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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
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176.天道家(3)

初詣から帰って来た後も、静香は自宅のリビングで家族とともにごろごろしていた。千夜が出る新春特別バラエティ番組が始まると、そのチャンネルに変えて、家族でそれを見た。


千夜はあまり自分が出ている番組を見ない。特にこうやって家族そろって自宅で見るなんて、ほぼ初めてではないかと思う。


「これって本当にガチやってるの?」


「さっきのはだいたい台本通り、ロケ場所のは台本なしのフリートーク」


「この人は普段もこんなに乱暴な人なのかな?」


「いやこれは演出だよ。本当は礼儀の正しい人だけど、そういうキャラクターを演じてるの。ちょうど私と千夜みたいなものかな」


こんな感じで静香は芸能界にまつわるいろんな事を家族に聞かれてはそれに答えていた。


「千夜ちゃんは静香そのものでしょ?」


「かなり違うと思う。お母さんだって家の中と外で人に対する態度が変わるでしょう?」


正直バラエティ番組は普段あまり出ないのでわからないことが多い。そういった時には、『さあ?』の一言で返す。だって本当にわからないだもの。


そして、たまにスマホに来るメッセージに返事をしながらリビングでごろごろを続けていたが、やがて17時が近づいてきたので自室に戻って、あらかじめ明石さんから聞いていたサイトをブックマークから開いた。


自室のパソコンであらかじめ聞いていたURLのブックマークを開くと、千夜の歌っている写真を加工した背景に 「Coming Soon」 という文字とカウントダウンされるタイマー、そしてその下に日本語で文面が出て来た。


『1月1日 PST(米国太平洋標準時)0時、JST(日本標準時)17時より、弊社プラスドクリップから新サービスの開始とそれに関する特別イベントをオンラインで開催します』


つまりあと10分弱で、千夜のスポンサー様の新サービス発表とイベントが開始される。そんな大切な時に、イメージキャラクターを務める千夜がこんなところにいていいのかと思わないでもないが、今回のイベントでは事前に収録したビデオが流されるだけなので、千夜自身は自室のパソコンでそれを眺めている。千夜が今できるのは上手くいきますようにと願うことだけ。


カウントが1分を切ると音楽が流れ始める。このイベント用に「Everything is Forgettable」のイブラヒムが書き下ろしてくれた新曲で、当然これが初お披露目だ。スラム奏法によるギターのイントロが15秒ほどあって、そこから千夜のボーカルが入る。そう言えば、去年は弾き語りの曲が多くなり過ぎたので、今年はもっとミュージシャンを入れよう、と明石さんたちが計画しているらしいが、この曲はまだ弾き語りだ。


ともかく千夜の歌声が流れる中、残り10秒からカウントダウンが始まり、0と同時に会場、たしかサンフランシスコかどこかと聞いた、の暗い舞台をLEDの照明が縦横無尽に駆け巡る。千夜の歌声が小さくなる。


ところでプラスドクリップって、本社は東海岸のフィラデルフィアじゃなかったっけ? なぜわざわざサンフランシスコで記者会見をやるのだろう。


「お待たせしました。ただいまより私どもプラスドクリップCEO、メルヴィン=ディラーフより、新サービスの発表をさせて頂きます」


これ当然現地では英語でアナウンスされていて、それも聞こえてくるのだけれど、わずかな遅れだけでAIが日本語に翻訳してるんだって。素晴らしい技術なんだけど、千夜は英語に変えることにした。


舞台の照明が明るくなって、CEOが登場する。会場に好意的な拍手が満ちる。プラスドクリップは現在最先端のIT企業の一つで、メガプラットフォームを世界に展開している。なお千夜はこのプラスドクリップ社の設立者でもあるCEOに会ったことがあるが、軽く言葉を交わしただけだった。千夜と話をするのは、元々日本法人の広報担当者、そのうちアメリカ本社の広報担当者とも話をすることが増えている。なお、世界的にはものすごい有名人で、千夜以上かもしれない。


そのディラーフCEOが拍手をうけながら舞台中央の演壇に辿り着き、しばらく拍手を浴びた後、静かにするようにジェスチャーをすると拍手が止んだ。静香にはなにか訓練されているような気がした。普通の観衆ではなくて社員、あるいは雇われたプロかもしれない。


「我々プラスドクリップ社は、設立以来常に成長を続けてきました。今年……いや昨年も想定以上の成長を見せました。これもユーザーの皆様から頂いた厚い支持のおかげです」


ちなみにこの演説の間もBGMとして千夜の歌声が小さく聞こえる。自分の声だけど邪魔なような気もする。


また拍手が始まり、そして今度はジェスチャーもなくそれが止む。やはり訓練されているのか、それともこれがいつものことなのか。千夜はプラスドクリップ社について立場上それなりに詳しいけれど、CEOの講演は今まで見たことが無かった。


「そして年が変わった今、我々は新たなサービスを立ち上げます」


CEOの言葉が終わるや否や、その背後の大型スクリーンに他ならぬ千夜がアップで表示された。

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