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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
147/285

147.冬学期(1)

ミュージカルの撮影が終わって日本に帰って来ると冬学期が始まった。これがまた取るべき単位が多い。


静香は久しぶりに会った純子じゅんこ美桜みおの3人で昼ごはんを食べた。休み中もメッセージのやり取りはしていたが、こうやって顔を合わせて話すのとはまた違う。


「結局ウフィツィには行けたの?」


ヨーロッパには6年間住んだことのあるという美桜が言う。ウフィツィはフィレンツェにある有名な美術館。イタリアに行くならそのあたりまで足を延ばしたい、という話をしていた。


「ベネチアのグッゲンハイム美術館にすら行かなかったわ」


わざわざ「ベネチアの」とつけるのは、ニューヨークやビルバオなど世界各地にあるから。同じ財団が管理しているけど、収集したのは同じ一族の別人。


「それは残念ね。メトロポリタンは行った?」


それはニューヨークにある美術館だ。これら一連の会話でわかると思うが美桜は美術館が好きなのだ。


「私はアメリカには西海岸にしか行ったことが無いわ。しかも今回LAで見た観光地はチャイニーズ・シアターを車の中から見たぐらいね」


千夜の撮影期間は短かったので、夜中まで撮影した日が多かった。


「それはつまらないわね」


休み期間中はご両親のいるニュージーランドで、ウィンタースポーツを楽しんだという純子が言う。一方美桜(みお)は休み中、久しぶりに帰国して過ごす長期休みで、日本のあちこちを訪問して楽しんだという。


「でも日系の華人を演じたんでしょ? TLPの成果を見せられたんじゃないの?」


静香たちは寄せ集めのインタークラスに所属している。だから厳密には静香と同じクラスなのは純子とあと男子ひとりだけ。文系の美桜とは本来は別のクラス。TLPという中国語を第二外国語として使いこなせるようになろう、ということが唯一の共通点だ。


「いや。まだ半年だからね。結構セリフに指導が入ったよ。一か所だけだけど、難しいセリフが日本語に替えられたところもあるよ。撮影期間も短かったしね」


短かったのは静香の撮影期間で、おそらく他の面々はまだ撮影している。


まあ歌はいいんだよ。リズムもメロディもあるし、別録もする。だから普通の演技の部分のセリフが問題。いやここも別録してもいいけど、言葉と口の動きが違うとまずいから、中国語(普通語)にする必要がないところが一か所変更された。


「ともかく1A(1年生冬学期)も真面目に勉強しないといけないってこと」


静香がそういうと美桜が返す。


「静香はさ、もうある意味社会人なんだから、大学は適当でいいんじゃないの」


そうはいかないのが医学生だ。


「いや、私も静香も医学生を目指してるわけだからさ。下手な医者になったら、人の命を奪っちゃうわけじゃない? だから私もそうだけど静香も勉強しなきゃいけないわけよ。美桜だってなにかしらのプロになりたいわけでしょ? それが弁護士なのか官僚なのかは知らないけれど」


「まあ、そうなんだけどねえ」


純子と美桜がふたりで自分の話をしているのを静香は黙って聞いていた。実際は経営者というかパトロンを目指しているのだけれど、それでも直接診断することもあるだろう。昼食後の3限目が終わったら部室に顔出しに行こうかなあ。千夜研にも挨拶ぐらいしてもいい。


「静香。そう言えばさ、来年の大海ドラマの主演決まったんでしょ? あれって今から撮影して間に合うの?」


大海ドラマというのは公共放送で1年間にわたって放映されるドラマだ。いろんなパターンがあるが、歴史上の人物を主役にして、ノンフィクションにフィクションで味付けしたような作品が多い。結構大物の俳優がキャスティングされることが多いので、静香も千夜が選ばれるとは思っていなかった。


「さあ? 私もヨーロッパに行っている最中に聞いて、帰国の時の記者会見で話をしただけだからね」


どれくらい忙しくなるのかはわからないが、これからは女優業が多くなることは間違いない。


「だって静香のコメントも結構詳細に掲載されてたよ?」


「ああ、あれは事務所のマネージャーさんが原案作ってくれて、それに私はちょっと足して、そのあとライターが書いて私が最終チェックしただけだから」


最近はこういったゴーストライティングも多い。ファンの人には申し訳ない。もっとファンとの接点を増やさなければならないのだけど、ちゃんとそれらをこなせていない。


「静香は持統天皇でしょ? 百人一首の2番の人だよね」


春すぎて 夏来にけらし 白妙しろたへの 

ころもほすてふ あま香具山かぐやま


そう1番の天智天皇(中大兄皇子)の娘であり、天武天皇の皇后であり、ひ孫に聖武天皇がいる女性天皇。


主演女優が知らないまま、既にクランクインしていて、そこそこ撮影も進んでいるというのもスゴイ話だと思う。持統天皇の子ども時代、鸕野讚良うののささら(「さらら」と読む場合もあるがこのドラマでは「ささら」)の少女時代は子役が演じていて、そろそろ撮影が終了するそうだ。


ある意味、まさに今もハリウッドで撮り続けているミュージカル映画の逆なのだけど、そこまではふたりに言わない。



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