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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
121/284

121.部活とサークルと研究会(5)

美桜も純子も2限は違う講義に出ることになっている。連絡先を交換し一緒に昼ごはんを食べる約束をして、静香は自分が出る講義に行った。そこは大講義室で、静香は2限をボッチで過ごした。どうも遠巻きに見られている感じがする。それから1限目の二人と約束しておいて良かったと思った。


2限が終わり、純子と美桜と合流し、3人で生協の食堂でご飯を食べた。


『静香はこのあとどーすんの?』


純子の英語での問いに静香は少し考えて日本語で答えた。


「私は3限をちょっと覗いたら、その後は部活に行こうと思ってるんだけど」


「静香って部活やる余裕あるの? ただでさえ理Ⅲなのにいろいろお仕事もあるでしょ?」


美桜がごもっともな問いかけをしてきたので、静香は将棋部の話をした。


「多分ほとんど行く余裕は無いと思うけど、それでもメリットはあると思うんだよね。ちょっと打算的だけどね。私はアマチュアの大会には出れないけれど、それでもお互いにメリットがあって喜んでもらえるんじゃないかなと思うの」


『私は何しようかな? やっぱりハイスクールでやってたバスケットかな。美桜は?』


純子は私に近い身長があるので、さぞ活躍できるだろうと思う。運動神経もよさそうだし。


「私はまだ決めてないよ? どちらかというとバイトで稼ごうと思ってるし」


美桜はバイト派らしい。なんのバイトをするかまでは、いまのところ決めていないとのことだけど。


3限が終わると静香は学生会館に向かった。ここのロビーの一角が将棋部のたまり場になっているはずだ。静香が探してみると将棋を指している一群が見つかったのでそちらに向かう。


静香が近づくと、あちらから声がかかった。


「おおっ」

「マジかっ」

「本物?」


「ええっと、こちらが将棋部ですよね」


静香は確信を持っていたが、一応聞いてみた。そう言うや否や、1人の学生が自分の対局相手を捨ててこちらに割り込んできた。


「はいはい。僕が部長のきたです。天道六段ですよね?」


「はい。天道です。よろしくお願いします」


静香は頭を下げた。


「こちらに来られたということは入部されるんですか?」


北部長がかなりの早口で静香に話しかけて来る。


「えっと、北先輩? 先輩に敬語を使われるとちょっと……」


静香はまずそちらが気になった。高校時代、静香は部活をやっていなかったし、あまりそういうのに厳しい学校ではなかったけれど、それでも先輩後輩の区別はちゃんとあったと聞く。


「えっ、でも棋士の先生には年下でも皆『先生』をつけて、敬語で話しますよ」


たしかに将棋の世界にはそういう文化がある。


「でもその先生方は生徒でも部員でもないですよね?」


北先輩はちょっと困った顔をした。


「じゃあ……天道さん。天道さんが将棋部に興味をもってくれるのはとても嬉しいです。でも女子は数人しかいないし……大会に参加できないのはもちろんですし……そもそも天道さんにとって意味があるかがちょっと……」


まさかこんな反応が返って来るとは思わなかった。静香は実際にはなかなか部活に参加できないだろうけれど、自分も大学将棋に学びたいことや、空き時間に指したいことを話した。


「そうであればいいんですけど……」


北部長はなにか自信なさげだ。


「とにかく指して頂けませんか?」


そう言うと表情が良くなった、そして当然のように多面指しが始まった。


「二枚落ちでいいですか?」


そう聞くと、せっかくなので平手でという部員もいたので、その場合はそうした。静香は当たり前のように全員に勝った。これこそサークルクラッシャー、と言う奴かもしれない。


「やっぱり強いなー」


関西のアクセントだ。同級生か先輩かわからないので静香は敬語で話す。


『この前櫛木さんとVSした時と比べると皆さんとっても弱いですね』


なんてことはもちろん言わない。


「いえ、私が思った以上に強い方もいらしたので、結構ドキドキしました」


「そお? ああ、俺も1年やからタメ語でええよ。ここには俺も含めて元奨も何人かおるから、多面指しで二枚落ちなら一矢報いることもできるかな、って思たけど、全然届きそうもなかったわ」


元奨励会員?


「元奨だったら、もしかして私と指したことがある?」


「いや、俺は関西の方やし。でも北部長はこの前、天道さんと昔、奨励会で指したことがある、ってうたはったで? 部長はお母さんも現役の女流棋士やしね」


北女流初段の息子さん? 静香はまだ北女流初段と対局したことはない。北部長と対戦した記憶もない。


ちょうど部長がどこかから戻ってきたので、静香はそのことを聞いてみた。


「そう、うちのお袋が女流棋士ね。天道さんと奨励会で指したのはまだお互い小学生の頃だから、覚えてないのは無理ないよ」


小学生というと、まだ挫折を知らない頃の静香だろう。


「ああ、私が生意気だった頃ですね」


「そして天道さんが調子を落としてきた時には、僕はもう奨励会を辞めていたから」


その時部長の胸ポケットでスマホが震えたが部長は無視して話し続けた


「僕は中1の時に1年かけても3級に上がれなかったから奨励会を辞めた。早めに辞めて正解だったと思う」

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