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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
180/284

180.女流名人

2月、アメリカから帰ってきたら大学は既に春休みに入っていた。試験はアメリカに行く前に特別に受けさせてもらっているので、今日は羽田でチャーター機から降りた後、少し遠回りだけど大学の教務課に寄って成績を取りに来ただけ。


幸い静香は狙った単位は優が並んだ成績表を手にすることができた。TLP(中国語)のおかげもあって、1年生で随分単位を稼ぐことができた。だが一科目だけ空欄がある。これはこの春休みに集中的に授業が開催される科目、TLPの台湾研修で、これは3月の頭の1週間で実施される。


海外研修選択授業であり、2年の夏にも南京であるけれど、そちらは3週間もある。おそらく静香が参加することは難しいので、この台湾の方には是非参加したかったので申し込んだ。


2月も下旬になればベルリナーレがある。静香は2月末の表彰式だけ出席して、そのまま台湾の研修に合流するつもりだ。本来研修参加者の飛行機代は大学負担なのだけれど、静香の立場でそんなケチな事を言ってはいけない。


実際最近は海外に行くことが多くなっているからいくつもの対局を待ってもらっている状態だ。そして大海ドラマの撮影もそろそろ貯金が無くなりつつあるという悲鳴が上がってるからそのふたつが2月の静香の主な取り組みとなる。


そして大学を出た後、静香は自宅に戻るが昼過ぎには早速都内のホテルに行かなければならない。今日は女流名人戦第三局の前夜祭があるからだ。対局場所が都内のホテル、対局相手は今泉先生だ。


旅の疲れはあるもののまあギリギリな日程を組んだ静香とその仲間たちの所為なので自業自得だ。だから静香はマスコミが勢ぞろいした前夜祭で精一杯頑張ったつもりだ。今朝アメリカから帰り着いたばかりなので、特に記者会見もしていないから当たり前だけど、将棋と関係のない質問が続くのはやめて欲しい。


「グラマフでメジャータイトルを2年連続、複数獲得という快挙を、最初にどなたにお伝えされましたか?」


「ケイト=オブライエンです。昨年は偶然ですが、今年は隣の席にしてもらうようにあらかじめ伝えていたので」


グラマフの後もアメリカに残った静香は、ケイトと合同でライブも行った。ケイトのおかげで高いチケットも飛ぶように売れた。


「日本人初の主演女優賞、名前を呼ばれた時の気持ちはいかがでしたか」


「もちろん単純に嬉しかったです。評価されるのは名誉なことですから。なのでこの女流名人も力を込めて狙っていきたいと思います。」


女流名人の前夜祭は大いに盛り上がったけれど、静香個人のテンションは下がってしまう。だってマスコミだけでなく、将棋関係者からの質問もアメリカでの受賞に集中してしまうのはどうかと思う。


女流名人は決して軽いタイトルではない。静香が今泉女流名人だったら切れていたと思うが、少なくとも見た目からは今泉先生にも特に怒った様子もないから流石だ。……もう呆れているのかもしれないけれど。


静香は前夜祭を早々に切り上げて眠りについた。勝つために時差ボケも体力も直しておかなければならない。


そして翌日の対局、第1局の時点でわかっていたことだけど、今日の静香は後手番。今泉先生の穴熊に対し静香も穴熊で対抗した。今泉先生は昨年の今ごろは女流四冠だったが、今年の秋には白銀を向田先生に奪われ、今持っているタイトルはこの女流名人のみ。しかも最初の二局を落としているのでもう後がない状況になっている。


「負けました」


断腸の思いで吐き出された今泉先生の言葉に静香はありがとうございました、と言って深く礼をした。これで静香は女流七冠、来年の女流戦は、白銀を除いてタイトルマッチのみとなった。逆に今泉先生は数年ぶりの無冠。肩書は女流五段になる。


感想戦を少しした後に会見がある。ここでも将棋以外の話ばかり聞かれた。

そりゃあグラマフとアカディムアを獲って凱旋してきたわけだけど、ここは女流名人のタイトルを獲って女流七冠になった場なわけですよ。


「質問は将棋に関することに限定して頂けませんか。今は七冠を獲れたことでとても感激しているんです。皆さまもご協力よろしくお願いします」


静香は我慢ができなくなったので一言、言わせてもらうことにした。こういうのが続けば将棋界の人は私を疎ましく思うだろう。だが、こういったことで将棋に興味を持ってくれる人もいるわけで普及という意味ではとても美味しい。なにが正解なのかわからない。


これは静香が、なんとか手探りで正解を見つける努力を続けていかなければならない問題だ。


「では将棋の件についてお伺いします。現在棋戦で24連勝されており、歴代でも4位タイになりました。昨年度のご自身の記録32連勝を塗り替える機会もあると思いますが意識していらっしゃいますか?」


確かに将棋の話だけど、ここは女流の話をして欲しかったなあ。でも、まあ許す。


「こうやってご指摘された時は意識しますが、常に一局一局を大事に指したいと思います」


こんな当たり前の答えしか返さないけど。そしてここで女流についての質問がようやくきた。

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