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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
183/284

183.公共放送杯(2)

通常、この番組は司会の挨拶から始まるが、決勝戦なので多少構成が異なる。両対局者と解説者、聞き手の4人が集まり、そこで看板アナウンサーの山原が両対局者中心にインタビューする。


まずは3連覇がかかっている御厨公共放送杯覇者にインタビューが行われる。


「タイトルも名人を含む四冠を保持され将棋界の第一人者である、御厨公共放送杯覇者にお伺いします。昨年度連覇を決め、現在本棋戦では14連勝中です。今大会に関して、ここまでの勝ち上がりについていかがでしたか?」


「そうですね。準々決勝でそちらにいらっしゃる月影二冠との攻防がやはり印象に残っています」


その対局は御厨公共放送杯覇者が、短期決戦にも関わらず限定合駒を連発して月影二冠の猛攻を凌いだ名局なのだけれど、ドラマの制作陣はそれを知らない。その後決勝戦に挑む意気込みを答えるのだけれども、そちらもピンとこないようだ。


そしてこの公共放送杯の裏側で行われているふたつのタイトル戦の片方、棋奥戦でもこのふたりは対局中だ。御厨公共放送杯覇者は、昨年月影二冠に取られた棋奥のタイトルを一年で取り返そうとしている。


「そうですね、今回は3連覇がかかっていますので、いつも以上に集中して、この最大の難関である天道七段から勝利を勝ち取りたいと思っています」


続けて山原アナが天道静香を紹介する。将棋番組に出るのが初めてである山原アナが選ばれたのは年末の歌勝負つながりだと関係者は思った。


「それでは御厨覇者の3連覇を阻まんとするもうおひとりの決勝進出者をご紹介しましょう。こちらも将棋界で知らない方はいないでしょう、天道静香七段です」


「よろしくお願いします」


「昨年度に初の女性棋士として女子高生でプロデビューし、御厨覇者が打ち立てたデビュー以来30連勝の連勝記録を破る32連勝を打ち立てました。特に短期戦に強く「瞬息しゅんそくの魔女」の異名を与えられており、TV棋戦を含む持ち時間が1時間未満の棋戦にはただの一度も負けたことがありません。この公共放送杯も初参戦で、予選から本戦の決勝戦まで勝ち上がってきました。今回の意気込みをお聞かせください」


ディフェンディングチャンピオンである御厨覇者より熱が入った紹介だと、CT-101でモニタ越しに見るキャストですら思った。


「御厨公共放送杯覇者と対局できる機会はあまりないので、是非なにか持ち帰るものを見つけて帰りたいと思います」


先ほども彼女は真剣に演技をしていたけれど、あの時とはまた違う。


「今日も同じ建物で行われている、大海ドラマ『ささらの星』の撮影現場から走って来ていただいたと聞いております。よろしくお願いします」


よし番宣入ったと、何人かのスタッフがうなずく。もっとも視聴者数は大海ドラマの方が遥に多いけれど。


「あちらのスタジオにリアルタイムで中継されているらしいので、いいところを見せてから、あちらに戻りたいと思います」


CT-101ではその言葉に拍手が起きた。


「どうなりますかね」


「さあ、無敗神話を信じたいですね」


無敗神話はいつかは崩れる。天道静香は早指しの棋戦の他に女流戦でも敗れたことが無い。だが、いつの日か天道静香が破れる日が来るだろう。テレビマンたちはしきりに「不敗神話」を口にするが、それは神話が決して長く続かないことを身に染みて知っていることの裏返しに過ぎない。


その後対局者のふたりがスタジオ内の対局室に戻る。そして解説と司会(読み手)も自分たちの持ち場に着く。ここでようやく2台のモニターが役に立つようになった。


対局室を映し出すモニタでは、御厨覇者が駒箱から駒を取り出し、双方が大橋流で駒を並べていく様子が映し出される。そしてもう片方のモニタでは月影二冠と向田白銀が改めて対局者を紹介する。


『月影先生はどのような展開を予測されますか?』


『そうですね。第一人者である御厨覇者連覇中ですし、最強の名に恥じない実力者です。しかし天道七段がデビューしてからこの2年間で打ち立てた伝説とその勢いを止められるのか、そこが一番の見どころになるかと思います。向田先生はいかがですか?』


こうして解説と聞き手のコンビを組む場合、相手をどう呼ぶかは人によって異なるが、このふたりの場合は互いを「先生」と呼ぶことにしているようだ。


『月影先生とほぼ同意見ですが、この公共放送杯で女性が決勝に進出したのは初めてですし、ここも天道七段が歴史を変えてくれるのではないかと期待しています』


『戦型予想は振駒次第のところがありますが、おそらく御厨覇者はおそらく居飛車でしょう。一方の天道七段も居飛車の方が多いですが、後手番だと振ってくるかもしれませんね』


『それではその振駒に注目しましょう。振駒は山原アナウンサーが務めます。御厨覇者の振り歩先ふせんです』


「山原さんさぁ、振駒の練習してたらしいよ」


普通の人はプロの対局で振駒なんてしないし、それが日本中、津々浦々で放映されるこの公共放送杯で放映されることもない。これが決勝戦ならではのことだ。


『結果は……歩が5枚ですか、御厨覇者の先手となりました』


『歩が5枚というのは珍しいですね。なんとなく御厨覇者に流れがきているように思われますね』


普段は関西弁の月影二冠も、解説の時は標準語を使う。そして向田白銀が司会として勝負の開始を告げる。


『それでは公共放送杯、決勝戦の対局を始めて頂きます。本対局の記録は武田将運四段が担当、棋譜読み上げは蒔苗ひかり女流二段です。それでは蒔苗さんよろしくお願いします』


するともう片方の対局室を映したモニターの方から声がした。

何度もすいません。来週も休載します。次回投稿は1月24日(火)ですが、その次は2月4日(土)を予定しております。申し訳ないです。

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