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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
201/284

201.ヘッドライナー(9)

幸いなことにバンドマンを上手くけむに巻くことはできた。


『この後どうする?』


純子の問いに静香は答えた。


『私は夕方のまでは特に用事が無いわね』


『僕らは適当にいろんなステージを回ろうと思うのだけど一緒にどう?』


4人組男子のひとりが声をかけて来た。静香としては別行動をとりたいところではあるが、ついさっき用が無いって自分で言っちゃったからなあ。


『じゃあこの後、みんなでここである飛び入りOKのステージに出ようよ』


美桜は先ほどのバンドマンが目当てだと思っていたけど、実際にそうだったけど、後ろの『Open mic』についてもちゃんと調べていたらしい。


『この7人で? 誰か楽器持ってる?』


男のひとりが言う。ギターを持って来なくて良かったと静香は思った。


『アカペラでいいんじゃないか?』


『そんなんで出れるかな』


なんとなく出る方向に話が向いている。ひとりで舞台に上がるのは絶対嫌だけど、7人のうちのひとりだとすると声量を落とせばそこまで目立たないと思う。それなら許せるかもしれない。


『俺たちは一応音楽学校の生徒だけど、3人はどうなの?』


えっ音楽学校? 静香は聞いてみた。まさかの同業者? 静香の事をもしかしたら知っているかもしれない。


『音楽学校ってどこ? いや、王立音楽大学ぐらいしか知らないけど』


『えっと俺たちは、まだ高校生だよ。プラッセル音楽学校』


4人のうちひとりは静香と同じぐらいだけど、他の3人は身長が高い。そして静香より大人っぽい。これでまだ高校生? 年下だったのか。いや将棋でも櫛木さんみたいな人がいるわけだから、甘くみてはいけない。


『そうなの? 楽器を弾くの?』


静香は何も考えずに聞いた。


『えっ、俺とこいつがチェロ。そいつがファゴットで、こいつはチューバ』


『みんな結構低音系なのね』


思わぬ静香の食いつきに高校生たちはたじろいでいるようだ。


『静香って急にやる気になったみたいね』


美桜にまでそう言われる始末だ。


『いや、まあ、気になるじゃない?』


『ともかく、俺らは音楽やってるけど、クラッシックだし、楽器も持ってきてないし、声楽やってるわけじゃないからさ』


それでも純子と美桜よりは上手いと予想される。もしかすると静香より上手い可能性もある。静香はもう成り行きに任せることにした。


『じゃあどうする? 本当に出る?』


『もう締め切ってるかも』


『それより曲どうするの?』


『えっとアカペラだから……民謡とか? 3人は英語で歌える曲あるの?』


静香は黙って聞いていた。でも民謡はいいセンスかもしれない。ロックをアカペラ一発何て絶対無理だからね。純子も美桜も在米経験があるからそれなりに曲を知っているはずだ。静香は有名な曲しか知らない。だから早めに言っておくことにした。


『私は有名な曲しか知らないわね。「ダニーボーイ」とか「蛍の光」とか「スカボローフェア」とか』


『ダニーボーイはアイルランド、「蛍の光」はスコットランドの歌だね。スカボローはヨークシャーだよね。別にどれでも構わないけど』


残念ながら静香が挙げた曲はすべて場所が違うらしい。確かに日本でもソーラン節なら北海道とかあるものね。


『じゃあスカボロー・フェアにしよう。俺たちがテナーで低音からハモルから、3人はメロディを歌ってよ』


流石音楽学校の生徒だ。楽器の人でも普通にハモリができるんだな、美桜と純子もそれでいいみたいなので、申し込んでみた。高校生のひとりが申し込みに行ってくれる。


なにかスゴいな。こんな異国の地に友達と一緒に来て、そして行きずりの高校生とリハ無しで一緒にステージに上がる。いやリハ無しは拙いから、始まる前に一回でいいから合わせておこう。もちろん既にいっぱいとか他の理由で弾かれる可能性はあるけれど。


『ねえ、プログラムが始まる前に一度合わせておこうよ。私たちって一緒にカラオケに行ったことすらないじゃない?』


カラオケには行ったことがないが、互いに鼻歌を歌ったりしたことはあるから美桜も純子も音痴ではないと思う。


『そうだよ、俺らもせめてキーとテンポは合わせておかないとマズいよ』


ということでまずは純子に歌ってもらうことにした。途中から美桜と私も入る。上から目線で申し訳ないが、純子も美桜も思ったよりは上手い。これなら私も安心して合わせられる。そこに高校生たちがテノールで入って来る。


凄いな、一発で合わせて来るんだ。やっぱりちゃんと音楽を学んだ人は違うな、と静香は思った。そして有名な曲だけあって、全員歌詞は知っているようだ。まあとても有名なバンドがカバーしてたりするからね。


その後申込みに行ってくれた子も戻って来た。


『ちゃんと取れたよ。時間は後ろの方だけど』


おお、さすがだ。


『どれだけできるのか聞かれたから、僕はプラッセルの生徒です、とだけ答えた。嘘じゃないもんね』


うん? ということはまったくの素人はNGってこと? マズくない?


『じゃあ彼も帰って来たからもう一度合わせようか』


もう一度練習している間に飛び入りのプログラムが始まったので練習はここまで。あとは本番で合うかどうか。静香はこれまでほとんどソロでしか舞台に立ったことがない。セッションしたことがあるアーティストもケイトを始め数人だけ。これまで感じたことのないプレッシャーを静香は感じた。

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