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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
143/284

143.夏休み(9)

ジャンル違いにも関わらず千夜のライブは盛り上がった。どうせ途中からケイトが乱入して来るのだから、ハウリングを恐れて音を絞っても仕方が無いので、音はどんどん大きくだした。


歌うのは元々の千夜の曲だし、しかも弾き語りだからベースミュージックとはとても言えないが、千夜は高速でベースの弦を指で叩くように普段とは異なるアレンジをどんどん入れて弾き、同様にアレンジして歌も歌う。ソロだからアドリブも入れ放題。もちろん単音以外にコード(和音)も入れながらバッキングを弾く。


ギターと同じ6弦のベースだから、普段アコースティックギターを弾いているのであればこのアコースティックベースも弾けるよね、などと単純には思わないでほしい。


まずなんといっても大きさが違う。前も書いたけど、ボディが一回り大きいし、ロングスケールだからネックの長さも違う。つまり重い。だからずっと立って弾くのではなくて座って弾く曲も混ぜた。


そして弦の太さも張力も違う。左手はもちろんすべての指を使うけれどアコギとはかなり勝手が違う。コードがそもそも違うし、大きさが違うので同じ感覚だと弾けない。


そして指弾きだから、右手の薬指や小指のワンフィンガーでそれなりに大きな音を出すのは結構練習したけど、それでもかなり辛い。いやツーフィンガーでも辛い。そしてリズム、コード、メロディとすることも多い。


特にこのフェスはベースミュージックの祭典。シンセサイザーやドラムマシンの高速なビートが当たり前の世界。迎合と言われるとちょっとしゃくだけど、やっぱりベースミュージックのフェスだからベース、それも普通のベースミュージックでは普通使わないアコースティックベースを使っているというのも、観客に受け入れられている原因ではないかと思う。思いたい。健気にアコベを弾く頑張る千夜にシンパシーを感じてくれている人もいるのではないだろうか?


当然ながら千夜もいろいろと疲れるので、随所にルート弾きと言われる、一つの音だけを一小節鳴らすところも混ぜながらなんとか騙し騙しやっている。いやベースって基本はルート弾きだと思う。ソロでなければの話だけれど……


会場は予想以上に盛り上がっている。単純に千夜が有名なことと、アコベを使っていることが原因と思われるが、千夜の必死さも伝わっているのではないだろうか?


なぜ千夜が必死なのか? それは途中からステージにケイトを呼ぶので、『ケイトリンが来てからやっと盛り上がったよね』と言われないように千夜が頑張って弾き語りをしているうちに、拍手や掛け声もどんどん増えてくれる。


お客さんの反応はアメリカでのライブの方が上。でもあれは千夜のファンが来てくれたものだから完全にホームゲーム。今回はジャンル違いのところに入り込んでいるので、いわばアウェイ。いやもちろん千夜目当てで来てくれているファンもいると信じているけど。


あともしかしたらアメリカとクロアチア、あるいはヨーロッパの違いもあるかもしれないし、グラマフ直前という空気も影響を与えていたかもしれない。


最初に1曲弾いた後、MCで挨拶と感謝とあとちょっとした小話。そこから2曲弾いた後に、今日の相棒であるABC-86を軽く弾きながら、ちょっとこの子を紹介。アンプを切って生音も聞いてもらう。会場が広い野外フェスだから前の方にしか聴こえていないと思うけど。


でもこのABC-86には結構な観客が興味を持ってくれたみたい。まあ相当癖のある楽器だからな。千夜だって今後はこの『アウトスタンドフェス』でのような使い方はしないと思う。


そこから端折りながら2曲歌った。これで場も十分にあったまっているはずだ。MCとしてフェスのみんなに今日はどう? などと聞いてみる。『グレイト』などと返って来るのでとても嬉しい。この後の展開がどうなるかわからないので、ちょっと一休み的なMCを終えた後、千夜は曲名も告げずに曲を始める。


ルート弾きを何小節か繰り返すと、いきなりケイトのピーキーなギターの音が混じって来る。でもその姿はまだステージに出てこない。


ケイトのギターが変拍子でアレンジしてくるので、千夜のベースは大変。これぶっつけなんですけど? 千夜は熟練どころかベーシストとしては初ライブなんですけれど? ケイトも待たせ過ぎてフラストレーションを溜めちゃったのかもしれない。


一方の観客も戸惑っているのが判る。千夜は普段自分の曲しか歌わないし、こんなギターソロを入れたことのある曲もない。そもそも今弾いているのはアコベだから、誰がなぜギターをかき鳴らし始めたのかわからないのだろう。でもちゃんとベースとあっているから、手違いだとは思わないけど、これから何が始まるのかわからないのだろう。


何フレーズかこの状況が続いた後、ケイトがメロディを弾き始めたので千夜もそれに合わす。ケイトの曲、それも誰でも知っている曲なので安心。そこで観客が戸惑い始めたところにご本人が満を持してステージに現れた。

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