238.タイトル(4)
今年度、静香は棋奥戦でベスト4に残った。でも準決勝で負けたし、敗者復活戦でも勝てなかった。玉将戦では挑戦者決定リーグ入りをするという快挙を成し遂げた。このリーグには7人しか在籍できないので、人数で言えばA級棋士より少ないことになる。だが戦績は2勝4敗で挑戦者になるどころかリーグ残留することすらできなかった。
このクラスの対局者は化物ばかりだから仕方がないよね……静香は学生だし、千夜名義での活動もあるしね……。そんなふうに割り切ってしまえるのであれば棋士なんてやめてしまえば良い。静香は彼らに勝たなければならなかった。でも今のままでは勝てないことを思い知らされた。
だから静香は密かに将棋の勉強時間も増やした。テレビ局への移動中、講義の合間の休み時間、対局者が指すのを待っている時間、レコーディングの休憩や待ち時間。それらの余暇を静香は将棋の勉強に費やした。頭の中で複数の将棋盤を動かしていた。
レコーディングの時間は増えたけれど、講義のコマ数が少ないので可処分時間はむしろ増えた。
千夜のアルバムのレコーディングが終わる頃、静香は夕陽杯を3連覇した。この事にはもう周囲の誰も驚かなくなっていた。静香のスケジュール調整の結果、夕陽杯の後に対局があった公共放送杯でも連覇を決めた。
星雲戦、チャンピオンシップ、夕陽杯、公共放送杯。今年度これら4つの一般棋戦すべてを千夜が制したことになる。これは7年前に御厨先生が達成して以来2人目の快挙だ。
そしてレコーディングが終わった。千夜は十分な手ごたえを感じた。参加してくれたアーティストにはひとりひとり礼を言った。千夜の音楽観はこれまで様々な体験によって変化してきたけれど、このアルバム作成もグラマフやグラスバレーフェスに参加したのと同じような転換点になると感じた。
アルバムタイトルはいろいろ迷った末に「Anytime but now」に決めた。最初は「Anywhere but here」「Anyone but you」「Anyone but me」などを考えていたのだが、それらはすべて過去の名作に使われている。だから「Anytime but now」。でもこれはこれで、さらなる将来の飛躍を誓う意味でもよいと思った。もっと探せばこのタイトルも多分誰か先達が使っているのだろうとは思う。
後は売上やプラスドムーブでの再生回数がどれくらい回るかだけど、これは千夜の思い通りになるかはわからない。そしてアルバムの発売に向けて各メディアへの露出を増やしている時、千夜は一つの対局を制した。
鋭王戦本戦トーナメント決勝。
千夜の手が、初めて8大タイトルに挑戦するところまで届いた。
1月上 女流名人戦 第1局 〇 大沼 千風 女流四段
1月上 白銀戦 B級 第4局 〇
1月中 順位戦 B2第8局 〇
1月中 竜帝戦 4組 2回戦 〇
1月中 女流名人 第2局 〇 大沼 千風 女流四段
1月中 夕陽杯 本戦 1,2回戦 〇〇
1月下 公共放送杯 本戦 準決勝 〇
2月上 鋭王戦 本戦T 1回戦 〇
2月上 女流名人戦 第3局 〇 大沼 千風 女流四段<防衛>
2月上 王者戦 2次予選 1回戦 〇
2月中 順位戦 B2 第9局 〇
2月中 王偉戦 本戦リーグ白 第1局 〇
2月中 棋神戦 決勝T 1回戦 〇
2月中 鋭王戦 本戦T 2回戦 〇
2月下 夕陽杯 本戦 準決勝・決勝 〇〇
2月下 棋神戦 決勝T 2回戦 〇
2月下 公共放送杯 本戦 決勝 〇
3月上 白銀戦 B級 第5局 〇
3月上 竜帝戦 4組 3回戦 〇
3月上 鋭王戦 本戦T 準決勝 〇
3月上 王偉戦 本戦リーグ白 第2局 〇
3月中 王者戦 2次予選 2回戦 〇
3月中 順位戦 B2 第10局 〇
3月中 棋神戦 決勝T 準決勝 〇
3月下 鋭王戦 本戦T 決勝 〇
3月下 王者戦 2次予選 決勝 〇
3月下 王偉戦 本戦リーグ白 第3局 〇
<今年度通算成績(4~3月)>
棋戦:58勝7敗 勝率0.892
※年度勝率 歴代3位
※年度勝利数 歴代10位
※最多連勝 25連勝(継続中) 歴代5位(暫定)
※最多対局数 (歴代では10位以下)
女流棋戦:27勝無敗 勝率1.00
合計:85勝7敗
タイトル:
女流名人(2期)
女流王者(3期)
所沢桜花(2期)
女流玉将(2期)
聖麗(2期)
女流王偉(2期)
女子オープン女王(3期)
一般棋戦:
公共放送杯(連覇)
夕陽杯(3連覇)
星雲戦(連覇)
将棋チャンピオンシップ
9月末、12月末の戦績から公共放送杯が抜けていたので密かに追加しました。