表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
229/284

229.プラスドムーブ(2)

というわけで将棋連盟とプラスドムーブのコラボ企画が行われた。当然ながら静香/千夜が主役を務める。まずは海外向けの将棋紹介動画が作られた。


まずは動かし方、主にチェスとの違いを説明する。使う駒は国際将棋駒。海外の人にもわかりやすくした駒のことだけど、これにもいろんな種類がある。大きくわけると3種類。


チェスの駒の絵が描いてあるもの。例えば角ならばビショップの絵が描いてあるタイプのもの。そして駒に英語がかいてあるもの。金将ならGoldとか書いてあるもの。そして動ける方向が矢印で書いてあるものだ。今回の紹介動画では2番めの英語が書いてあるタイプを使った。


まずは初心者向けとして将棋のルールに関する動画を取って行く。長い動画は見てもらえないので、例えば駒の動かし方であれば一種類の駒ずつ紹介するなど、短い動画をいっぱい作る。このあたりの台本は連盟が作ってくれたものを使う。


そしてルールを覚えた人向けに9マス将棋を使ったパズルをする。9マス将棋を知らない人は検索して欲しい。9マスしかないのに中々奥が深い。その後実践編として囲い方などを紹介したり序盤の定跡を紹介したりする。海外向けなので英語を使うというところと、出演者名が MAIZURU Chiyo (TENDOH Shizuka) になっていることぐらいか……もしかしたら公式クレジットに静香と千夜の名前が並んだ初めての共演かもしれない。


こんなもので海外への将棋の普及が進むのかはわからないが、再生回数はやけに多い。だが普及を目指す当人である静香がこんなことを口に出しては言えないが、否定的なコメントの方が多いのが少し面白い。



こういうわけのわからない動画よりも歌ったり踊ったりしているところが見たい

チヨの本業のジャパニーズチェス、結構面白そう

ニューアルバムが音源だけでMVがまだなのに、こっちが先なの?

こっちが千夜の本業なの?

最近映画に出ていないと思ったらこんなことをしていたのか。カムバック!



なお静香自身は、本業は今の所学生だと思っている。


そして実戦もプラスドムーブに上げ、その解説を千夜(静香)自身が解説するという動画も作られた。企画者側は華々しい感じを出したかったのだろう。選ばれたのは下期最初の対局となる女流玉将戦第一局。ここでも滝山呉服店様から和装が、静香の分と対戦者の分が用意された。挑戦者はプロになってからは初対局となる蒔苗あかり女流二段。


蒔苗ひかり女流二段の双子の妹で、静香がずるずると降級し始めた3級の時、そして返り咲いてから初段の時に対局している。静香より学年がひとつ下の19歳だが奨励会では初段から昇段できず、今年度から女流に転向した。


奨励会在籍時には女流戦に一度も参加していないのに、この棋戦を予選から勝ち上がり挑戦者になると同時に女流二段に昇段した。下期から始まる白銀戦の予選とも言える女流順位戦に一度も出場しないまま挑戦者になるというのはやはり才能があるのだろう。


振駒の結果先手は静香(千夜?)。この対局がプラスドムーブで使われることを静香も、対局相手である蒔苗妹も知っている。もちろん手を抜くつもりはないが、時間はある程度使わないと解説をいれる時間がない。そのため静香はいつもよりもペースを落とした。このなんでもないところで手を止め、下手に時間を使うのは案外難しい。ペースを崩してしまう。


静香は基本時間を使わずに指す早指しが得意だ。最近の棋戦では長考することもあるが、あまり良い手が見つかることがない。自分が間違っていないことを確認するための時間として使うことになってしまっている。それはそれで間違っていないと思う。でもここのところ持ち時間が長いタイトルの予選で連敗しているので、やはり時間を使って深く読む力の必要性を静香は痛感している。


今の局面は中盤でぱっと見ても既に静香が有利。守りはお互いに十分なので新たな攻め口が欲しいところ、右の桂馬を跳ねるのが良いというのが静香の第一感。自分の手番になってから2分ぐらい考えているが、この手の後の進行で問題は見当たらない。そしてこれよりも有効な手筋も見つけられない。


2秒で指せたところで2分を無駄にしたが、それは動画のためと割り切ろう。静香は桂馬を跳ねた。そして静香は蒔苗妹の次の一手を考える。これも今まではあまりしてこなかったことだ。先ほど桂馬を跳ねる際に考えていたことを再度復習。後手は銀を上げてくるのが本線だが、その手筋だと静香が少しずつ有利になって行く。それを打開するためには大きく分けて、より守りを固めるか意外な攻めを繰り出すかのふたつ。だが当然リスクがある。


守っているだけだとこの後静香の仕掛けが発動すると最後まで殴られっぱなしになる。攻めた場合、その攻めで一定の主張を通すことが出来なければ、相手がより有利になる。奇策、あるいは紛れを求めて盤面を荒らし複雑化させた場合、相手に読み勝てるかが問題になる。相手との棋力に差がある場合はさらにリスクが高くなる。


静香は待ち時間の間も頭の中で忙しく何面もの将棋盤を動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ