211.ヘッドライナー(19)
The Report of Chiyo, MAIZURU in "Green Valley Festival" written and photos by Susie Evans
今年の初夏の音楽の祭典、グラスバレーでは、私はチヨ・マイヅルのクルーとして参加した。私はグラスバレーには参加者としてもプレスとしても何度も参加しているが、アーティストのクルーとして参加するのは初めて。これまでとは視点が違うのでとてもエキサイティングだ。ここに初日から本番が終わるまでのダイジェストを記す。
今回のグラスバレーフェスにおいて、私はクルーの一員としてチヨのプライベートについてもふんだんに書いたし、写真や動画も掲載されている。もし興味を持った人がいれば是非チヨ・マイヅルの公式ファンクラブの会員になってそれらを見て欲しい。
今回チヨのクルーとして日本から参加したのは、チヨ、マネージャー、楽器の管理者、スポンサー、そしてチヨの友人2人。スポンサーは千夜だけでなく、私たち現地スタッフの雇用主でもある。現地スタッフは私ともうひとり。私はドライバー兼、ライター兼、コーディネーター兼フォトグラファー。もうひとりはドライバー兼旅行会社のスタッフだ。
彼が手配した大きなキャンピングカーでファーンボロー空港に一行を迎えた。チヨはソロなので他のアーチストのようにバスを用意したりはしない。私のキャンピングカーは、千夜とその友人たちを乗せてグラスバレーへと走った。
グラスバレーでチヨは4度もステージにたった。後にチヨ自身がステージでMCしたように、友人たち、そして偶然あった「プラッセル音楽学校」の生徒たちと一緒に「ティラミス」の舞台飛び入りしている。歌ったのは「スカボローフェア」
――あなたたちは彼女がチヨ・マイヅルだと知っていた?――
「全然気が付かなかった。舞台に上がってから声量に驚いた」
「気が付いてたらサインをねだったと思う。もしそうしたら一緒に舞台に立つことはできなかったからそれでよかったと思う」
私はこのインタビューの後、チヨのサインを4人の生徒たちに送った。それにはティラミスでの共演のお礼と、あなたたちの演奏を聞かせて欲しいというものだった。私は次のプラッセル音楽学校の発表会で、彼らの演奏を撮影してチヨに送るという宿題を与えられた。
その日チヨがアン・フェンティとケイトリン・オブライエンのふたりのステージのゲストに出た。
そしてその翌日、チヨがヘッドライナーを務める夜は天候に恵まれなかった。天候のさらなる悪化が予報されたので、ゲストであるケイトの出番が早くなった。私も楽屋にいたので、ふたりが相談している貴重なシーンを何枚も撮った。
その後私は「カップケーキ」の会場に出てチヨを待つ人々にインタビューして歩いた。チヨ・マイヅルのスタッフであることを示す私のIDはとても強力な魔力を持っているので、多くの人が私のインタビューに喜んで答えてくれるし、写真ももちろんOKしてくれる。これらのインタビューに答えてくれた人はありがとう。これらもファンクラブサイトで読んで欲しい。
さて、コンサートが始まってからは私はもっぱら「カップケーキ」の最後方にあるプレス用のやぐらから写真を撮っていた。本当なら「カップケーキ」の中で多くの人の熱狂ぶりを近くで撮り、一緒にチヨに向かって声をかけたかったけれど、ライブが始まるより30分も前には、広大な「カップケーキ」でもキャパシティが足りないことが明らかになったからだ。
観客たちは全員立ち見で、どんどん前に詰められる。それでもライブが始まる前に既にキャパオーバーで、私がうろうろする隙間は無かった。その後は予定通りに進行する。私が聞いていたように早めにケイト・オブライエンがゲストとして登場し、ふたりで舞台を盛り上げる。相変わらずこのふたりのコンビは最高だ。
そして問題のシーンが始まる。チヨが Everything is Forgettable を無伴奏で歌い切って観衆の喝采の渦が「カップケーキ」を包んだのとほぼ同時に、待ち構えて来たかのように雨が降って来た。すぐに風も強くなりフェス会場は観客は先ほどまでの至福の時間から一気に修羅場と化した。会場は歓声ではなく悲鳴で溢れかえった。
先ほど書いたように私は一番後ろのやぐらにいたので、この時点で既に会場を後にする人たちが結構いた。おそらくはインターネットなどでこの後の天候を把握していた人たちだろう。最終日だし疲れていたのかもしれない。
私は大雨の中で耐水性の強いサブカメラを持って、帰る観客たちの相手をした。流石に暴風雨の中なので、会話は短いものばかりになった。
――この雨は残念だった?――
「そりゃね。でも仕方ないよ。来年もまたチヨはヘッドライナーで来てくれると信じてるしね」
「これからさらに雨は強くなるみたいだからね。こんな夜もあるさ。ひゃほっー」
最後はこのように叫んで私から離れて行った聴衆もいた。彼は雨も楽しんでいたに違いない。
天候は覚悟していたこと。そしてそれなりに満足してグラスバレーを後にした聴衆が多い。統計を取ったわけではないが、グラスバレーに馴れた観衆だと思う。