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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
225/284

225.将棋チャンピオンシップ(8)

将棋チャンピオンシップの期間中、当然ながら他の棋戦も開催されている。


静香は星雲戦を連覇し、短期戦である一般棋戦に3大会連続で優勝を成し遂げた。今年度、のこりの一般棋戦でも静香が有利ではないかとネットでは囁かれている。だが静香自身はそんな上手く行くわけがないと思っている。


その理由のひとつは静香以上に短期戦に強いのではないかという棋士と対局したからだ。その名前を武田将運たけだしょううん四段という。


彼は奨励会に入会した経験なしにプロ編入試験に合格した初めての棋士だ。将棋を初めて指したのが大学生になってからだというから驚きだ。静香は武田四段の編入試験の際、試験官のひとりとして選出されていた。実際には静香と対局する前に編入が決まったので対局することはなかった。だから今回が初対局になる。


静香が5組の優勝者で、武田四段は6組の優勝者だ。その武田四段は当時まだアマチュア時代に参加したアマ竜帝のタイトルホルダーとして、アマチュア枠からの竜帝戦6組に参加している。アマチュア枠からの本戦参加はもちろん初の快挙だ。そして将棋を覚えてからプロになるまでの年数で言えば、静香はもちろん13歳でプロになった櫛木さんと同じぐらいだろうか? もしかしたら櫛木さんよりも短いかもしれない。


ニューアルバムのキャンペーンでテレビ局をハシゴしている間に彼の棋譜を調べた。静香が見た棋譜では武田四段は先手後手に関わらずすべて振り飛車。武田四段は珍しい振り飛車のスペシャリストだ。


そしてもう一つ棋譜を見て静香が気づいたことがある。この人の棋譜から大学の将棋部の匂いを感じる。1日に10局も20局も指す。1手10秒の将棋が当たり前、部内の公式戦とも言えるリーグ戦の持ち時間30分は長期戦と考えられている。


違うのは持ち時間だけではない。一見意味ありげだが最善手ではなく、わざわざ相手のミスを誘ったり、混乱させるための手を指す。B級戦法も使われるし、レグスぺなど一時はプロ棋士も使う戦術も大学将棋で産まれた。


大学に限らずアマチュア発祥の戦術が後にプロでも使われるようになった戦術には他にも中飛車左穴熊などが挙げられる。将棋はあらゆる意味で多くの愛好家たちによって支えられている。だから普及は本当に大事だ。


かなり幽霊に近いけれど、これでも静香は現在も将棋部に籍を置いている。だから、奨励会やプロとは違うあの独特の匂いを知っている。そして女流では振り飛車を指す人も多いので対振り飛車にも慣れている。段位や実績、年齢を考えても静香の方が有利な立場にいる。順位戦でも苦しんでいるようだし、武田四段も長い持ち時間を使うのはあまり得意ではないようだ。でもこの人と指すのは面白いだろうな、と静香は思った。


武田四段との初対局、武田四段はもちろん静香にとっても竜帝戦の本戦トーナメントに出場するのは初めてだ。振駒の結果静香は後手になった。後手になったら相振り飛車にすると静香は決めていた。


お互いに角道を開けた後の第3手、武田四段はノータイムで6筋の歩を上げた。この時点で戦型は矢倉か対抗形か相振り飛車になる。静香もノータイムで6筋の歩を突き返す。これは比較的最近開発された手筋だが武田四段はさすがに知っているだろう。これで相振り飛車はほぼ確定。相手は7筋に飛車を振って三間飛車となる。


静香は6筋の歩を更について角交換を強要する。これはあまりない手順なので奇襲に含まれるだろう。この後静香は序盤でそれなりに不利な状態になるが、長期的に見れば逆転できるという自信がある。


素直に歩を取られた後角交換。不利にはなったけれど相手の飛車を8筋に持って行くことができた。状況を不利にしながらも相手のペースを乱す。B級戦法というべきだろう。静香は取った角をすぐさま6六に打つ。飛車を取るか、馬を作るかという選択。成ることはもちろん許されないだろう。だからと言って飛車を取れば有利になるというわけではない。むしろより不利になるので静香は金を上げて自陣を整えた。


その後お互いの自陣を整備するうちに振る予定だった静香の飛車は居飛車にせざるをえなくなり、さらに21手目に▲6七銀とされ打ち込んだ角も自陣に引くしかなくなった。


流石に思ったような展開にはさせてくれない。このまま行くと不利な点だけが残る。やはり相手を揺さぶり続けるしかない。静香は24手目に△7四歩と上げる。相手の駒台から角をなくしたいので、わざと4六に角を打たせる手。


ここで武田四段が長考に入った。素直に角を打つか、それとも飛車先の歩を突くとか、あるいは守りを固めるなどを考えているのだろう。一方静香はあまり考えることがない。


武田四段は40分考えて、本命の角を打った。静香の思い通りだが、相手の打ちやすい所をつくったわけだから、また少し不利になっている。静香は初手から動いていない飛車を守るために桂馬を跳ねる。


32手目静香は△2四角と再び角交換を持ち掛ける。同角、同歩、▲4六角、武田四段は要地の4六に角を再び置く。静香の駒台に角が戻るが、結局この角も3三に打つしかなさそう。もう少し揺さぶれないかな。私は少し時間を使った。

しばらくは毎週火曜に更新する予定です。土曜日は無理……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >彼との初対局は竜帝戦の本戦の初戦だった。静香が5組の優勝者で、武田四段は6組の優勝者 とありますが 196話で >まずは6組優勝者と当たる予定。相手は田丸五段。 >6組を勝ち抜いた…
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