234.プラスドムーブ(7)
年末、プラスドムーブ1周年記念祭が始まると、舞鶴千夜は録画映像だけでなく、生放送にも出ずっぱりだ。メインパーソナリティとして音楽番組の司会を務め、毎日のように大物ゲストと遠隔で対談したり、そのライブ中継にお邪魔したりしている。この形式にも随分なれてきた。
しかも今日のメインアーチストはケイトリン=オブライエン、静香とはとても親しい仲なので随分気楽にできる。番組は段取り通りに始まる。まず最初に千夜がケイトを簡単に紹介する。その間イヤホンではケイトのライブの状況を聞いている。ライブはちょうど中休みが終わろうとしているところ。休み明け、最初の曲が始まると同時にプラスドムーブでも生中継が始まるという形式になっている。
『それではケイトのライブをどうぞ』
ケイトはケイトでこちらの動画を確認しているのでタイミングはバッチリ。東京のスタジオからロンドンのライブハウスへと映像が変わったので、千夜は少し休み時間になる。幸い今はトイレも大丈夫なので、素直にケイトのライブを見ることにする。
このままケイトが2曲連続で歌った後にMCに入るのだけど、そこで千夜とトークをする。ライブ会場にはこちらのスタジオの映像が映る。しばらくトークした後、千夜が自前のギターでケイトの曲の弾き語りを始めて、2番からケイトとあちらのメンバーと遠隔でセッションするという形式だ。
とはいっても東京とロンドンだからどうしても遅延が発生する。この2都市の間には1万km近い物理的な距離がある。地球一周は4万kmなので地球の中心から見るとほぼ直角程度離れていることになる。そして光は秒速約30万kmなので、仮に光の速さで通信したとしても0.03秒の遅延が発生する。
当たり前だけれどこれは理想的な話で、海底等に敷かれた通信ケーブルが両都市の間を真っ直ぐ結んでいるはずがないし、間には数多くの通信機器が挟まっている。だからなんやかんや0.2秒程度のずれが発生する。今回はプラスドクリップ社の技術とお金を使って専用のケーブルを用いているので遅延は0.1秒以下に抑えている。逆に言えばこれが現在の技術の限界だ。地球、というか天体の大きさを感じる。
ケーブルではなく衛星を使った方が速いと思うかもしれないけれど、テレビで使っているような静止衛星は地球から約3.6万kmの宇宙にあるのでやはり距離的な遅延が発生してしまう。
ではどうするか?
途中のトークのところは0.1秒の往復で0.2秒程度の時差ならば、少し違和感を感じる人がいる程度で済む。問題は演奏を合わせるところ。こちらはそうはいかない。
だからローテクだけど千夜が東京で演奏、歌唱して、それがロンドンのライブハウスに流される、それに合わせてケイトやその仲間たちが演奏する。そのロンドンの映像と音声がプラスドムーブに流されるという方式をとる。
ケイトの1曲目が終わり、2曲目が始まった。この曲が終わればケイトとのトーク。プライベートでは先週も普通に話をしているけれど、観客がいる場で話すのは久しぶり。そしてもちろん一緒にライブするのも。
トークが始まるまで千夜は、1万km先の友人のライブを楽しんだ。
<対戦成績(10~12月)>
10月上 女流玉将 第1局 準決勝 〇 蒔苗 あかり 女流二段
10月上 玉将戦 本戦L 第3局 〇
10月中 白銀戦 B級 第1局 〇 宮之浦 芳子 女流四段
10月中 順位戦 B2 第5局 〇
10月中 女流玉将 第2局 〇 蒔苗 あかり 女流二段<防衛>
10月中 将棋チャンピオンシップ 準決勝 〇 箱石 鈴久 八段
10月下 星雲戦 決勝T 決勝 〇 御厨 陽翔 名人(棋神、王者、玉将、棋奥)
10月下 玉将戦 本戦L 第4局 〇
10月下 女流王者 第1局 〇 向田 雪 白銀
10月下 滝山絹江杯エキシビション
10月下 所沢秋桜 第1局 〇 岩城 桔梗 女流六段
11月上 白銀戦 B級 第2局 〇
11月上 玉将戦 本戦L 第5局 ●
11月中 順位戦 B2 第6局 〇
11月中 公共放送杯 本戦 3回戦 〇
11月中 竜帝戦 4組 1回戦 〇
11月中 将棋チャンピオンシップ 決勝 〇
11月下 所沢秋桜 第2局 〇 岩城 桔梗 女流六段<防衛>
11月下 女流王者 第2局 〇 向田 雪 白銀
12月上 公共放送杯 本戦 4回戦 〇
12月上 玉将戦 本戦L 第6局 ● (本戦L陥落)
12月上 白銀戦 B級 第3局 〇
12月中 女流王者 第3局 〇 向田 雪 白銀<防衛>
12月中 順位戦 B2 第7局 〇
<今年度通算成績(4~12月)>
棋戦:34勝7敗 勝率0.83
女流棋戦:22勝無敗 勝率1.00
合計:56勝7敗
タイトル:
女流王者(3期)
所沢秋桜(2期)
女流玉将(2期)
聖麗(2期)
女流王偉(2期)
女子オープン女王(3期)
女流名人