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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
208/284

208.ヘッドライナー(16)

千夜は3曲歌ってからMCを入れる。


『みんなこんな遅い時間までありがとー』


そんな他愛のない一言でお客さんが拍手をしたり、手を振ったりしてくれる。さっきの「私の好きな人の彼女」は日本語の歌詞なのに、ちゃんと日本語でみんなが歌ってくれる。


こんなに観客のノリが良いなら失敗することは無さそうで安心。まあそれはそうだよね。「グラスバレー」は最大級の音楽フェスだし、「カップケーキ」はそのメインステージだけど、時間は最終日の夜中。この後このステージは解体されて来年まで使われる予定はない。そんな雨の農場にわざわざ千夜の曲を聞くために来てくれた人たち、ここには千夜のファンしかいないだろう。


アコギ、たまにはアコベを使うけど、どちらにせよ同時には使えない。バックミュージシャンがいないしコーラスもいないソロステージ。だからものすごく地味なライブ。それがこんな10万入るステージで客が満杯にできている。


新人ミュージシャンだと関係者が客に混じり込むなんていうこともあると聞くが、この単位ではそんなことは無理だろう。


これは我がことながら結構すごいことなんじゃないか?


『実は今年このグラスバレーでステージに立つのは4回目です。昨日のケイトのライブ見た人ここにいる?』


半分以上の人が手をあげたり振ったりする。吠えるような声が聞こえる。あっ日本語も混じってる。やはり10万人という数は半端ない。その群れが千夜の一挙手一投足をじっと見つめている。叫びながら、あるものは跳ねながら。


『あれ、最初から私って気が付いた人、手を振って』


おっ、やはりファンにはわかるのだろうか? 少なく見積もっても1割、もしかしたら2割ぐらいの人が手を振っている。うん? こうやって見ている間にも、最初手を振っていなかった人たちが手を上げ、大きな声を出す。千夜が少し黙っている間にほぼ全員が手を上げた。


『本当かなあ?』


『本当だよ。すぐにわかったよ!』


千夜のMCにすぐ答えてくれる。


『じゃあ、アンのステージ、アンは何人かいるけどアン=フェンティのステージを見てくれた人挙手!』


ほぼ全員の手が上がる。絶対嘘だ。


『じゃあ私が「ティラミス」に飛び入りしたのを聞いてくれた人は?』


『ええっ』

『ティラミス? 噓でしょ?』


そんなざわめきが聞こえてくるのにも関わらずほぼ全員が手を上げて振っている。


『あの時「ティラミス」で見てくれていたお客さんと3桁ぐらい違うわよ。みんな嘘つきだなあ。私のライブを見に来てくれる人は嘘つきなのかなあ?』


こんなバカっぽいこと言ってるだけなのに10万人という数が、千夜の暴言を笑いや口笛に変える。


『じゃあ、次の曲行きます』


そう言うと千夜はギターソロを始めた。ガンガンアレンジするのはいつものことだけど、この曲はケイトの曲だからみんなわかるかな? 静香はそう思っていたけど、観客の反応からすぐにみんなわかったみたい。流石はケイトの曲だ。


静香がアレンジをおとなしくしたところにケイトがマイクを持って登場、また拍手が沸く。そして舞台に入ったところでケイトが歌い始めたので静香は演奏に専念する。その間に舞台中央に静香のとは別にケイト用のマイクスタンドが用意される。


そのまま歌いながらケイトがこちらに近づいて来る。そしてそのままサビに入るので静香はハモる。この曲はケイトの新曲だから合わせるのも舞台の上では初めてだけど全然問題ない。間奏に入って静香がアコギのソロに入るとケイトが自分のスタンドにマイクを刺した。


ん? もう2番に入るの? 打ち合わせと違うんじゃない?


静香が考えているうちにケイトは千夜のアコベを勝手に持ち出した。ええっ、打ち合わせと違う。ケイトがベースを弾けないとは思わない。でも千夜のアコギと、持ち主である千夜ですら扱い辛いアコベが並んで演奏するとかなりマズいような気がする。多分千夜の次ぐらいにPEさんがものすごく困っていると思う。PEさん頑張ってお願い。


千夜は頭ではそう考えながらも両手が常人では無い速度で動く。


ぶっちゃけ本番だからハウリングが起きる可能性は正直考えたくない。だからもう考えずに千夜は自分のアコギを弾く。それにケイトがベースとは思えない速度であわせてくる。おおっ。癖のある6弦アコベをちゃんと使いこなしている。そう言えば去年のクロアチアのフェスの時も、クルーズ船の中で触っていたから初めてではないか。


そのまま今度は千夜がメインを歌いケイトがそれに合わせる。よしいい感じ。お客さんもいい感じにノってくれている。


その後ケイトは3曲一緒にステージに立ってくれた。途中で千夜とMCだけじゃなくて歌の中でも掛け合いを行ったりして、舞台をとても盛り上げて、ケイトは、じゃあみんなまたねー、と言い残して去って行った。


PEさん、本当にありがとう。

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