185.公共放送杯(4)
『御厨覇者、5回目の考慮時間に入りました。残り5分です』
『御厨覇者、ここで時間を使いますね』
『かなり意外な一手だったのだろうと思いますが、ちょっと時間の使い過ぎですね。逆に言えばこの局面を打開する一手が思いつきそうなのかもしれません』
『50秒……55秒……』
『先手、5八銀』
『後手、4九桂成』
『先手、同じく銀』
『後手、同じく竜』
『先手、5五桂』
『後手、5四銀打ち』
「持ち駒を打った時、『打ち』って言わはる時と言わはれへんことあるのはなんでなん?」
「あの、斜め上の銀が上がれるんでそれと区別するためです」
『20秒………25秒』
『先手、6三桂成』
『後手、同じく銀引く』
「今のもどちらの銀でも取れたからってこと?」
「そういうことです」
『20秒………25秒、御厨覇者、6回目の考慮時間に入りました。残り4分です』
『御厨覇者ここでまた考慮時間を使います』
『次もまた選択肢が多いですからね、先手後手ともに玉が固くて互いになかなか攻められない。そして玉の反対側は互いの竜が焼け野原にしている状態です。後手は角がまったく使えてないのですが、このままだとその角が出てきますからね。先手はどうするのか……馬を作るか銀を打つか……」
『先手、8五銀』
『後手、5一角』
『先手、5五歩』
『後手、4七竜』
『20秒………25秒』
『先手、2二角成』
『後手、8四歩』
『20秒………25秒……御厨覇者、7回目の考慮時間に入りました。残り3分です』
『ここも攻めるか守るか迷いどころですね』
『守った方が手堅いですが、御厨覇者は攻めると思います。局面不利だと判断していると思うので。でも手が続くかな。7四銀、同銀、同香の後はどうですかね、7三歩、同香成、同銀で、要の銀を動かせますけど、その後が問題ですね』
『50秒……』
『先手、7四銀』
『後手、同じく銀』
『先手、同じく香』
『後手、7三歩』
『先手、同じく香成』
『後手、同じく銀』
『先手、4二歩』
『後手、7二銀』
『あっ、取りにいかず玉の守りを優先しましたね』
『先手が上手くと金を作りましたね。しかもおそらくは角を押し込めます』
『先手、4一歩成』
『後手、6二角』
『10秒……20秒……25秒』
『先手、4三歩』
『後手、同じく金』
『先手、4四歩』
『後手、7六桂』
『後手は金を捨てて攻撃の反撃の足掛かりを作りました』
『ここも後手は思い切ったことを、よくノータイムで判断しますね』
『20秒……25秒……厨覇者、8回目の考慮時間に入りました。残り2分です』
『御厨覇者考慮時間が残り2分になりましたね。あれっ、そう言えば後手ってまだ秒読みになってないですよね?』
『そうですね。先ほどの7六桂が102手目ですから、自分だけで51手指してまだ10分を使い切ってないってことですね。今持ち時間どれくらい残っているのかな?』
『天道七段だと1手30秒でも全然苦にしないでしょうけどね』
『55秒』
『先手、4三歩成』
『後手、8八桂成』
『先手、同じく金寄り』
『後手、7五香』
『ここも考えどころですね。先手は選択肢が多いですね』
『御厨覇者、9回目の考慮時間に入りました。残り1分です』
『7八か7七のどちらでどの駒で合駒するか。あるいは逆に攻めるか。後手がどんどん指してくるので、御厨覇者と言えども準備ができないんですね。天道七段は相手に一服着く間も与えませんからね』
『55秒』
『先手、1三馬』
『後手、7八歩』
『先手は馬を動かしました。敵陣にいますが、7九に利くので守りを固めた形ですね。それに対して……』
『25秒』
『先手、7七歩』
『後手、7九歩成』
『先手、同じく馬』
『後手、4九竜』
『今は後手が攻めていますね。馬も守りに入ってますから、崩すのはまだ難しいでしょう。ですが先手が攻めるとすると5二銀か5一金でしょか?』
『御厨覇者、最後の考慮時間に入りました。残り時間はありません』
『そうですね。ですがどちらもその後の7九竜が辛いですね』
『先手、6八銀』
『後手、5六桂』
『後手の仕掛けが次々に用意されています』
『20秒、1、2、3,4,5,6,7』
『先手、7八金打ち』
『後手、5八金』
『特に失着は見当たらないのですが、先手玉の周りにだいぶ駒が集まってきましたね』
『この穴熊は玉桂香はもちろん、金が2枚、銀1枚、そして馬もいますから相当に強固なので後手も攻める材料がまだ必要でしょうね』
『1、2、3,4,5,6,7』
『先手、5二と』
『後手、同じく金』
「これどうして急に1秒ずつ数えるようになったのかしら」
「もう御厨名人は残り時間ないので、10まで数え終わったら負けなんですよ」
「千夜ちゃんはまだ10分そのままですね」
『5,6,7,8』
『先手、5七銀』
『後手、6八銀』
『これはもう後手がかなり有利と言ってよいでしょうね』
『6,7,8』
『先手、同じく銀』
『後手、同じく桂成』
『先手、同じく馬』
『後手、同じく金』
『先手、同じく金』
『後手、7九銀』
『126手まで来てまだ持ち時間を持ち続けますか』
『6,7,8』
『おそらくリズムを崩したくないんでしょうね』
『先手、7八金打ち』
『後手、6八銀成』
『横に3つ並んだ先手の金、一番外側から剥がしにいきます』
『7,8』
『先手、同じく金』
『後手、7九角』
『先手、7八金右』
『後手、8八角成』
『先手、同じく金』
『後手、7七香成』
『先手、同じく金』
『後手、7九金』
『10秒……20秒、1、2、3,4,5,6,7』
『負けました』
御厨名人の投了に合わせて天道七段も頭を下げる。
『まで136手を持ちまして、天道七段の勝ちとなりました』
「おおおおっ」
CT-101のキャストもスタッフが大きくどよめく。
「これはすごいわ。盤面はよくわからないけど、残り時間だけ見たら圧勝ですね」
「あっ、急いで出迎えの準備をしないといけないですよね」
「いや、まだ感想戦とか表彰式とかあるし大丈夫やって」
モニターの向こうでは、勝者も敗者も神妙な顔をしているところが映し出され、解説者がいろいろと話しているが、その言葉はこの部屋の人たちには届かない。自分たちの仲間が優勝したことで盛り上がっている。
「おい、誰かカメラ持って108の前で出待ちしとけよ」
「すぐ用意します」
「いやあ、なんかこんな真面目に将棋見たのん初めてやね」
「それ、こっちのモニターに繋ぎましょう」
「監督、今日はこれもうバラシ(撮影終了)でしょう。祝賀会しましょうよ祝賀会」
「本当に舞鶴さんって将棋のプロなんですね」
「いやでも、今日でオールアップ(特定の演者の撮影の最終日)の役者さんがいるし」
「私はリスケしてもらってもなんとかしますよ。あっこの101は今週しか使えないんでしたっけ?」
優勝者へのインタビューや、表彰式などは見ずに皆が色々と話しだし、そしてヒロインを出迎える準備が進む。ここにいるのは基本的にお祭り好きの人種が多い。
「出た」
天道静香がCT-108を出たところを捉えたカメラがモニターに表示される。静香が賞状が入っているのだろう、小さなアルバムのような持ち、そしてそのマネージャーが後ろについている。そのまた後ろにスタッフが大きなトロフィーを持っている。
「来るぞ、もうすぐに来るぞ」
広いスタジオの入口にカメラやクラッカーを持ったスタッフが集まる。
扉が開くと、大きな拍手とクラッカーが主演女優を出迎える。
「おめでとう」
「優勝、すごかったです」
「内容はようわからんけど、時間的には圧勝やったなあ」
それから、優勝トロフィーを囲んで記念撮影をした。このトロフィーは優勝者の名前が台座に毎年追加される。そしてスペースが足りなくなると台座自体が追加される。だからスタッフが、静香がトロフィーを持ち上げるのを手伝ってくれている。今は3段目だがこれでも相当重い。4段目が追加されるようになれば、男の人でも持ち上げるのが大変になるのではないだろうか……天道静香、改め舞鶴千夜はそのように思った。
すいません。落ちてはいけない資格試験に落ちたので、再受験のためまたお休みを頂きます。次回更新は2月25日とさせてください。エタる人の気持ちがわかりました……皆何かしら事情があるんだろうなあ。




