表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
245/284

245.鬼神(7)

大変ご無沙汰しております。

海老沢先生とのタイトル戦に集中したいのだけど、そううまく行かないのが静香の職業だ。ただでさえ学生で芸能活動もしている。


そして将棋もそう。


鋭王戦第二局の次の対局は、棋神戦決勝トーナメントの決勝。一発勝負なのでこれに勝てば御厨棋神が持つタイトルに挑戦できるという大切な一局だ。そしてこの後も静香には重要な対局が続く。


この対局が終わればゴールデンウィークになり、静香は主演映画の撮影のために渡米しなければならない。主演女優の出ないシーンの撮影はもう始まっているのだから今更キャンセルできるはずもない。


帰国したらすぐに王者戦の決勝トーナメント2回戦があり、その後は竜帝戦4組決勝、王偉戦挑戦者決定戦、そして鋭王戦第三局が怒涛のように押し寄せる。


私、大丈夫かな? 映画の撮影は夏休みにも渡米する時間を取っているが、それでも絶対に忙しいはずだ。絶対ヤバい。


そんなことを考えているから静香は下座に正座した状態で、上座に座ろうとする対局相手に声をかけてしまった。良く知っている相手なのに最近ご無沙汰していたからだ。


「なんだか竜帝と対局させて頂くのはとても久しぶりな気がします」


櫛木竜帝とは四段に同期で昇段を決めた間柄で、その後も師匠の池添九段とその門下の方々にはお世話になった。昇段した頃はまだ中学生だったけれど今年の春に卒業している。高校には通っていないと聞いた。まあ必要ないですよね。


「天道さん、そういうのやめてくださいよ」


「そういうのとは?」


静香には特に盤外戦術などをしている意識はない。


「普段はもっとくだけた話し方じゃないですか」


そう言いながら上座に腰かける櫛木竜帝。お互いに四段になった時に比べたら断然、そして前回対局した時よりも明らかに体が大きくなっている。流石に身長は静香の方が高いはず。静香は女性としてはかなり高身長だし体も鍛えている。でも体格では既に櫛木さんの方が良いかもしれない。つまり体力ではもう差が無い。


「これだけ多くのマスコミの皆様にもお越し頂いているので」


挑戦者決定戦なのだから当然各媒体の方々が来ている。でもこれだけの数がいるのは静香と櫛木さんだからだと思う。静香の初めてのタイトル戦がかかった鋭王戦の決勝と同じぐらい、この特別対局室が混みあっている。


でも確かに静香は対局前には話をしないことが多い。静香に限らず近年は誰もがそう。特にこういったテレビが入るような対局で、感想戦以外で話をする人はほとんどいない。


でも話しかけたこと自体ではなくて、話し方について竜帝からクレームがついたことに少し疑問を感じる。だが櫛木さんが無言で軽くうなずいたことに静香は落ち着いた。流石は竜帝だ。


櫛木さんは元々対局時間が長い方が力を発揮するタイプの棋士で、フィジカルが上がれば静香との差はより大きくなる。ただ棋神戦は持ち時間が4時間と最も短い3つのタイトル戦のひとつなので、比較的静香にも比較的分があると言って良い。他の2つの棋戦の片方が、現在海老沢先生に挑戦中の鋭王戦だ。


なお持ち時間4時間制の最後のひとつは去年準決勝まで行った棋奥戦。その準決勝で負けた相手が櫛木さん。櫛木さんとの対局はその時以来ということになる。


棋奥戦はあの後、棋奥戦独特の敗者復活戦でも負け静香は敗退。とはいえベスト4には入ったので、今期既に始まっている予選は免除されている。


つまり櫛木さんとの対局は、持ち時間4時間でも不利。使える武器をすべて使っても勝つのが困難な相手だ。


静香が勝ち上がっている棋戦では櫛木さんがどこかで負けていて、櫛木さんが勝ち上がっている棋戦では静香が負けている格好なわけだ。そして幸いなことに順位戦ではまだ対局が組まれていない。ふたりともここまで全勝でB2級を卒業しB級1組に昇級している。


あと半月もすればB1の組み合わせが発表される。定員のないB級2組は20人以上の棋士がいて、対局数は年間10局。だから櫛木さんとの対局はこれまで順位戦では無かった。B2から昇級できるのは上位3人だけど、全勝者であれば3人を超えても昇級することができる。


これがB1になれば定員が13人の総当たりになる。上位2人がA級に上がり、下位3人がC1に落ちる。だから必ずどこかで櫛木さんとの対局が組まれるはずだ。


ここでふと疑問に思う人がいるかもしれない。もしB2で全勝者が4人いたらどうなるのかと。櫛木さんと静香の他にあとふたり全勝者がもしいたら……。その場合は例外的にB1から4人が降級することになる。可能性としてそんなことが起こり得るのかどうかは知らない。


「それでは櫛木竜帝の振り歩先で、振らせていただきます」


振駒の結果はと金が3枚。幸先よく静香の先手だ。


「と金が3枚出ましたので、天道七段てんどうしちだんの先手番でお願いいたします」


戦型は最近勉強している角換わりにしようかな、そう考えながら静香は対局が始まるのを待った。

とりあえず無理矢理「未完結のまま約3ヶ月以上の間、更新されていません」を消そうと思います。


更新前にリハビリ用の作品を一本書きました。連載が終わってから宣伝するのもなんですが。しないよりは見て頂けるかなと思って。


夏の潜水艦

https://ncode.syosetu.com/n9256jo/


12/18追記:B2は昨年度に全勝しているよねというご指摘を頂きました。まことに申しわけありません。ご指摘のとおりなので先ほど本文を修正致しました。いつもいつも皆さま大変ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
綾瀬綾に天道静香と鑑定して欲しいけど、関東と関西じゃすれ違ったこともないだろうな。アメリカでも働いている場所が違う上に静香は野球に興味がない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ