126.コネ作り(2)
このような状況の中で、静香は、南仏ニースの国際映画祭へと飛んだ。今回は別にエコノミーで旅しても良かったのだけど、明石さん・高跳さんがちゃんとビジネスジェットを用意してくれました。
こんなのにのってたら、実際にエコノミークラスに乗る時に我慢できるだろうか?
『エコノミー? あそこでは人間も荷物扱いよ』
美桜がそう言っていたのを千夜は思い出す。
ベルリナーレ国際映画祭、ビエンナーレ国際映画祭と合わせて、俗に3大映画祭と言われるが、このニースでは世界最大の映画の見本市と同時に開催されるというところが他のふたつとの大きな違いになっている。映画の見本市というのは簡単に言うと、映画の製作会社が映画の配給会社に、映画を配給する権利を売る。そのマーケットと言っていい。
そこでは映画祭に出展される映画はもちろんのこと、それ以外の映画についても売買される。
簡単に千夜がらみの映画に絞っても以下のものがある。
まず、千夜が国際的には無名だった頃に撮影された映画がこの見本市に出品されている。デビュー作だった由美ちゃん(鳥居由美)とダブル主演した映画。千夜的には輝かしいデビュー作だが、千夜自身の演技を見返してみると黒歴史でもある。あの作品も舞鶴千夜デビュー作として、マーケットに出展されている。主題歌も千夜だ。
実際日本では去年あたりに妙に人気が出た。舞鶴千夜も駆け出しの頃はこんなド下手くそな演技をしているんだなあ、と目が離せない。いい曲も歌で台無しにしているのが凄く新鮮。こんなレビューが並んでいる……
だから千夜はいろいろ上手く行き過ぎているな、と思う時にこの作品のレビューを見返すことにしている。映画自体を見返す勇気はない。
そして『私の中の大きな森』こちらは自分でも気にいっているので、制作会社には是非こちらの販売に力を入れて欲しい。これら2作は海外ではごく一部でしか上映されていない。だが千夜が国際的に……どちらかというと音楽の方でだけど……有名になったので、これらの作品についても海外の配給会社に販売できる目途がたったとみなされている。
そして目玉商品としては、ニース国際映画祭の方にノミネートされているルフェーブル監督の作品だ。この作品は既に配給が始まっているが、全世界というわけではない。ベルリナーレでいくつかの賞を取ったことで、慎重だった、あるいは条件が合わなかった配給会社と再交渉することになるのだろう。まあ千夜は何もしないけど。
そして次は未完成の作品だ。グラマフの時にマクラウス監督が超短時間で撮った映画の予告編が出展されている。結構監督は何度も構成を入れ替えたりしているのでまだ完成していないと聞いているけど、もう完成間近でプロモーション段階に入ったようだ。予告編だけ見るとめちゃくちゃ面白そうに見えるけどどうなんだろう?
そして前回のグラマフ賞における顛末について、千夜にフィーチャーした映像を集めた作品が、アメリカの大手映画会社の手で作成中。当然こちらも予告編が出展されている。グラマフ賞の場での映像が中心だけど、そこに到るまでの過程については、鎌プロが提供している。これは7月に出る千夜のアルバム『booties』の発売と同時に封切り予定。
さらには今撮影中の渕上監督の映画までそのコンセプトなどが出展されているのだから凄い。こういうことができるのも舞鶴さんのネームバリューのおかげですよ、などと監督におだてられる。普段の撮影中、監督からはかなり細かいディレクションを受けていますけどね。
千夜関連だけでもこれだけの作品が出展されているので、当然千夜はそれぞれのブースに顔だしたり、文字通りの客寄せパンダをする。
そして会場外でもお仕事というかイベントがある。それはパーティだ。世界でも有数の映画会社が開催している。千夜のグラマフ賞の旅に関する映画を製作中の会社はもちろんだけど、今のところ千夜とは無関係の大手映画会社からも次々と招待状が届いた。
すべてに出る時間は無いかもしれないけど、当然できるだけ行って多くの人とお話をするべきだ。各界のセレブリティがいるので映画はもちろんそれ以外の人脈も作れるし、大々的に報道されるのでルイッチ様や滝山呉服店様などスポンサー様の利益にもつながる。まさにいいことづくめ。今回はベルリナーレのようなパフォーマンスを会場ではしないので、こういったパーティの場で、弾き語りを披露させて頂くとそれなりに盛り上がるし、あいさつ代わりにもなるのでとても便利。
そしてきっちり映画祭で賞も頂きました。作品としては「作品賞」を個人としては「女優賞」を頂きました。どちらも1作、ひとりにしか与えられないものなので大変名誉なことだ。この結果が、見本市に出展されている作品群に与える影響も絶対にあるはず。
千夜は大きな戦果をもって日本に帰国した。当たり前だけど渡仏期間中、多くの講義を欠席する羽目に陥ったが、その分は期末試験で頑張ろうと思う。