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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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250.鬼神(12)

御厨先生に負けた2日後、静香は今泉先生に勝って女王戦の四連覇を決めた。もし来年も勝てれば永世称号が貰える。


女流戦では通算5期でクイーン称号が与えられる。例えば女流王偉の場合、「クイーン王偉」になる。「クイーン女流王偉」は間違い。これは試験に出るところです。


でも「女王」だけは「永世女王」。よく知らないが流石に「クイーン女王」はなんだかよくわからないと連盟も思ったに違いない。条件も他の女流棋戦の「通算5期」と異なり「連続5期または通算7期」になっているのは「永世」ゆえなのだろうか? 


また棋士の永世称号は引退してから名乗ることになる。現役の間は「永世称号資格保持者」という何とも言えない表現になる。一方女流では現役からクイーンを名乗れる。ここも試験に出るかもしれないですね。


さらに3日後の鋭王戦第三局、静香は海老沢先生に負けてもいいかなと思っていた。海老沢先生が二局目あっさり負けたのはこの第三局で勝ってそのままペースをつかむつもりなのだろう。そうであれば静香も同じことをすれば良い。負けるつもりで指して、海老沢先生の研究手を無駄遣いさせれば良い。


だが対局が始まってみると、静香が後手の相掛かり。というか31手目の2六飛まで、この前御厨先生に負けた一局とまったく同じ手順。


負けた記憶もまだ新しく、ものすごくやりにくい。そろそろ変化したいけれど、ここは6六歩の一択でしょう。これに対して先手はいろんな選択があるはずだけど、海老沢先生はまったく考えずに同角。やはり静香がこの前負けた対局を踏襲してくる。


海老沢先生はこの一局を研究してきたみたいだけれど、当事者である静香も当然AIを使って検討をしている。前例どおりだとこの局面は8六歩と飛車先の歩を突いた。これが悪手だったとは今も思わない。


ただこの34手目で同銀とする手もあるし、その後の展開も悪くはなさそうだということは調べてある。当然ながら海老沢先生は前回の一局を研究しているはず。ここで静香が分岐する可能性も考えているだろうけれど、このまま前局を続けるよりはここで自分から外れた方がいいと思う。


ここまでお互いにノータイムで突っ走って来たけれど、静香は5分ぐらい考えて同銀と前回の対局から外れた。海老沢先生がすぐさま同飛とし、静香も7一金と逃がすと当然のように6三飛成と竜を作られる。ここまでは規定路線。


次は飛車先の歩を突いて攻めるか、竜が怖いので早めに逃げ道を作る&相手の銀が上がってくるのをけん制するために守るか。静香は守りを優先し、3三の金を4四に上げる。静香に中盤を抑えられないように、5六銀と上がって来たので、静香は5四金 と角道を開けると、それを咎めるために海老沢先生が自陣の 7七に駒台の銀を補充する。


さっきから手番は静香が握っているけれど盤面は互角かやや不利? とりあえず手番を渡さないように、静香は唯一の持ち駒である角を2八に打ち込んだ。


47手目に6四歩を打たれたのを無視して、1七桂成、同桂、同角成でなんとか馬を作ったけれど、6三歩成を作られる。6筋には竜が利いているのでとても怖い。手番を渡してしまうけれど3二玉と逃げる。


ここで海老沢先生が15分考えて4六に桂を打つ。金桂交換に応じるわけには行けないので4四金と逃げると6二に歩を打たれた。静香の想定から漏れていた手だ。嫌らしいな。


ここで静香も考える。7一の金を捨てるわけにはいかない。ぐっと我慢して8四飛。そこから流れるように6一歩成、同金、6二と。金が詰んだと思うだろ? でも6四に香を打って生贄にすれば逃げることができる。6五歩、6二金、6四歩。


このまま6三に歩を打ってもさっきの繰り返しになるので5一に桂馬を打っ先に6三の地点を補強する。 6五香 、1八馬とお互いにさらなる補強を重ねたところで、6三歩成とまたと金を作られたのですぐに同桂とした。


この後同香成、同金、6四歩と続くと思ったのだけれど、先に2九銀を指された。これも厭らしいな。2七に馬を引く? いや6筋が不利になるけど、落ちてる銀を拾うべきでしょ。それに手が無いわけではない。


同馬 のあと、6三香成ができてしまったけれど、6七歩と相手の竜を止める。ここでまた海老沢先生の手が止まる。ここは同龍の一択だけどその後どうするかを考えているのだろう。静香が守るのか攻めて来るのか、それを推し量っているに違いない。


海老沢先生が5分程考えて予想通り同龍。静香は守りを選択し、また6一に金を落とした。海老沢先生はまた6筋に歩を打ちこんでくるだろうか?


ここで海老沢先生が時間を使う。30分程考えて 5八金と守りを固めたので、静香は3九馬 と寄って相手陣内に自分のテリトリーを拡げた。


6八玉、5一金と互いの陣形を整えた後、5三成香と寄られたので静香は虎の子の銀を6四に打つ。成桂が逃げれば攻めに使うつもりだ。


なんやかんや手番は行き来しつつも静香がイニシアティブを持っている。でも戦型はこれでもまだ悪い。先手玉の守りは金銀4枚に竜までいてガチガチだからね。


6三成香と逃げたので5五銀と上がる。ここで同銀と銀交換してくれれば同金で盤面の中央を静香の金が制圧できる。でも当たり前だけど海老沢先生はしっかり時間を使って7九玉と引いた。


静香は時間を使わずにまず8筋の歩を突いてから5六の銀を取る。こうすることで後で相手の銀で相手の竜の矛先を鈍らせる。

8六歩、同歩、5六銀、同歩、6六歩、同銀。


そのあと飛車の上下運動を挟んで、94手目に4九銀を打ち込む。これでまた持ち駒は歩だけ。静香は基本的に駒台の駒は使うべきだと信じている。


5九金と金を引かせてから 6七に歩を打つ。形勢はむしろよくなったのでは? そう思ったのだけど、無視して4八銀と馬を狙われた。


今度は静香が考える番。ここは時間を使わざるを得ない。同馬で銀と交換する。交換レートは悪いけど金を相手玉から離すことができる。3八等に馬が逃げるのはあり得ない。4九の銀を取られるだけだけ。他に良い攻め口が無いことを確認して静香は馬は切ることにした。やっぱり海老沢先生は強いけど単に角を渡すだけにはしたくない。


同馬、同金の後すぐに取ったばかりの銀を6八に打ち込む。さっき無視された 6七歩がいるからね。でも海老沢先生はすぐに指したので読んでいたみたい。同金、同歩成、同龍 、8七飛成と静香も竜を作った。


この虎の子の竜を活かさなければならないのだけどそうさせてくれない。105手目、海老沢先生が残り30分の声がかかるまで考えて7七銀打とした。6六の銀が下がったのではなくて持ち駒を使った。やっぱり全然私の思い通りにさせてくれない。静香はそう思いながら海老沢先生を見た。


海老沢先生が顔を真っ赤にして盤面を睨んでいた。

次回投稿は2月になります。さらに3月は投稿できないと思います。2月に3回は更新したいですができるかな……

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― 新着の感想 ―
なんとなく苦手意識のあるような海老沢鋭王相手に後手番でこれはいいのかどうか… 展開楽しみに待ってます
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