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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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253.鬼神(15)

朝、静香が教室に入るとクラッカーで祝福された。前もこういうことがあったなぁ。これって教壇でお話した方が良い奴? 


「皆さま応援、ありがとうございます」


そう言いながら教壇に向かう。3年生になると医学部は1限から5限までびっちり講義が入っているのでこんな朝っぱらから人が多い。それでも今日は異常。明らかに医学部でない学生もいる。


「こうやってお祝いして頂けるのでみなさまもうご存じとは思いますが」


ここで一旦言葉を切って周囲を見渡す。医学部以外だと将棋部の人もいるけど知らない人も多い。でもほとんどの人は将棋のことを良くしらないんじゃない? もちろん静香がいるから普通の大学生よりは知ってると思うけど。


「皆さまのご声援を賜り、昨日鋭王のタイトルを得ました」


ここで教室中の人々が拍手してくれる。正直昨晩の記者会見の時に受けた拍手よりも気持ちがいい。知り合いが多いから?


昨晩は感想戦を終えて天道静香新鋭王は合同記者会見に臨んだ。静香は女流七冠だし、一般棋戦で何度も優勝している。だから棋士の中でも記者会見に慣れている方だと思う。そんな静香でも今回の記者の数は多いな、と思った。


記者が多いだけでなく質問の数も多いし、その中にはプライベート寄りのものも多い。大一番の後だけあってとても疲れている。本来ならこのままこの高級旅館で一泊するべきなのだけど、静香は今晩のうちに東京に戻るつもりだ。だから正直早く終わらないかな、という思いが頭をちらつく。


はい、ここでいつもの合言葉。普及は大事。棋士の仕事の中でも一番と言っていい程大事なことなのです。


だから静香は笑みを絶やさず、愛想よく質問に答えた。この場にそぐわない質問については司会の梅原会長が静香が答える前に止めてくれたので助かる。撮影中の映画の話なんて聞かないで欲しい。


ともかく長い記者会見が終わった時にはもう遅い時間になっていた。本来の予定だと、明石さんに盛岡駅まで送ってもらって、そこから新幹線で東京に戻る予定だけど、ぎりぎり間に合った最終列車では仙台までしか行かない。


『仙台で別の車を用意して、私が東京まで運転します』


そう言った明石さんを止め、仙台からの夜行バスに空席があったのでそれをネットで予約し、今朝早くに東京に帰って来た。


ロケバスとかチャーターしたのではなくて、普通の夜行バスに乗るのは静香にとって初めての体験。乗る前、乗車中、車内、それぞれで明石さんに動画を撮ってもらった。使えるかどうかは鎌プロがバス会社に確認するという。


車内でもテンションが上がりなかなか寝れなかった。いやなかなか寝れなかったのは鋭王になったからか。まあ結局は疲れから寝てしまい、東京駅八重洲口に着く直前に明石さんに起こされた。そこからは鎌プロが用意した車で自宅に帰った。車に乗ったと思ったら、もう自宅だと起こされた。そこから家族にも祝ってもらいながら慌てて通学の準備をして、そこから電車を乗り継いでこの教室までやってきた。今もまだ電車通学をしているけれど、乗る電車も乗る場所も毎日変えることにしている。


まだ眠いがこの程度はいつものことだ。ともかく教壇であたりさわりのない感謝を告げた後、静香は定位置である山田純子の隣に座った。余裕をもって来たはずだけど、先ほどのお祭り騒ぎのせいであまり時間がない。


「さっきの純子が噛んでるでしょ?」


この講義を受けない学生たちが教室を出て行くので少し騒がしい。


「いや私も巻き込まれた方よ。マネージャー代を欲しいぐらいだわ。でもまあ静香が凄いことをやったみたいだからご褒美とチャラにしておくわ」


「そいつはどうもありがたいお話で」


静香がおどけて言うと純子が笑った。


「ちょうど静香の記者会見を見てたらメッセージが来たのよ」


「ニュースで? じゃあ結構遅い時間よね」


「ううん。ライブで流してたわよ。地上波で」


放映権はプラスドクリップ社が持っているはずだから、何らかの取引が行われたのだろう。静香がタイトルを獲った時のためにあらかじめ話がまとまっていたに違いない。まあ静香が知らなくても良いことだ。


「そっかあ。ところで昨日のノートだけど」


静香が純子にノートのおねだりをするところに教授が来て講義が始まった。


「天道、昨日はおめでとう」


第一声がそれか。でも静香はこの教授が将棋好きなのを知っていたからある程度の予想はしていた。八枚落ちで対局したこともある。


「ありがとうございます。単位ください」


静香がそう言うと生徒たちがみんなが笑ってくれた。


「いいよ」


教授も笑ってそう返してくれた。でも本当に単位をくれるかは多分成績次第なんだろうな。

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