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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
122/284

122.部活とサークルと研究会(6)

北部長は中1で奨励会を辞めたという。


そうか……


「私は中三の終りに5級まで落ちましたけどね」


静香が自嘲気味に言うと、気を使わせてしまったようだ。また部長の胸元でスマホの振動がわかったが部長はやはり無視。


「いやいや、そこからもう超V字回復どころか、プロになってから1年以下でもう六段でしょ? 天道さんが凄すぎると思う」


「ありがとうございます。ところで先ほどから電話かメッセージが届いているみたいなんですけど……」


そう静香が言っている最中にもぶるぶるしている。


「ああ、これね……これは失敗したなあ」


ん?


「失敗ですか?」


「うん。実は僕もなんだけど将棋部の半分……はないか、でも結構な数の部員が入っているサークルがあるんだよ。そちらのサークルのメッセージグループに天道さんが来た事を自慢しちゃったんだよね」


今ここにいるのは20人足らずだけど、将棋部は100人近くいることを静香は知っている。その将棋部の結構な人数が入っているサークル、ということは結構近い内容のサークルだ。やっぱりそちらもサークル? それもインカレとか?


「えっと、将棋のサークルもあるってことですか?」


「いや将棋とは直接は関係ないかなあ」


なんだろう。そう思っているとさっきの元奨の同級生が話しかけてきた。


「それ、俺も誘われてる奴ですよね。俺も入ろっかな。あんなあ、大学のサークルの中にな、『舞鶴千夜研究会』っていうのがあんねん。通称『千夜研』この前のサークルオリの時に俺も聞いたんよ。本名での活動もありうるから、元々将棋部の人も含め、そこそこの人数がおったんやて」


そんな、なんていうのか、サバトみたいなサークルがあるのか!


「そのうち天道さんがうちの大学受けるとか受けたとかがCMで流れたやん。グラマフとかベルリナーレとかめちゃマスコミでも騒がれたやん。そのせいもあって、どんどん人数が増えたらしいんよ。で、合格したこともCMで流れたやん」


うーん。なんか、なんていうのか、それでいいのかな?


「そんな感じで、ことあるごとに人数が増えてな、ちょっとノリのいい教授とか助手も顔を出したりする、人数だけでいうたらやけどかなり巨大なサークルができたらしいんよ。別に入らんでもええからちょっと顔出してみいへん? あっ、聞いただけやけど、女子も結構多いらしいよ」


あのさあ、と部長がため息をつくように言った。


「実際今、あっちのサークルが大騒ぎになってるんだけど……。ごめんね、天道さんをどうか連れて来てくださいって話が飛び交っているんだよ。どうやら講義を途中で抜けて来た奴はもちろん、本郷からすぐ行くって言いだした先輩たちまでもいるらしくてね。既にサークル部屋は満員になってるらしいから、今天道さんが行ったらメチャクチャになるよ」


なんだろう。今までもファンクラブ会員と交流したことはあったし、サイン会も何度かやったことがある。だがなんだろう。それとは違う異様な雰囲気を感じる。


「そうですねー。なんか怖いもの見たさも確かにありますね」


静香がそう言うと同級生の男子が言う。


「ほな行ってみぃへん? 女神降臨みたいで、めちゃめちゃ面白そうやん」


「だからダメだってば」


部長が止める。そこに別の先輩が入って来た。


「いやどこかに空いてる教室あるんじゃね? 俺らはとりあえずここでもう一局指している間に、他の奴らに空いてる大教室を探してもらおうぜ。天道さん、どう?」


確かに静香の予定は大丈夫だけど……すっごく迷う。明石さんか西さんに電話しようかな……いやたしかあのふたりも今日は休みなんじゃなかったっけ? いや、報連相は大事。静香は鎌プロ千夜担のルームにメッセージを送った。


まあ将棋部と同じようなものか……


「わかりました。でもギターとか持ってきてないですから、なにもできないですよ」


先ほどよりも大きいハンデを付けて多面指し。当たり前だけどハンデが大きくなればなるほど辛くなる。そしてやはり奨励会やプロとは違う強さを持った人たちが多い。学生将棋という持ち時間の短さの関係なのだろう、静香以上に指し手の早い人も多い。荒いけど。そしてある程度得意分野が決まっている人も多い。居飛車穴熊、雁木、ゴキゲン中飛車、3間飛車、レグスぺ、受け将棋。


大学将棋の大きな大会に「学生王座戦」というのがある。ひとつの大学から14人が参加できるが、その中から7人が対局する。そして重要な戦略となるのが、相手のオーダーを読み、それに勝てる、場合によっては捨てる相手をぶつけるというのがとても重要な醍醐味なのだ。


そう思いながら指していると、その最中にも何人かのスマホが同じタイミングで震えていた。この人たちが「千夜研」にも参加している人たちなのだろうか。


「900番使えるって」

「講堂のこと? 俺入ったこと無いわ」


学生会館から講堂まで、将棋部全員で移動することになった。誰もいなくて大丈夫かと言うとメッセージで流したから大丈夫とのこと。


「そうだ、天道さんも将棋部のルームに登録しないとね。あと余計なお世話かもしれないけれど、天道さん個人宛に送るのは僕も含めて禁止というルールにするから。その方がいいよね?」


部長は良く気が回るなあ。もしかしたらお母さんの北先生もファン対応が大変だったのかもしれない。


将棋部以外の面々も引き連れ、人の多い食堂の前を通らないように銀杏並木を通り、1号館の裏を通り抜けたところで講堂へと向かう。危惧したように人の数が増え、中には将棋部の一団を抜いていく小集団もいる。おのずと周囲の先輩達も早足になる。


ええっ、なんでみんなそんなに急ぐの? そして講堂に着いた時、中に入ろうとする人ごみができていた。つまり急いで正解だったということ? やっぱり帰ろうかなと静香は思った。

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