257.鬼神(19)
静香と武田五段との対局はお互いに時間をほとんど使わないという展開になった。それも超急戦。
振駒の結果静香が先手。4手目に5四歩と中飛車の予告をされた。後手はゴキゲン中飛車なのだろう。7手目に5八金右と上がり静香は急戦を挑むことにした。それに対して5五歩と返されたので武田五段は超急戦ウェルカムということだ。
静香も武田五段も早差し派でしかも急戦好きなのでこの展開は十分あり得た。12手目5六歩、同歩、8八角成、同銀、というストレートな角交換から続けて、3三角、2一飛成、8八角成。この18手目の時点で先手の静香は竜を作り、後手が馬を作るという派手な序盤になった
ここまで先手後手どちらもほぼノータイムで指しきった。前例があるからね。お互いに盤の隅にある香車を取る。
23手目に3三香と打って銀を狙う。銀が逃げれば4一の金が取れるのだけれど2二に銀を打たれて1一にいる竜との両取りをされてしまう。竜を見捨てノータイムで3一香成で銀を取る。この判断にも全く時間をかけない。ここまでも前例があるからね。
その後すぐに前例を外れ39手目に6三歩成で初王手をかける。互いに王様は囲めていない状況。静香は居玉で守りはやはり初手から動いていない6九の金と7手目の5八金右の2枚で守っている。
その後41手目に1八に角を打ち、45手目に3六角打と斜め二段ロケットをセットするという中々派手な一局になった。別に遊んでいたわけじゃなくて真剣に指しております。
65手目4二銀不成あたりでだいぶ有利になった。これは5一の香と5三の金の両取りを狙っているのだから当たり前だけど5二金の後で再度5一銀不成と続けるのがミソ。こうすると同金寄でとらなければいけないので、相手の金が2枚とも王から離れる。
81手目6三歩、同角、同桂不成で王手をしたところ、83手で武田五段が投了。双方がほぼ立ち止まらずに指し続けたので一局に要した時間は40分ちょっと。どこの縁台将棋なのかって感じ。でも指してる静香は楽しく全力疾走したし、視聴者への見せ場も多いエンターテイメント性の高い一局になったのではないかと思う。
そしてこれは静香の個人的な話だけど、不成にはロマンがあると思う。本局では5一銀不成以外の2手は成らないのが当たり前の手だけれど、それでも静香のテンションは上がった。いつか先達のように角不成による打ち歩詰め回避とかやってみたい。飛不成でも歩不成でもいいけどこれまでそのような状況になったことがない。対局ではもちろん研究でも。
ともあれ星雲戦は今年も決勝トーナメントに進出した。その後順位戦、B1の初戦ををなんとか白星で飾り、女流の順位戦も勝ち、星雲戦の決勝トーナメントの一回戦でも早速出番があって勝つことができた。このまま三連覇を目指したい。
順調そうに見えるが実はB1の初戦は危なかった。終盤に入ったところ、持ち時間が3分を切っていた国分先生が間違ってくれたから逆転できた。あそこで正着(これは囲碁用語)を指されてたら黒星発進になってしまったはず。不思議の勝ちでも勝ちは勝ち。このまま御厨先生との棋神戦も勝ちたい。
御厨先生との第三局、静香が先手なので絶対に勝たねばならないのだけれど、かなりの苦戦を強いられた。御厨先生だって苦しかったと思う。秒読みであそこまで正確に指し続けることができるのはさすが御厨先生。
でもなんとか193手という長い手数を使って勝った。最後は静香も一分将棋になっていた。持ち時間4時間、しかもストップウォッチ方式で持ち時間を使い果たすのを静香は初めて経験した。静香自信体力がよく持ったと思う。双方持ち時間無しは静香に有利だけど、あれ以上続いたらガス欠で負けていた気がする。これでも芸能でトレーニングしているけど男女差はなかなか覆せない。
だがやはり結果が大事。先にタイトルに王手をかけることができたのでよしとする。
次の第四局は後手番だから苦しいけれど、負けても最終局で先手が取れればチャンスはある。大学の試験期間前に、白銀戦はA級入りが決まったし、順位戦も連勝。そうそう、順位戦もB1からはストップウォッチ方式になったのでやはり雰囲気が違う。
こうして試験期間に入る直前に御厨先生との第四局に挑むことになった。学業と将棋の勉強、どちらも欠かすことができない。試験は純子先生のノートをフル活用させてもらう。将棋は御厨先生の棋譜研究が主。
今の御厨先生との力関係だと、後手番だと持ち時間が長いとなかなか勝てない。だから思い切った奇襲が必要かもしれない。それこそこの前、星雲戦で武田五段がみせてくれた超急戦ゴキゲン中飛車のような。
定跡をわざと外れてあまり見ない荒れた展開にして勝負することを将棋では力戦と呼ぶ。相振り飛車とかで見ることが多い。なお囲碁では同じ状況を力碁と読む。
経験よりも地力が試されるわけだけど、居飛車党の御厨先生がそれに乗ってくれるかな? 仮に乗ってくれても勝てるかというと難しい。だって後手から盤面を荒らすわけだから、少なくとも一時的には不利になる。最終局の振駒ガチャにかけて先手番の手順を研究した方がいいかもしれない。
いやいや、勝負を捨てるわけにはいかないので、いろいろ思考錯誤するのだけれど、やはり先手の方が研究しやすいと思う。
来週はお休みします。もしかすると2週空くかもしれません。
あとどなたか伝説の大山先生VS谷川先生の対局以外で、角不成、飛不成、歩不成が決め手となる棋譜をご存じであれば教えてください。永瀬先生のAIとの対局のは無しで。AI対AIのものでもありがたいです。