表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
237/284

237.タイトル(3)

千夜は稼げるタレントだからワガママが言える。


例えばこうだ。ありがたいことに半年程前から千夜に複数のビール会社からCMのオファーがきているらしい。3月になれば千夜は20歳になる。


ビールを筆頭に酒造メーカーの宣伝費は多いので、芸能プロダクションにとっても大得意先ということになる。


『えっと、お酒はまだ飲んだことがないですし、今の所特に飲みたいとも思わないです。でも受けた方がいいですか?』


だが千夜がそう言えばそれ以上その話は無くなった。しばらくしてから千夜は西さんに聞いた。


『あの……ビールの話って断っても大丈夫でした?』


西さんは明るく笑いながら問題がないと言ってくれた。


『舞鶴さん本人がそう言うのだったら仕方がないよね、ってビール会社の方もおっしゃってましたよ。多分どこの会社の方も、舞鶴さんがライバル会社で起用されるのでなければそれでいい、って思ってますよ』


そうなのかな? だが西さんは言葉を選んだような気がする。千夜を使いたいと言ってくださる会社の人の話はしたけれど、鎌田プロダクションにとって、あるいは舞鶴千夜担当チームとしてどう考えたかについては西さんは言及していない。


ともかく、関係各所がそのように配慮してくれているのはとてもありがたいことだと千夜は思った。だが同時にそれを当たり前だと思ってはいけないと自分を戒めた。


仕事を断る時はもっと影響範囲を考えてからにしようとも思った。レコーディングにケイトたち海外アーチストを呼ぶ話も、国内で大きなコンサートをするという企画も、結局春にアルバムをリリースしたいという千夜のワガママで断ったことになる。


千夜が断ればそれが通ってしまう。もちろん明石さんたちにも何らかの思惑があるだろう。ビールのCMの仕事を受けたくなかったけれど、一応千夜に確認しておきたかったのかもしれないけれど。


そしてゲストアーチストがいなくてもちゃんと売れるアルバムに仕上げないといけない。千夜は既に来日してくれているスタジオミュージシャンたちと一緒にレコーディングに励んだ。


国内外から集まってくれたミュージシャンとの交流は千夜にとっても有意義なものになった。多くの若手ミュージシャンと話すことができた。千夜はこの業界のビッグネームで、彼らの雇い主ではあるけれども、音楽に捧げた熱量はこの中ではかなり少ない……もしかしなくても一番少ないかもしれない。


一方この場にいるミュージシャンたちは、まだ10代の頃からそれぞれのキャリアを経ながら音楽で飯と食べている人たちだ。そして現状に満足せず、さらなるキャリアを積むために千夜のアルバムに参加して、そこに足跡そくせきを残そうとしている。バンドに所属していても、フリーのプレイヤーでも、自分の理想の音について熱心に語り、議論を続ける彼ら彼女らは千夜にとってとても眩しい。


また千夜にとって単純にいろんな種類の楽器とその奏者に触れる機会にもなった。ただし今回のアルバムでも電子楽器を使わないので、そのあたり大きな偏りがあることは千夜も理解している。


千夜がこれまで使ったことのある楽器はギターとベース、そしてピアノだけだ。ギターとベースは問題なくコンサートで弾けるレベルだと自負しているけれど、ピアノは作曲の時に便利だから使っているだけ。人前で弾くにはまだまだ恥ずかしいレベル。


トランペット、サックスなどの金管楽器、クラリネットなどの木管楽器、ドラムを始めとする各種の打楽器。ヴァイオリンからコントラバスまでの弦楽器。一応は専門家である千夜も知らないテクニックを使うアコースティックギターの達人もいる。


今回のアルバムでは多くの楽器が使われている。和楽器では尺八や三味線。インドのシタール。カリブ海の島国で発明されたスティールパン、楽器上にまたがるようにして叩くカホンなどは静香も知っていた。だがポルトガルの弦楽器クアトロ。クアトロは数字の4なのに5弦あったりする。ふたり一組で演奏するマレーシアの太鼓、ルバナ・ウビ。静香が知らなかった楽器も一杯ある。


千夜は多くのミュージシャンと語り、彼らと楽器が出す様々な音色に触れることで、編曲をやり直したり、次のアルバムのための曲を作ったりしていた。


そしてレコーディングの合間に大学に行ったり将棋を指す。


大学はいよいよ2年生も終わりが近づく。3年生になったらキャンパスが本郷に変わる。静香の場合これまでは下北沢で井の頭線に乗り換えていたけれど、新宿まで行って中央線でお茶の水に行って時間が合えば都バス。バスの時間が合わなければ30分ぐらい歩こうと思っている。


教養課程から専門課程に変れば、当然ながらより専門的な講義になるし実習もある。静香は1年生の時にTLPで単位を稼いでいるので今が一番学生としては暇な時期だ。


その一方、将棋ではこのシーズンが静香にとっての稼ぎ時だ。公共放送杯が大詰めを迎えるし、夕陽杯もある。当然順位戦や女流棋戦もある。だがこのシーズン、特筆するべきことはタイトルの予選だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ