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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
216/284

216.モデルチェンジ(2)

静香は今、順位戦はB2に所属している。B2になるとC級とは一段と将棋のレベルが上がったのを感じる。先日勝ったので今のところは2戦2勝。だが、相手のミスはかなり減った。静香がノータイムで指しても、相手はそれに釣られない。少なくとも一呼吸おいてから指してくる。


だから基本的には今まで通りテンポよく指す。そして考えるべきが来たら考える。でも考える時っていつだ? いつが考える時だ?


簡単に言うと劣勢になった時に静香は考える。そこから逆転の道が無いかを探るが、現代の将棋では、終盤に極めて難解な局面になった場合ぐらいしか逆転は無い。少しづつ自分の優位を積み重ねること。そして積み上げた優勢の山から足を滑らさないことが勝つために必要なことだ。


相手のミスありきの将棋では静香はいつまでたってもタイトルには手が届かないだろう。


だからまだ有利不利が無い時点で考える時があるはずだ。それがどうやったらわかるのか、それを静香は待ち構える。


海老沢先生が19手目▲2五歩を指した時、静香の手が止まった。例えば今はどうだろう? ざっと考えて選択肢は5個ある。


9四歩、あるいは1四歩と端歩を突く、4二銀と銀を守りと攻めの双方に利かす。5四歩と中央を押さえる。そして7三桂と早めに跳ねる。この5手は正直あまり変わらない。どれを指しても20手目以降は▲2四歩、同歩、同飛、24手目は20手目が4二銀以外ならここで4二銀、先に4二銀を指していた場合は他に何かを指すが、どのパターンでも25手目に2八飛、2三歩と26手目までは変わらない。


つまり今は考えるべきところではない所で考えてしまったということになる。ただ時間を使っただけ。ダメだ。これなら第一感で指せば良かった。


静香は7三桂と指し、続きは予想したとおりに26手目2三歩まで互いにほぼ時間を使わずに進み、27手目で海老沢先生に手が渡った。この局面は指す選択肢は多い。静香は体力温存のため、考えるのを放棄して頭を空っぽにする。考えるのは海老沢先生が指してからにする。


海老沢先生は15分使って6九玉と玉を左辺に寄せた。よって静香も手が広い。でも静香がどの手を指しても海老沢先生は中途半端な守備を優先させるだろう。ここは考えるところでは無いと判断して、静香はノータイムで4三銀。攻めに使えるようにもう片方の銀も上げる。


海老沢先生は守りを固めるので、静香は今度は金を上げる。静かな序盤。そう思っているところを読まれたのかもしれない。時間を使った海老沢先生は4筋の歩をぶつけてきた。ここで角交換を強いられた。


考えても仕方がないので歩を取って角交換に応じる。しばらくは受けの時間が続きそう。角交換の後、海老沢先生は攻めに転じて来た。今の雁木崩れの状態で先ほど角道を開けた歩を取られる。4五銀。これも静香にはその前に歩を打つしかない。これで6六に角を打たれるんだろうな。


だが海老沢先生は今度は慎重に銀を引いた。うーん。こんな風に攻めと守りを使い分けて翻弄してくるところは本当に嫌らしい。今度は静香に手が渡されたことになる。選択肢は多いが考えずに一番攻撃的に飛車先の歩を突く。


同歩、同飛の後、海老沢先生がここで6六角、ここも一択を強いられた。ノータイムで桂を跳ねる。ここも選択肢が多い。海老沢先生は当然静香の手を予想していたはずだが、それを確認するように5分程考えて8四歩。これもまた一択かあ。主導権はずっと海老沢先生だ。


考えても無駄なので静香相手の角道を止めに7筋の歩を上げる。次の海老沢先生の手でこの後は大きく変わる。ここで歩をどこかに打ってくるのかそれとも角を動かすか。これで大きく局面は変わる。


こう言った大きく局面が変わる時の選択肢は常に海老沢先生に持たれている。大きな判断は海老沢先生が。静香ができるのは小さな判断だけ。ここでも海老沢先生は時間を使った。


ここは少し不思議に思う。海老沢先生は静香に一択を強いていたわけだからこういう局面になることはわかっていたはずだ。だが海老沢先生はここで10分使った。何かを探っているのかもしれない。


決断は同角、ここも静香は一択、7六飛と横歩取りのような形、ここは互いに一択なので手はすぐに続く。6六角、6五歩、7七角、今度は静香に選択肢が渡されたが、それは7ニに金と銀のどちらを持ってくるかというだけ。銀を下げるのは悔しいので金を動かす。7ニ金。


結局重要な選択肢は海老沢先生だ。今度は金か銀のどちらを上げるか、あるいは8三にと金を作るかの判断になる。静香はまた海老沢先生に手番を持たれたまま、自分の思考を止めて、海老沢先生の判断を待つ。


時間攻めという言葉があるが、あれは相手に考えさせて時間を奪う戦略。


この一局に関しては静香が考えなければいけないシーンはほぼない。後手は基本そうだと言えないこともないし、相手がタイトルホルダーなのだから当たり前だけど、ちょっと頂けない。

申し訳ありませんが、1週間休載させて頂きます。次回更新予定は8月22日です。


その代わりというわけではありませんが、既に完結済の旧作を紹介させて頂きます。なお各数値は8月6日現在のものです。今回この後書きを書くにあたって調べたところ、結構昔の作品でもポイントが思った以上に伸びてたりするのを見るととても嬉しいです。


いつも拙作を読んで頂いている皆様、レビューを書いて頂いた皆様、感想を残して頂いた皆様、ブックマークして頂いた皆様、評価を頂いた皆様、誤字脱字報告をして頂いた皆様。いつもいつもありがとうございます。


一番多いのがPVは当然として、その次が誤字脱字報告なのは私のせいですね。ChatGPTで校正かければ一発解決なのですが、それはやってはいけない気がしています。


そしてレビュー。本当にありがとうございます!



音楽室と体育館  全169話  720pt

https://ncode.syosetu.com/n7547gz/

バレーボールをこよなく愛する音楽教師の主人公最強もの


ミスターフルベース 全16話  484pt

https://ncode.syosetu.com/n7878gi/

高校球児が甲子園で起こす奇跡のワンプレーのお話


宰相の失脚  全17話   148pt

https://ncode.syosetu.com/n9550gj/

ナーロッパの成り上がり系のお話


リージア顛末記  全14話   104pt

https://ncode.syosetu.com/n9782hn/

ナーロッパ世界で国王が4人の王女のうち、最も王配として優れた婚約者を連れてきた娘を後継者にしようとするが……


桜の下の彼女   全12話   84pt

https://ncode.syosetu.com/n8398gu/

毎晩、幼馴染の女の子に酷いことをしてしまう夢を見る男の話。実は結構自信作だったりします。


以上です。改めて連載再開後もよろしくお願いいたします。

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