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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
174/284

174.天道家(1)

静香は西さんに自宅で起こされるまでずっと寝ていた。


『あれっ、櫛木さんってちゃんと降りました?』


まだ寝足りないながらも、なんとか起きて運転席の西さんに聞いた。


『はい、ちゃんと降ろしましたよ。お母さまにも申し訳ありません、とお伝えしました』


ああ、連絡はしてたみたいだけど、親御さんも心配されてただろうしね。櫛木さんを引き留めていた張本人の代わりに西さんは謝罪してくれたのだ。


『色々押し付けてすいません。西さんもあんまり寝てないですよね。それなのに私ばっかり寝て申し訳ないです』


『いや、私は昨日(大晦日)は事務所に夕方出社して、その後も待機していただけなので問題ないですよ。天道さんの方がまだお疲れだと思うので今日

だけはゆっくりしてください』


そうだよね、明日からもう仕事なんだなぁ。なお明石さんは静香が櫛木さんと指している間に西さんと交代している。


「ありがとうございます。それではおやすみなさい」


ごゆっくり、そう言って西さんが車を出した。明けましての挨拶は、明石さんと交代した時に既に済ませている。


静香はあくびをしながらマンションのエントランスに入るとそのままふらふらと自宅に戻った。両親とめずらしく家にいた兄に、新年の挨拶をしてそのまま寝ることにした。聞いたところ、兄も静香より30分ぐらい前に帰って来たばかりだという。


両親は一緒におせちを食べようと誘ってくれたけれど、静香は公共放送の食堂で、余ったお弁当を櫛木さんと何回か食べたので全然お腹がすいていない。それよりも眠い。あまり家庭を顧みない放蕩娘ほうとうむすめで申し訳ない。そして静香が自室にいくのにかこつけて、放蕩息子の兄もさりげなく自室に戻ろうとしていた。


お昼に目覚ましで起きて、ようやく家族そろってご飯を食べた。


「静香の今年の目標はなにかあるの?」


一家団欒の中で母からそんなことを聞かれた。本当は櫛木さんみたいにタイトルを取りたいけどどう考えても無理。


「そうね。健康で暮らせたらいいかな」


今のところ一番近いのが2月から本戦が始まる鋭王戦? 静香は今回は一般棋戦(この場合夕陽杯)優勝者ということで予選免除、まだ一局も指していない。そして本戦の持ち時間は3時間とタイトルの本戦としては短い方だし、番勝負も4時間。それでもあのレベルの人たち相手では無理だよね……


タイトルが取れないということは八段昇段も無理。八段になるにはタイトル、それも竜帝以外なら二期以上、を取る必要がある。


それ以外にもA級に昇級しても八段になれるが、現在C1リーグに所属する静香はこのまま全勝しても来季はB2。それ以外は勝数規定で、七段になってから190勝するしかないが、それには何年かかるんだろう……。


あとは留年しませんようにとかその手の切実な願い事はあるけれど、新年の抱負としてはなにか嫌だ。


「今年もグラマフ賞、そしてアカディムア賞にもノミネートされてるんだろ? 今年も賞が欲しくねーの?」


今年大学を卒業する兄が聞く。


「もちろんもらえるのなら欲しい。でもさ、あれはもう私の努力云々の話じゃないからね。わかんないもん。どっちかというと私が聞きたいのは兄ちゃんさぁ、もう就職するから私服とかいらなくなるんじゃない? あれ頂戴よ」


いきなりおねだりされた兄が嫌な顔をする。


「いや、行った職場がカジュアルかもしれないし、在宅勤務だってあるかもしれない。金持ちのクセに俺にタカるなよ」


静香は即座に言い返す。


「金持ちじゃありませーん。今年、いや去年か、の私の収入は300万円でーす。授業料とか交友費で消えちゃいまーす」


「いや、だってそれ、ほとんどを自分で作った法人に寄付してるんだから詐欺っぽくね? それに授業料だって国立だから100万もしないだろ? 女子大生なのに遊興費高すぎだろ。もっと勉強しろよ」


本来なら医療法人を設立するにはいろいろと困難な手続きが必要。東京都の場合受付期間まで決まっていて、その後の審議スケジュールは決まっており、設立されるまでにはかなり時間が必要。普通は1年程度かかる。


そして実際に病院を設立するまでの期間や医療法人社員の選出など、様々な制限があるのだけど、都知事など偉い人の政治的な意向があって、いろいろと特例で年内ギリギリに認められた。


そしてその医療法人、といっても病院ができるのは最短でも約5年後だけど、それに静香は自分のお給料の大半を寄付している。出資ではなくて寄付なので静香個人の元にこのお金が戻って来ることはない。仮に病院が設立されなかった場合、あるいはすぐ解散した場合、医療法人に残った財産はすべて国や地方公共団体に収められる。


その代わり、国税庁の許可を得たので、ほぼ全額が実際に病院を開設するための資金としてプールされている。


ゆくゆくは自分以外の人からも寄付金を受けられるようにしたいし、より税制的に有利な特定医療法人や、社会医療法人を目指すのもありなんだけど、そうすると自由診療の比率を下げないといけないので、静香の理想とずれてしまうのでなかなか悩ましい。

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