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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
132/285

132.表敬訪問(1)

「さて今日はですね、あそこに見える菱井物産本社で行われている社長講話にですね、乱入してみようと思います。当然ですが手引きしてくれる方がいます。菱井物産広報部の高跳たかとびさんです。わー」


そう言いながら千夜はパチパチと手を叩く。


「早速ですが高跳さん、今日はどのような手はずになっているんですか?」


高跳さんも微妙に偉くなっていて、出世コースに乗ったみたいな話を以前聞いたことがある。


「今日の舞鶴さん、なんか時代劇みたいな言葉が多くないですか?」


高跳さんとはもう半年以上お仕事をさせてもらっているのである程度気心がしれている。カメラは千夜と高跳さんを乗せて移動を続けるロケバス内で撮影している。


「はい、最近勉強用によく見ています。で今日の段取りですがどうですか?」


「えっと今日の朝、社長から緊急で談話があるという話が社長室長の名前で社員全員にメールで通知されています。仕事に差し支えない範囲で、本社ビル内の人間は会議室に来るように、そうでないものは社内会議システムを起動するようにというものです」


「この大きなビルにいる人が全員入れる会議室があるんですか?」


この白々しい会話を自然に聞こえるようにするのが千夜の役割だ。それにしても私は試験期間中に何をやっているのだろう、という気がしないではないが今更か。


「実は11階に、普段廊下の両側に12の会議室があるフロアがあります。ですが、本日は廊下側も含めてすべての壁をとっぱらって大きな会議室というかひとつのフロアにしています。まあところどころの柱は残っちゃうんですけど……これがその映像です」


「おおっ。もう人が集まり始めてますね。でもそんな大がかりな事をしても大丈夫なんですか?」


車が菱井物産の敷地内に入る。


「はい点検やメンテも兼ねてますので」


「見るとホールの真ん中に簡易ステージが作ってありますね。ここから社長さんが語りかけるわけですね? 内容も決まっているんですか?」


このビデオは基本的にお客様の社内ネットワークでのみ公開される。そしてかなり検閲が入った上にかなり短縮化したものがファンクラブ内で公開される予定だ。


「内容は社長に一任していますが、できるだけ深刻そうに話をして欲しいと伝えています」


おそらく守衛さんたちは車が入って来るのを見て緊張しているだろう。


「安心しました。少なくとも社長さんはこのカチコミをご存じだと」


千夜は大げさに安心した仕草をする。


「知っているのは僕と、広報部長、社長の3人だけです。さらにいうと社長には途中から広報部で出し物をしますとしか伝えていません」


車が菱井物産本社ビルの入り口の前に停まった。


「えっ? 大丈夫なんですか、これカメラ入るんですけど、途中で止められませんか?」


三文芝居はまだ続く。


「大丈夫です。取材許可と撮影許可が広報部長名で既に受付に出されています。その写しがこれなんですが……」


「えっと流石に書類まではカメラにお見せできないのですが、かなり大雑把というか、肝心なことは何も書いてませんね」


「多分、受付もこれを見て戸惑ってると思います。あっ定刻になって社長が入ってきましたね。では許可証の写しをお渡ししますので行ってください」


カチコミに参加するのは千夜とカメラマンの二人だけ。そのうち千夜が許可証と剥き出しのギターを持ち。カメラマンは当然カメラで千夜を追う。その後ろからサポートとして高跳さんと明石さんが付いてきているが、できればこのふたりが画面に入らないように済ませたい。


千夜は菱井物産の入口に向けて堂々と入る。広いエントランスを抜け、真っ直ぐに受付を目指す。だが早速守衛さんに止められる。


「そこの人。ここは撮影禁止です。ただちにカメラを止めてください」


千夜は立ち止まると、ほとんど白紙委任に近い取材許可証、撮影許可証を見せる。


「大丈夫です。このとおり事前に許可は頂いていますから。受付で確認しますか?」


当たり前だけど、今日は目いっぱいおしゃれをしている。衣装もルイッチのデザイナーによる一点もの。千夜ひとりの魅力を最大限引き出すためのデザインだ。なおこれも撮影が終われば千夜が貰えるが、ルイッチには菱井物産から費用がでている。


だからこの時点でこのエントランスホール全体の人目を惹いている。キャーみたいな黄色い声が飛んでくる。千夜はもう慣れっこだけど。


受付に行くと、綺麗なお姉さんも当然のように千夜を知ってくれていた。そこで、入館許可証、取材許可証、撮影許可証の3点セットを渡す。お姉さんの目線が泳ぐ。


「えっと……わかりましたどうぞお通りください」


おそらくは千夜の後ろで高跳さんがジェスチャーか何かをしていたに違いない。千夜はエレベーターホールに向かい、11階を押す。同じエレベータの中のカメラに映らない位置に高跳さんと明石さんがいる。


「さて受付はうまく通してもらいましたが、このエレベーターが開いたらすぐホールなので、緊張です。あれっ止まる?」


エレベータは8階で停止して若手と中年の男性二人組が入って来た。


「えっ、これ何?」

「舞鶴千夜……さん?」


千夜は黙って閉めるボタンを押した後、11階でいいですか、とふたりに訊ねた。

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