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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
131/284

131.チームミーティング(3)

続けて社長が聞いた。


「フェスは結局どうしたんだ?」


「今年の夏は、結局条件が折り合わなかったので、国内は無しにしました。単独コンサート開いた方がワリがいいので。9月に『ビエンナーレ』(国際映画祭)がイタリアでありますが、同時期にクロアチアである『アウトスタンド(フェス)』に招かれているのでそちらに出ようかと」


大久保の言葉に沙菜が問いかける。


「ちょっと待って、『アウトスタンド』ってベースミュージックでしょ? 手持ちの曲ってあんまり無いんじゃないの?」


「フェスの担当者は、舞鶴さんに来てもらえるならベースでなくても良いって言ってましたよ。条件も悪くないし、意外性もある。なんといっても『ビエンナーレ』と同時期で場所も近いです」


大久保の言葉にも沙菜はちょっと考え込んでいる。沙菜はなんやかんや千夜ちゃんに対して過保護だと思う。


「いいんじゃねーか。千夜のことだからなんとかするだろ? 来年は今年スキップされた、『グラスバレー』のヘッドライナーが決まっているんだから、一度ヨーロッパのフェスに出るのもいいだろう」


一方社長は放任だなあ。まあこれで上手くいっているんだからいいのかな、と藤江は思った。


「では次、魚住さん。なにかありますか?」


知恵袋的な立ち位置の魚住は、基本自分だけのタスクは持たない。


「うん。大学側と建設的な話が進んだ。やはりトップの了解を得ると話が早いのは官僚的だな」


だが、大学対応に限っては成り行きもあるが魚住がそのまま継続して対応している。


「まずは仕事……金にはならないが、親密度を上げるものだと思ってくれ。大学内の設備や研究室などの紹介番組のナビゲータの仕事だ。公開するのも大学からリンクが貼られるだけだ。公式にはな」


つまり非公式のリンク。例えばファンクラブとかからの導線は貼るということだ。


「そしてこちらの方が重要だ。千夜の出欠については、公益性などを鑑み考慮しないという言質を得た。これは将棋のことを念頭に置いているが、我々の仕事についても同様だ。だから極端な話、千夜が講義をサボっても、期末試験の結果次第で『優』が貰えるということになる。ただし実験や実習についてはその限りではないので、これらはきちんと出ないといけない」


逆に言うと実験や実習が少ない1年、2年の間の芸能活動はやりやすくなったということになる。


「そしてもう一つ。公益的な理由で試験を受けることができない場合、追試を以てそれにあてることになる」


「それって当たり前じゃないんですか?」


藤江は興味本位で魚住に聞いてみた。


「全然違う。例えば試験で40点だと『不可』で追試になる。追試で100点をとってもぎりぎり『可』の50点にしかならない。千夜が公益的な理由で本試験を欠席した場合は、追試で80点を取れば『優』が貰える。あまり悪用すると後で問題になるだろうから、最終手段だけどな。ああ、いずれにせよこれらについてのルール変更は公式な手続きの後だから今すぐ有効ではない」


「公益性の有無の判断が玉虫色なのは困りますが、はっきりさせるのも後で困りそうなので、ほぼ満額回答ですね。ありがとうございます」


沙菜が礼を言う。なにが大学当局の態度を軟化させたのだろう? このあたりが魚住の人脈なのだろうか? 藤江はそう思ったがそれは聞かなかった。今度こっそり聞けば教えてもらえるかもしれない。


「じゃあ次は今週の予定と残課題の確認をしましょう。土山さんいいですか?」


藤江が振ると土山が元気よく答えてくれる。


「はい、まずは舞鶴さんの予定です。今週の棋戦は水曜日夕方に『星雲戦決勝トーナメント1回戦』があり土曜日には『女流名人リーグ第4局』があります。特に前者は全国の地上波で放送されるので、ルイッチさんから提供されている衣装があります」


まずは棋戦についてこれはもう動かせない予定だ。


「後は来月にリリースされる『庭の花火』の宣伝を兼ねたバラエティ系番組の撮影が今日の月曜、そして木曜日にありますね。こちらも衣装等調整済です。撮影はすべて夜で、先方が舞鶴さんに撮影スケジュールを合わせて頂いています。木曜以降は下期のCM撮影に入ります」


火曜日は静香が朝から夕方まで講義を入れているので、基本千夜はオフだ。この日に部活にいったりたまにはサークルに顔を出したりしているらしい。将棋部はわかるけれど、『舞鶴千夜研究会』なんか行っても苦痛しかないのではないかと藤江は思う。


『なんか名誉会長になっちゃいました』


千夜が沙菜にそう言っていたのを藤江もその横で聞いた。


なお『庭の花火』はこの夏二枚目のアルバム。タイアップしているCM群が一通り流れ始めるので、『booties』と一ヶ月程の差が開いてリリースする。全部日本語の曲だからCD媒体は国内のみ。だがダウンロード販売ではこちらもダブルスコアで国外の方が上だ。特に千夜が初めて作曲し、MVでは実際の卒業式で歌ったシーンが使われる『羽撃はばたくとき』は卒業式後に不正アップロードされた動画のPVが消されるまでの短時間で100万PVを達成していたので、注目度が高い。土山が一旦言葉を切る。


「課題は……『アウトスタンド』に出るかどうかを早めに決めないといけないことが優先順位の一番ですね。『ビエンナーレ』での予定も左右しますし、今日のうちに舞鶴さんに打診して、OKなら早速準備をしないといけないです。あとは各局に押し込むバーターのリストも最新化してもらわないといけないです。あとは来週の菱井物産さんへの表敬訪問に漏れがないか最終確認。そして朝ドラか大海ドラマのどちらを選ぶかという話ですね。どちらに出るにしても大晦日の歌勝負出演もついて来ますね。あと、『booties』の初速が凄かったのでいろんなアーティストからオファーがきてます。もう一枚分レコーディングすることもできますね。その他の新規オファーはもう一覧で出しますね」


千夜の大学は8月9月がほぼ丸々休みなので、そこが稼ぎどころとなる。だいたい予定は決まっているが、それでもいろいろ調整しなければいけないことは多い。会議はまだこれからが佳境だ。

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