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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
236/284

236.タイトル(2)

千夜のアルバムに参加するゲストミュージシャンには今の所以下のような名前が挙がっている。といっても大物ばかりだから、日本でレコーディングすることを考えると参加できるのはこのうちひとりかふたりだろう。


例えば……ケイト=オブライエン、スタンリー=ブラウン、アン=フェンティ、ローガン=パーキンス。彼らとのブッキングを西はあちらこちらで調整しながら進めなければいけない。


曲によってレコーディングする相手は違うので、来日する時期はずらせば良い。一斉に来る必要はない。それでも、千夜のレコーディングのためだけに日本に来るのはいろんな意味で勿体ない。なぜなら彼らは日本でコンサートしても普通に大ホールを満席にするだけの実力と知名度の持ち主だから。日本は米国からも欧州からも遠い。


そう言えば「日本」という国号も千夜が大海ドラマで演じた持統天皇が決めた。


そしてその一方、彼らに見合った大きな会場を今から確保するのは難しい。鎌プロがイベントのために抑えている中ぐらいの会場はこでプレミアムライブを開催するのがやっとだろう。その場合敢えて小規模な会場を選んだ、という形をとるのがベストだろうか。


もちろん本来予定していたイベントは別の会場で行うことになるが、少なくとも表向き抗議の声があがることはないだろう。


「でも舞鶴さんはそういうの嫌がりそうですよね。これはジャストアイデアなんですけど、いっそのことアルバムの発売時期を遅らせて、千夜が各アーチストを招待する合同コンサートにするのはどうでしょうか?」


魚住がそう言った。そんな世界的なアーチストたちを集めたコンサートを、これから突貫で作り上げる? そんなことが可能だろうか?


「ええっ、ひとりひとりでもブッキング大変なんですよ? 一斉になんて無理ですよ」


西は笑いながら言うが目は結構怖い。


「あとマーケティング的にもどうでしょうね? 大規模なコンサートになるなら、発売と同時が少し後の方が良いと思います。コンサート前にレコーディングしてたらディスクの発売はもっと遅くなりますよね?」


技術の進歩によって、録音してからリリースされるまでの時間は随分短くなった。それでも数日では無理。


そして今や音楽はサブスクモデルでデジタル配信されるのが当たり前の時代ではあるけれど、それでも目に見えるパッケージで購入するのを好む人もいる。そうしたお得意さんを時代遅れだと後回しにする。それを大久保は良しとしない。


「じゃあレコーディングは別に収録してあとで合わせましょうか」


レコーディングは各パートごとに別々に収録したものを、エンジニアが合成するのが当たり前。ただこの場合でも一緒にスタジオ入りして、他のパートが録音するのを聞いていることが多い。その方が互いの音を聴けるし、プロデューサーを交えて意見を交わすこともできる。それらのメリットはなくなるが、メンバーが世界のどこにいても収録することができる。


千夜がこれまでそうせずに、全員の出す音を収録することが多いのは、参加するミュージシャンの数が少ないことと、よりライブ感を出すため。


「レコーディングを遠隔でするのなら、ゲストをわざわざ日本に呼ぶ必要がないのでは?」


「なんとかスケジューリングしてこちらからあちらに行った方が良いのではないでしょうか?」

 

「それは本末転倒でしょう。ゲストなしの方がまだ現実性があります」


多くの意見が出て会議が発散しそうになる。このままではいたずらに時間を費やしてしまう。そう思った沙菜はチーフとして一旦この話題を打ち切ることにした。


「取り得る手段が出そろったので、この議論はまた今度にしましょう。舞鶴さんや社長にも相談した方がよいでしょうからね。残りの時間は近日中にやるべきことを確認しましょう」


そう言って沙菜は次の議題に進めた。たった4日間とはいえ全員が休みを取ったので、議題はまだ多く残っている。



「えっと、まあどちらでも良いかなと思います」


明石さんに意見を尋ねられた千夜は、彼女にしては歯切れが悪い答えを返した。そりゃあ作品を世に出すのだから売れて欲しいけれど、だからといって海外から人を呼びつけるのもどうかと思う。もちろん既に来てくれているミュージシャンたちがいるけれど、彼らは彼らなりの計算があって日本に来てくれた。もちろんとてもありがたいことだ。


でも逆にケイトたちがわざわざ日本に来る必要があるのか、というとそれは違うような気がする。たまたま先方の都合で日本に来るのであれば、千夜がゲストであちらのライブに出る、というのはアリだけど……それよりは早くアルバムを出したい。


そんなことを遠回し明石さんに伝えたらわかってくれた。


「そうね。ではレコーディングを先にしましょう。来週から入れるかしら?」


千夜にとってはとてもありがたいことに、基本的に明石さんたちは千夜の意見を尊重してくれる。大学に行くのも将棋を続けるのもそう。千夜が鎌プロにお金を還元しているから千夜のわがままが通る。


これがもし稼げないタレントだったら、当然ワガママを言うことはできない。いや明石さんたちは千夜の味方になってくれるだろうけど、鎌プロ社内はもちろん他の関係者が千夜のワガママを許さないだろう。

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