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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
136/284

136.夏休み(2)

8月末、予定通り千夜は羽田を発ち、イタリアのマルコポーロ空港に舞い降りた。約2週間のバカンスというかお仕事だ。しかしこうも毎回ビジネスジェットを使っていてもいいものなのだろうか?


まあ今は菱井物産様がスポンサーとして提供していくれているが、そうでなくなったら、エコノミー? せめてビジネスぐらい乗れると思うのだけど……どうだろう?


成人すれば、親に預けているカードと通帳を返してもらうことになっていた。だが既に18歳だけど、千夜はまだ両親にその話をしていない。親は親で暗証番号を知らないから、記帳だけならできるけど、そんなのわざわざ行っていないだろう。だから実際にどれくらい千夜の口座にお金が貯まっているのかを実はよく知らない。


実際、事務所からもらう給与明細にある非現実的な数字は何回か見たし、将棋連盟からもお金が振り込まれていることを知っている。年末調整は将棋の分も含めて、事務所が手配してくれた税理士さんが対応してくれていて、もっと節税対策した方が良いですね、と言われている。今の内から将来の病院のための財団とか作れないだろうか? 今度相談してみようと思う。


実際問題、静香が理想とする病院を設立する場合、医療法人財団を設立することになるだろう。静香が卒業し、さらに実際に病院を開設するまでの間を準備期間としておくことは可能だろうか? このあたり法律に詳しい人に聞いてみたいところだ。


つまり実際に病院を開設するまでに得た収入のうち、大半を静香が設立した財団に寄付する。寄付すればその分は節税でき、後々に病院を設立する際の助けになるはずだ。当たり前だけど財団に寄付したお金はまだ存在しない病院のためにしか使えなくなる。


さて妄想はどこかに置いておいて、空港から先どうするかも既に決まっている。空港からは荷物類とスタッフの大半はチャーターされたクルーザーに載せ、千夜自身と明石さん、あと撮影クルーはやはりチャーターされた水上タクシーに乗る。


前者と後者は大きく違う。クルーザーの方が大きくて速い。だから今後の空港や『アウトスタンド』フェスの会場への移動も基本はクルーザーを使う。なおこのクルーザーもこれを操る船長もスポンサー様である破魔矢様からご提供頂いております。楽器以外にもいろいろ作っている会社がバックにいるというのは大変ありがたい。さすがにこのクルーザーは日本から持って来たわけではなくて、こちらで展示などで使っていたものだという。


でも今日はせっかくだから、この水上タクシーを使って、高名なベネチアの大運河を通り抜け、その街並みを堪能してから、そのまま映画祭の会場であるリド島へと向かう予定だ。空港は海に隣接しており、道路側には普通のタクシー乗り場があり、海側には水上タクシー乗り場がある。


他のスタッフが機材や衣装などをクルーザーに積み込むのを横目に水上タクシーに乗り込む。


水上タクシーとはつまりボートなのだが、公園の手漕ぎボートを想像してはいけない。例えるならば、オープンカーのリムジン、リムジンバスではなくて、縦に長くて大きな高級外車を想像して頂きたい。


つまり水上タクシーの運転手席の後ろはコの字型のへりに十分な高さの手すりがあり、それにくっついてソファーが並んでおり、客は10人程度まで座ることができる。そして真ん中にスペースがあって、高速移動時は止めた方がいいが、普通の時は普通に歩いて座る場所を変えたりすることができる。なおオープンカー同様、雨の日には屋根を付けるが、今日は天気も良いので当然開け放しで開放感も抜群。


千夜は運転席の後ろ、つまり船のやや前方に、映画祭の参加者に相応しい服装、ルイッチ製のド派手なドレスを着て座り、その姿をビデオカメラが映している。そしてそのカメラの死角に明石さんがいるという状態だ。


こういった手配もすべて大久保さんがやってくれている。だが彼はクルーザー組なので、今は多分機材の詰め込みを頑張ってくれているのだろう。千夜だけ楽しんで申し訳ない。


水上タクシーは、空港の船着き場を出ると、スピードを上げてベネチアへと向かう。アドリア海の最奥部を滑走しながら、吹き付ける風を浴びるのもとても気持ちがいい。


「めちゃめちゃ風が気持ちいいですね。大物俳優の方が自分のクルーザーを買う理由がわかりますね」


千夜は時折振り向いてビデオカメラに話しかける。カメラマンも明石さんも返事をしてくれないのでちょっと寂しい。


暫くすると船はスピードを落とし、ベネチアと本土を結ぶ鉄道と道路が並ぶリベルタ橋の下を潜り抜ける。橋の高さが低いのでクルーザーでは多分くぐり抜けるのは無理だと思う。それからしばらくして、水の都ベネチアのメインストリート、大運河へと入って行くが、リベルタ橋の周囲は現代的な建物もある。これらのおかげでベネチアの街中であっても、旅行客は不便な思いをせずに観光することができる。なお大運河に入る周辺からは行きかう船も多くなるので、船の速度はさらに落ちる。


いよいよ船はベネチアの街の中に入る。

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