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みんなで私の背中を推して  作者: 多手ててと
後編:大学生編
114/285

114.昇進(2)

ミニツアーはグラマフ以来のライブということもあって、会場は旅行代理店向けとファンクラブ向けの前売りだけで完売。ファンクラブ向けは抽選制になったという。


ファンクラブ会員は相当増えた。特に外国人の会員の方が日本人の数を上回った。日本人会員も、グラマフ以降増え続けたが、それを上回る爆発的な伸びをしている。実際ファンクラブサイト内の掲示板も日本語の掲示板と同じぐらい、英語の掲示板が存在するのが現状だ。


有志がやっているらしいが、「動静」という掲示板があって、これは誰かが英訳して英語の掲示板にも投稿している。よく新聞に「首相動静」なんて欄があるが、あれの千夜版だと思えばよい。


『朝から夕通学、その後新宿の事務所、夜帰宅』


なにも無い日はこんな短いものだ。簡潔なのは裏に「動静作成掲示板」があって、そこに目撃情報が書き込まれるからだからなお悪い。


だが、監視されているのを感じるのはあまり良くないので千夜はファンクラブ通信の代わりに日記を始めた。千夜しか書き込めない設定になっている掲示板で。千夜が夜日本語で書き込むと、すぐにスタッフが英語側に再投稿してくれる。稀だけど千夜が英語側に書き込むと、日本語に訳して投稿してくれる。夜中なのに。


ともかく今では千夜の日記が一番人気だが「動静」も相変わらず人気がある。


ツアーに話を戻すと、旅行代理店というキーワードに違和感を感じる。これはなにかと言うと、アメリカの富裕層向けの日本ツアーの中に、千夜のコンサートが入っている、という建付けだ。それはそれでスゴイことだ。事務所はファンクラブでの発売価格の倍の値段で代理店に売ったらしい。もちろん旅行代理店は鎌プロ以上に儲けていると思う。



ちょっと早く新宿についたので、久しぶりに二本松さんにスカウトされた所に行ってみた。すると大型スクリーンにまさに千夜が出ていた。そうだ。間合塾様の最後のキャンペーンで、テレビでも、各地の大型スクリーンでも、3年生の最初の方からのCMを連続で流している。


この前家でたまたま最初の方、つまり4月頃のCMを見たら、受験生舐めてるの? って感じだった。まあそういう演出なんですけど……


ここの大型スクリーンでは逆に3月に入ってから撮影したCMをやっている。


『さあ舞鶴さん。これが最後の合否通知です』


『見たくないですね、ちなみに私は念のため今朝、これが届く前からスマホの電源を切ってます』


『さすがですね。実を言いますと、ネットには合格説と不合格説の両方が流れています』


とは言え、この時点で合格者の受験番号は公開されているし、間合塾の人は千夜の受験番号を知っている。だから塾の講師も職員も結果を知っているはずだが、目の前の担当者は結果を知らされていないのか、それとも千夜以上に演技が上手いのか。


『デマ情報が流れているのか……それは見なくてよかったです。では開けて見ます。ご存じかと思いますが、私の受験番号は末尾174番です』


申し込んだのは早いけど受験番号はあいうえお順。例えば理科一類とかを受験していたら、もっと大きな数字になっていたはずだ。


千夜が封筒をおそるおそる開けて、合格者の受験番号を探す。あるとするとだいたい真ん中よりちょっと後ろぐらい。最初に目が付いたのは156番、


千夜が指で辿るのをカメラが追う。別のカメラが千夜の表情を撮る。

158、164、165、168、170、173、174


『ありました!』


『おめでとうございます!』


『ありがとうございます』


『間合塾で冬の収穫を迎えよう』


後で聞いたところ担当者はその日、他の人と隔離されていたという。


「それでも、現場の雰囲気から合格したんだろうな、とは思ってたんですけれど、それでも不安でした。良かったです。舞鶴さん1年間お疲れ様でした」


「いえいえ、こちらこそありがとうございまいた。おかげ様で希望の大学に合格できました。ちなみに来年度も私が担当させて頂くんですよね?」



その後千夜が事務所に着き、警備員に身分証を見せて入り受付に向かう。この受付に限らないけれど、いろんなところが地味に改装されて綺麗になっている。これに自分が貢献できていれば嬉しい。千夜はまず会議室に行くようにという指示を受付から聞いた。


会議室? 昨日までのツアーの反省会かな? そう思って指定された会議室に千夜が行くと明石さんはもちろんだけど10人程の人がいて、その中には社長までいた。


「皆様お疲れ様です」


社長が行儀悪い座り方のまま、おう、と返事をする。当然社外だと誰よりもきっちりされているよ。


「4月になったら、社内の体制をちょっといじるからよ。それを伝えておこうと思ってな。まあ実質的には既に新体制で動いてるわけだけどな」


「そうなんですか?」


千夜も社長の前に座った。


沙菜さながチーフマネージャーになる」


おおっ。それは素晴らしい。


「明石さん、おめでとうございます」


千夜はできるだけの笑顔で明石さんを祝福した。でもそうなると明石さんは千夜の担当を外れるということだ。今だって明石さんの上司のチーフがいるのだけれど、千夜自身は彼に数える程しか会ったことがない。いや、会ったことがないだけで、企画とかいろいろしてくれていることは知っている。昨日までのミニツアーもチーフマネージャーの企画だと聞いている。


「はい。これも舞鶴さんのおかげです。ありがとうございます」


明石さんには本当にお世話になった。高校を卒業して、18歳になって、大学に入る準備をしているうちに、明石さんからも卒業か……いろいろな意味で節目になるんだな、と千夜は思った。

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