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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
223/284

223.将棋チャンピオンシップ(6)

残念なことに高学年の部は一方的な将棋になった。片方の子がとても強かったからだ。こんな晴れ舞台でこれほどの相手と対局し、惨敗した相手の子が可哀想だけれど実力の世界だから仕方がない。


勝った子はここじゃなくて、ちょうどこの週末に東西の将棋会館でやっている奨励会の入会試験を受ければ良かったのに、と静香は思う。もしかしたら来年の秋以降には将棋会館で顔を見ることがあるかもしれない。でも確かに北海道在住だと将棋会館まで通うのは辛いよね。


静香は東京で生まれ育ったから恵まれている。そうでなければ高校はもちろん、将棋だって続けていたかわからない。仮に関東在住でも、宇都宮あたりに住んでいたら、奨励会に入れたとしても、5級に落ちる前に辞めていたに違いないし、芸能界なんて全く縁がなかっただろう。


でも残念ながらどこに生まれ育ったかも、将棋に理解のある親の元で育ったのか、親の経済状況、そういったものをすべてひっくるめて運というか才能というしかない。とても残酷な話だと思う。


そしてそれがより顕著なのが医療だ。近くにどのような病院があって、どのような医者がいるか、それは命に関わる。さらに言えばどのような病気をするかも、ある程度は運動や節制で防げるにせよ、究極的に言えば運だ。


交通事故などのケガに到っては、自分がどんなに悪く無くても巻き込まれてしまうことだってある。これ以上考えても仕方がないことだ。だが自分が足掻ける範囲では全力を尽くしたいと思う。



さて、子ども大会が終わってから、プロのトーナメントが始まる。今日の対戦は櫛木竜帝対箱石八段。これが持ち時間が長い対局ならば、緻密に考える櫛木さんが勝つだろう。でもこれは超短期戦の公開対局。持ち時間はわずか10分、別途考慮時間が1分が5回、使い果たせば1手30秒という超短期戦。だから短期戦に強い箱石八段にもそれなりに勝機はある。


なおかつ、この短時間の対局にも関わらず途中で封じ手まであるので公式戦の中では比較的勝負というよりはショーの側面が大きい。タイトル戦に比べると、一般棋戦はどれもその側面があるけど、特にこのチャンピオンシップでは特にそれを感じる。


例えばゲストで呼ばれている棋士や女流棋士と一緒に写真を撮るコーナーがあったりする。流石の主催者もここに静香を立たせることへの懸念を感じてくれたのだろう、司会を務める静香にはその仕事は来なかった。


だがプロの対局の終了後の恒例行事からは逃れることができなかった。それについては先日、櫛木さんから連絡というか質問?、相談?のメッセージがきた。


『櫛木です。チャンピオンシップ初勝利おめでとうございます。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですがいいですか?』


『ありがとう。少し返事が遅れても構わないのなら』


『対局後のあれ、天道さんの時は大変だったと聞きました。大丈夫ですか』


静香は最初、「あれ」がなんだかわからなかったが、聞き返す前に気が付くことができた。


『ああ、「握手会」のことね』


チャンピオンシップで勝利した棋士は、観客と握手をして一言ほど言葉を交わすという慣例がある。


観客の一部は子ども大会が終わったら帰る。特に小さなお子さんがいる家族はそうだ。チャンピオンシップの開始時間は決まっている。子ども大会が終わってからチャンピオンシップが始まるまでの時間をギリギリにするのはリスクが高いので、その間はそれなりに空いている。それを嫌って帰るお客様もいらしゃる。


だが、それが御厨先生のような誰もが知っている棋士の対局の場合はあまり人が減らない。未就学児がいるご家庭は仕方がないだろうけれど、そうでない観客は結構残って、御厨先生と握手をする。閉会まで残って並んでいる方全員と握手を交わす。


チャンピオンシップを観戦するには、子ども将棋大会に参加した子とその同伴者、そしてチャンピオンシップの観戦を申し込んだ人だ。


だから子ども大会の参加者や同伴者より、チャンピオンシップの観客が増えることすらある。チャンピオンシップの観戦は入場無料。もちろんチケットは必要だけど、


観戦はタダだというのもあって、静香が出る試合だけ観戦申込者が半端ない量になった。当然抽選の対象となりその倍率もぶっ飛んだ数字になった。ついでにいうなら子ども大会のエントリーも増えた。


これまで毎年参加していたのに今年は参加できませんでした、などという書き込みがネットに溢れた。


抽選の結果だから仕方がないのだけれど、将棋に興味がない子、あるいはその家族、そして観客。


これは普及に貢献できているのかな……?


実際、静香は今年2回出場し2回とも勝った。「握手会」に多くの人が並ぶのはよい。これも棋士の普及活動だ。だがその場で「千夜ちゃんの大ファンなんです」と言うのは正直やめて欲しい。


もちろん、人気商売だから顔には出さないけれど。


『私はあの手の「握手会」には慣れてるから大丈夫よ?』


いや全然大丈夫じゃない。普段の芸能活動で、静香は握手会をほとんどやったことがない。サイン会だって写真集発売などの特殊なものを除くとファンクラブ限定。


『僕は知らない人と握手するのには抵抗があります』


まだ中学生だものね。


『でも普及のためだから』


『そうですよね』


メッセージのやり取りはそこで途切れた。

ご無沙汰しております。久しぶりの投稿になります。


この期間誤字報告を多く頂きました。本当にありがとうございました。


ブクマとかも剥がれているだろうなと思ったのですが、前回8月6日の時に2,970pt→10月8日:3,198ptなのでちゃんと増えていますね。ありがとうございます。


それなのに不甲斐ない私は、研修がなかなか上手くいかないので、次回もひと月空けて11月13日に投稿予定です。申し訳ないです。

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