作りもあり得るかもしれない。いや無いな。


「棋神は私の師匠の大江九段がかつてお持ちだったタイトルなので、また一歩師匠に近づけたのが嬉しいです」


---「また」というのは既にタイトルをお持ちだからですか


素直に「はい」とだけ答えてよい質問だとおもうけれど、それは千夜の中の人として芸がない気がする。千夜は静香の将来(病院創設・維持のための費用)だけでなく、千夜担のみんなはじめ鎌プロや多くの人に恩を返す義務も負っている。


『情報量が増えない質問は無意味だと思います』


空気の読めないキャラ作りであればそれもあり? だが静香は空気を読む。手筋だけでなく、空気も読まなければいけないところで仕事をしている。


「将棋を始め、奨励会に入り、棋士になり、女流のタイトルを獲り、一般棋戦を優勝し、昇段し、鋭王になりました。これらのすべてが私が歩み続けた一歩一歩の積み重ねの上に成し遂げられた奇跡だと思っています。棋神のタイトルは、それらに更なる軌跡を刻むことができた。そう快哉を上げたいです」


---奇跡を刻むというのは天道二冠らしい発言ですね


こう見えても静香は観客に見せる、聞かせるプロだから「奇跡」と「軌跡」の発音はわかりやすく変えることができたと思う。でもそれを指摘する野暮なことはしない。


『私、今ちょっと良いこと言ったんじゃないですか? 恰好よかったですか?』


お笑いもできるアピールをするならこういうのもありかもしれない。


「事前に出来る限りの準備を重ねてきましたが、それでも自信はありませんでした。自分の力を出し切れたのはもちろんですが、運も味方してくれたと思います。確かに奇跡だと思います」


---運というのは千日手で指し直しになったことですか


いい加減しつこいので架空のキャラ作りは止める。


「それも含め番勝負を通してです。実力、経験、体力、他にもありますが、いろいろ私の弱点や課題が浮き彫りになった番勝負だと思います。その中で結果的に勝ちを拾えたのはやはり運だと思います」


将棋は伝統文化。終局後のインタビュー。静香は勝者。この勝利によりタイトルを得た。できるだけ謙虚なコメントが求められるシーン。竜頭竜尾この態度を貫くべきところ。


---今後の対局について抱負を聞かせて欲しい


「雑な一手を指さないように心がけたいです」


近年の情報技術の進歩は社会全体に影響しており、当然将棋界にも大きな衝撃を与えた。インターネット、スマートフォン、そしてAI。パソコンで自宅から他の人と指せるようになり、ファン同士の交流が容易になった。スマートフォンやタブレットがあれば、通学の電車の中でも指すことができる。そしてAIは棋士の研究はもちろんだけど、将棋の観戦スタイルを一変させた。


AIができるまで(テレビやネットも含む)観客は自分で考えたり、棋士の解説を聞いて楽しんでいた。そしてそれらを上回る一手を指すことができれば、それは芸術だったと静香は思う。


でも今は棋士がAIが示す最善手を指せるかどうか、に変わった。AIの最善手以外は評価値が変わらなければ次善手、評価値が動けば悪手と判断されてしまう。ある程度目の肥えた玄人は別として、多くのお客様は芸術ではなく、ミスのない将棋を見たいのではないだろうか?


もちろんAIは機械であって人間ではない。マラソンランナーが車より早く42.195kmを走り抜けることを期待されていないのと同じように、現代の対局は人間どうしで行うもの。だから機械ではなくて人間についての理解を深めないといけないという矛盾がどうしても発生してしまう。そういう思いを込めて、静香はそれを雑な一手と表現したつもりだけど、それを上手く伝えることはできなかったと思う。


今年度第1四半期成績(4月~6月)

4月上  女王戦 第1局     〇 今泉七海 女流五段

4月上  玉将戦 1次予選 決勝 〇

4月上  王偉戦 本戦リーグ白 第4局 〇

4月上  鋭王戦 第1局     〇 海老沢直樹 鋭王

4月中  王者戦 挑決T 1回戦  〇

4月中  竜帝戦 4組 準決勝  〇

4月下  白銀戦 B級 第6局   〇

4月下  王偉戦 本戦リーグ白 第5局 〇

4月下  鋭王戦 第2局     〇 海老沢直樹 鋭王

4月下  女流王偉戦 第1局   〇 今泉七海 女流五段

4月下  女王戦 第2局     〇 今泉七海 女流五段

4月下  棋神戦 決勝T 決勝  〇 櫛木蒼 竜帝


5月中  王者戦 挑決T 2回戦 〇

5月中  竜帝戦 4組 決勝   〇

5月中  王偉戦 挑戦者決定戦  ● 御厨陽翔 名人(35連勝でストップ)

5月中  女王戦 第3局     〇 今泉七海 女流五段<防衛:4連覇>

5月中  鋭王戦 第3局     〇 海老沢直樹 鋭王 <奪取>

<鋭王/女流七冠> 

5月下  白銀戦 B級 第7局  〇

5月下  女流王偉戦 第2局   〇 今泉七海 女流五段


6月上  棋神戦 第1局      〇 御厨陽翔 棋神(名人・王者)

6月上  王者戦 挑決T 準決勝  ● 櫛木蒼 竜帝

6月中  棋神戦 第2局      ● 御厨陽翔 棋神(名人・王者)

6月中  玉将戦 2次予選 1回戦 〇

6月中  星雲戦 本戦 第11回戦 〇 武田将運 五段(Cブロック11回戦にシード)

6月下  女流王偉戦 第3局    〇 今泉七海 女流五段<防衛:3連覇>

6月下  順位戦 B1 第1局    〇

6月下  白銀戦 B級 第8局   〇


<今年度成績(4~6月)※7月分は第二四半期終了時に加算予定>

棋戦:15勝3敗   勝率0.833

      ※最多連勝  35連勝 歴代2位(昨季より通算)

女流棋戦:9勝無敗  勝率1.00

合計:24勝3敗


タイトル等:

  鋭王(New!)

  女流王偉(3期)

  女子オープン女王(4期)

  女流名人(2期)

  女流王者(3期)

  所沢桜花(2期)

  女流玉将(2期)

  聖麗(2期)


(参考:棋神戦終了まで)

7月上  星雲戦 決勝T 1回戦 〇

7月上  棋神戦 第3局     〇 御厨陽翔 棋神(名人・王者)

7月上  白銀戦 B級 第9局  〇(A級昇級)

7月中  順位戦 B1 第2局   〇

7月中  棋神戦 第4局     〇 御厨陽翔 棋神(名人・王者)<奪取>(千日手による指し直し後)

<八段昇段/二冠(鋭王・棋神)/女流七冠>

毎回四半期ごとに成績をまとめているのですが、今回は話の都合上7月に入ってしまいました。

これでやっとサブタイトルを変えることができます……

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― 新着の感想 ―
女流の成績が9勝ですが8局分しか記録がありません 女流王偉戦が前期までは五番勝負だったのが今回二番で終わってるから一局抜けてる? あと挑戦者が大沼千風となってますが240.鬼神(2)で >年度が替わ…
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