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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
207/284

207.ヘッドライナー(15)

早めの夕食を終えて、櫛木さんが王者戦の挑戦者になったことだけを確認してから静香は少し寝た。それから目が覚めたのは20時半。ちょっと寝過ぎたかもしれないが、慌てる程ではない。


千夜は誰もいないキャンピングカーを出て鍵を閉めた。昼前に止んだ雨がまたパラついている。そのまま歩いて「カップケーキ」の控室に向かった。


控室の前に明石さんがいて出迎えてくれる。多分あと5分か10分遅かったらキャンピングカーまで起こしに来てくれたのだろうと思う。


「舞鶴さん、お疲れ様です」


「いや、明石さんこそお疲れ様です。あっ、これ車のカギです」


それから千夜のライブの準備が始まる。千夜はラフな格好で上がるので、映画やドラマに比べると準備時間ははるかに短い。そして雨のせいでステージが濡れているので、靴によっては危ないが、千夜のスニーカーなら滑り止めがされているので問題ない。


千夜が着替えている間にとなりのテントが騒がしくなった。多分前のライブが終わったのだろう。本来なら挨拶に行った方が良いのだけど、それほど時間に余裕があるわけでもない。


純子と美桜はこの1時間あるライブとライブの合間のうちに、関係者用のエリアで千夜のライブが始まるのを待つことになるはずだ。


そしてできた時間で今晩使う楽器を予備も含めてチューニングされているのを確認する。屋根から外には出ない、というか出れないけれど、それでも交換が必要になる可能性は十分にある。


チューニング自体は大久保さんがやってくれているので、千夜がするのは確認だけ。うん、さすが大久保さん、きっちり合わせてくれている。


千夜の準備がもうすぐ終わるという頃にケイトが千夜の楽屋にやってきた。もちろん楽器も一緒だ。


事前の打ち合わせどおり、ケイトの衣裳は千夜に合わせた、いわゆる双子コーデに近い。ボトムはお揃いのジーンズ、スニーカーは色違い。トップスは無地の白いTシャツに千夜は日本語で、ケイトは英語で世界平和への祈りが書いてある。なお濡れても透けないので雨の心配は不要だ。


遠めじゃ区別がつかない? 大丈夫。千夜の髪は漆黒だし、ケイトは地毛は金髪だけど、一部を染めている。


『準備終わった?』


『あと20秒ぐらい待って』


与えられた楽屋は、普通ならいろんな楽器やスタッフでとても狭くなるが、千夜はソロだからがら空き。多分今隣が騒がしいのはステージからの搬出をしているのだろう。そして濡れた楽器のメンテをしているはずだ。


千夜は最後のアコースティックベースの調弦を確認する。問題なし。


『終わったわ』


千夜の言葉にケイトがうなずく。


『雨が上がればいいんだけどね』


だが野外コンサートに雨はつきもの。突然の荒天で中断されることだって珍しくもない。


『どちらかというと逆みたい。だからケイトの出番を早めようかと思うの』


90分間のライブを独りで持たせるのは難しい。だから真ん中かやや後半にゲストに入ってもらって、休憩する。特に喉ね。ましてや千夜はソロだから、他に休み時間がまったく無い。強いて言えば拍手を浴びている時間ぐらい?


だが天気予報だとこのポツポツ雨で天気が持っているのは上出来らしい。


『そして荒れたら千夜も早退ってわけね。まあそういう時もあるわよね』


ケイトは多分千夜に気を使ってくれているのだろう。本来ならゲスト用の控室にいてもいいのに、こうして千夜の控室で一緒に出番を待っていてくれる。


『そもそも最終日だし、この雨だし、お客さんががどれくらい残っているかしら?』


『残っているわよ。この程度の雨なら問題無いわ』


これは慰めではなくて事実だろう。なおこれらのやりとりはすべてビデオで撮影されている。スージーのカメラのシャッター音も何度も聞こえてくる。


『じゃあヘッドライナーなんだから盛り上げないとね』


『そう、盛り上げたまま「グラスバレー」を終わらせちゃいましょ』


正確に言えば、メインステージである「カップケーキ」を使うのは千夜が最後だけど、他のステージでは千夜がステージを降りた後でもまだライブをやっているところもある。


『そうね、じゃあケイトには、4曲前倒しして、この「私の好きな人の彼女」の後で入ってもらうわ、日本語の曲だけど大丈夫よね?』


『おっけー。じゃあきっちり終わらせよう。そして、明日は「ケイトリン=オブライエンと行くアイルランド紀行」を楽しませてあげるわ』


『楽しみにしてる。明石さん、聞いてたと思うんですけど……』


明石さんに曲順の変更を伝えたが、脇で聞いていた大久保さんが他のスタッフに伝えるために控室を出て行った。照明とか音響を始めとするスタッフに迷惑をかけて申し訳ない。


千夜はケイトと軽くハグする。この習慣にももう馴れた。知らない人とするときは少し緊張するけど、ケイトとであれば問題ない。


『まだ出番まで時間はあるけど、舞台袖に行ってくるわ。ケイトの出番までにステージを盛り上げておくから』


そう言って笑いあった後、千夜はケイトに手を振って控室を出た。


「明石さん、先に楽器をステージ横に運んでおいてください。私は少し用をたしてから行きますね」


2時間近くトイレには行けないから仕方がないよね。

すいません。私は週末に次週分を書くタイプなのですが、今週末はおでかけします。来週は休載させて頂いて、次回更新は7月11日を予定しております。申し訳ないです。

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