表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
159/284

159.日本歌勝負(1)

11月も終わりが見える頃には大海ドラマの撮影も追いつき、むしろ時間に余裕ができたとプロデューサーから聞いた。


「でも千夜は忙しいからな、撮れるうちに撮っておくぞ」


それはいいんだけど、そのリテイクなしでどんどん進む原因が、一時週刊誌に書かれ、その後ネットで広がったように、事務所の力で、プロデューサーたちも事務所に逆らえないとかだったりしたら嫌だなあと思う。


西さんに聞いた時も、そんなことできたら苦労しないですよ、と言っていたし、公共放送にとっても自分のところの看板番組で下手な妥協はしないと思う。だから盤外からのヤジは無視して、自分のやるべきことをひとつひとつこなしていこうと思う。


なおタイトルに王手をかけていた櫛木さんは後手番で御厨先生に負けて3勝2敗。次は来月の先手番。ここで勝てるかどうかが大きな山になる。もし負けたら最終の第7局はまた振駒だ。


そうバタバタしているうちにさらに忙しくなる12月になった。


12月も棋戦が多いし、アルバム、ミュージカル映画、そして大海ドラマといくつもの宣伝するプロモーションが始まる。また、大海ドラマの主演と同時に決まっていたことだけど、大晦日にある日本歌勝負にも出なければいけない。これがまたいろいろやることが山のようにあるんだな。


今回千夜は紅組の司会を任されている。これは大海ドラマが決まった後で伝えられた。つまり最初から最後まで画面に出ずっぱりだ。この番組はスケジュールが秒単位なので、それだけでも相当に忙しい。そして千夜は歌手なので当然ながら自分が歌うところもある。初出場、初司会で1曲だけではなくメドレーを歌う。順番も最後から4番目と大御所扱いだ。


歌う曲と、歌い方が弾き語り、そして時間は公共放送が決めている。それをどうアレンジして弾き語りをするかは千夜側に任されている。


千夜が編曲した方が早いのだけど、大久保さんが手配するミュージシャンにメドレーの下地を作ってもらって、それを千夜が引き継いで本番に合わせる形だ。なんせ秒単位なのできっちり終わらせないといけないのが辛い。


なおおそらくはもっとややこしいはずの、権利関係は事務所に丸投げだけど、すぐに終わったという。権利者の皆さまありがとうございます。


正直に言うと司会だって、台本が一言一句決まっているので辛い。映画でもドラマでもアドリブを適度に入れた方が緊張感も保てるし、お客さんの反応も良いのではないかと思う。時間管理を含めても、ガチガチに決まっているより楽じゃないかと思うのだけど、この番組ではそういったことは許されない。まるで駆け出しの頃のように一言一句セリフが決まっている。


あと応援。基本的に司会者は司会者として応援する。例えばペンライトを振ったりなので、基本他の歌手が歌っている時にバックダンサーを務めたりはしないので、その点ではあまり負担はない。


だが滅多にテレビに出てこない千夜が好きな大物シンガーソングライター、中谷雪実なかたにゆきみさんが紅組のトリを務めるということを聞いて思わず、『大ファンなんですよね』、と言ってしまったのがいけなかった。


千夜が中谷さんのバックミュージシャンとしてギターを弾いて、途中から中谷さんの周囲でダンスをするという演出が入ることになってしまった。多分プロデューサーも善意で発案し、中谷さんも善意でそれを受け入れてくれたのだろう。


つまり自分の出番の次の次にその演出があって、その後白組のトリが入って、最後に司会者としてエンディングに入るという最後に詰め過ぎじゃないかなというスケジュールになってしまった。


そして出番はそれだけではない。今年の歌勝負では実は唯一、台本が無いところがある。これは序盤にあるのだけれど、千夜が本名で将棋の棋士としても活動していることから、とある将棋をテーマにした曲の演奏中に一局指すというイベントが挟まる。


なお対局相手は歌勝負の特別審査員を務めることになっており、その役目は現時点では竜帝とだけ決まっている。というのも、御厨先生が第5局、第6局と勝ち、タイトルの行方ゆくえが最終局にもつれ込んだのでまだ確定していない。多分公共放送のプロデューサーは櫛木さんが中学生で竜帝を獲る、という偉業をあっさりと成し遂げると思っていたのかもしれない。櫛木さんから見て〇〇●〇●●?だからね。


対局自体は曲の開始前から始まるという演出だけど、それでも3分切れ負けぐらいのスピードで指さないといけない。御厨先生も櫛木さんも、勝負としてもエンターテナーとしても、この狂った条件で千夜と指すだけの力量は持っているはずだけどそれでも心配ではある。


『事前に一度対局しておいて、それを並べるのでいいんじゃないですか?』


などとADのひとりが言ったので、「静香」は思わず言い返した。


『それならこの演出は止めましょう』


プロの将棋指し、それも名人と並ぶ最強の竜帝ならば、この程度の制限など苦にもせずに、エンターテイメントと勝負を両立する程度のことはできる。静香はそう叫びたくなる感情を押さえて静かにそう言った。千夜は自分が役者で良かったと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ