14.うその終わりを探して
「良太、いまそういうタチの悪い冗談言ってる場合じゃなくて対策を考えるんでしょ」
「花恋は長瀬が好きで手作りチョコももらったって言ってたし……」
美香はいらだちを隠さなかった。陽空も信じられるはずがなく否定する根拠をあげた。
「それ長瀬の言葉なんだろ? 花恋ちゃんが言ったわけじゃないんだろ? なんでその言葉は嘘じゃないって信じられるんだ?」
良太は冷静にさとす。
「そういえば長瀬から、しかも長瀬と二人きりの時に聞いた言葉だ」
陽空も良太から言われてはじめて長瀬の言葉を無条件に信じ、花恋から確認をとっていないことに気づいた。
美香はまだ納得していない。
「でも手作りチョコをあげたってことは事実なんじゃないの? うそついてもすぐばれるし、それは誇張しようがないと思うけど」
「そうかな? うそのつきようはある。例えば事実だとしても義理かもしれない。今年の2月の時点では俺たちはまだ高校に入学してない。友チョコだけって陽空には言ってたんだし」
「でもカフェで彼女なんだからって会長はっきり言ってたけど?」
美香は良太の言葉に迷いながらも長瀬の決定的な言葉を思い出した。
「だからそれ聞いて変だなって俺も思ったんだ。少なくとも花恋ちゃんはいままでは陽空との関係を崩したくなかったはず、崩すつもりはなかったはずなんだ」
「なんで?」
陽空は思わず聞き返した。良太は指を折りながら根拠をあげていく。
「陽空と花恋ちゃん毎朝一緒に登校してた。しょっちゅう一緒に居たから知らないやつからすればむしろつきあってるって思われてた。でも花恋ちゃん、ずっと陽空にお姉ちゃんって呼ばせたがっていただろ? 花恋ちゃんは誰か特定の恋人を作るよりも陽空と家族ごっこしていることを選んだってことじゃないかな」
「家族ごっこって言い方悪くないか」
「あーごめん、ちょっと適切な言葉見つけられなくてさ」
「うーん、まあいいけど。けど花恋が生徒会長はすごい、かっこいいって言ってたのは事実だぜ」
陽空は良太の言い方に引っかかったが、花恋が長瀬のことを騒いでいたのは陽空も知っていた。
「それな。アイドルにきゃーきゃー言うのと同じじゃね?」
「ううーん? うーん」
陽空は信じたい気持ちとじゃあなんでという気持ちで言葉が出ない。
「俺、やっぱりどうしても変だと思うんだよ。何か裏がありそうだし、このままじゃ花恋ちゃんだってかわいそうじゃん。いまだに三年の女子たちから仲間外れにされてるし」
「え、それ初耳だけど」
「あたしが良太に口止めしてたから。あたしたち、陽空のアップルパイを配ってるから三年の先輩たちとかともつながりあるんだよね。連絡先もけっこういろんな人の知ってるし」
陽空は驚いたが、しれっと美香が口をはさんだ。
「あたし花恋ちゃんのことずっと最低だし自業自得だと思ってる。だって陽空の気持ちに気づいてないわけないじゃん」
「それ俺も思ってた。気づいてないわけないけど、つき合わない理由が俺にはわかんねえ。だけど花恋ちゃんだって陽空のことめちゃくちゃ大事にしてたよな。どう考えても距離が近くて特別だった」
「ううん、そうか? 小さいころからの距離感のままだからかな?」
二人から断定されて陽空は考える。花恋がもし自分の気持ちに気づいていたとしたら、なんで関係を先に進めず、かたくなに恋人になろうとしてくれなかったのか。陽空には理解できなかった。陽空は花恋が好きだからこそ自分から積極的にスキンシップをとっていた。ただ二人から言われるほど距離感の近い自覚はなかった。
「俺と美香だって幼馴染だけど、さすがに花恋ちゃんと陽空ほどまでべったりしていないだろ」
「あたし、陽空が花恋ちゃんのあとをくっついてくみたいに、良太にべったりつきまとわれたら絶対きしょいわ! ってはったおすよ」
「俺だって無理だわ!」
良太と美香はぎぎぎっとにらみあった。
「良太と美香だってそれなりに仲良いと思うけどな」
「悪くはないけど、あたしたち恋愛にはなりえないじゃん」
陽空の言葉に美香がそっけなく返す。美香は自分にもブーメランだと気づいたのか苦い顔をした。
「あ、陽空スマホなんか光ってるけど?」
美香は話題を露骨に変えてきた。陽空も良太も机の上の陽空のスマホを見た。画面は暗いままだが、通知の緑のランプが点滅してた。陽空もこの話題を引きずるのを避けるため、さっさと乗った。スマホを手に取って開く。
「え、花恋だ」
「まじかよ。花恋ちゃん、なんて言ってきたんだ?」
久しぶりの花恋からのラインに陽空は思わず声に出し、良太も身を乗り出してきた。
「昼休み屋上来れるかってさ。話がしたいって」
陽空は訳が分からず、良太と美香にも画面を見せた。スタンプも何もない簡素な十文字だった。
“昼休み屋上で話せる?”
「……ねえどう思う?」
「わかんねえ」
美香が良太へと意見をうかがう。良太は頭をかきながら顔をしかめた。が、すぐに真顔になって両手をぱんっと叩いた。
「とりあえずさ、陽空おまえちょっと落ち着いたらアップルパイ大量に作れ」
「はあ?? 俺もう作らないっていったよな?」
「いきなり何言ってるの?」
良太は二人のつっこみを両手をあげて制した。
「4月の抽選で整理券当たらなかったやつ結構たくさんいるんだよ。もう陽空が作らないって言ったから、永遠に陽空のあのアップルパイを食べられなくなったやつらな。そいつらの撒き餌がわりに使って情報を集めるんだ」
良太はルーズリーフを一枚カバンから引っ張り出して情報と書き込んだ。
「俺たちは今全然情報が足りてない。会長がアンケートを捨てた証拠。花恋ちゃんが本当に手作りチョコを渡したのかどうか」
良太が話しながらさらさらと走り書きして論点を整理していく。
「もちろん誰かの証言よりも、なにか目に見えてわかる物的証拠があれば一番いい。先生たちや第三者に陽空の無実を示すためには俺たちの証言以外の根拠がどうしてもいるんだよ」
「ああ、そういうこと。アップルパイを渡すことを理由にすればいろんな人に話しやすいもんね」
「そうだ。しかもすっげえ食べたかったのにもう二度と食べられなくなったアップルパイがタダでもらえるとしたらどうだ?」
「いいね。いいと思う」
「俺まだよくわかんないけど? 俺のアップルパイごときで協力してくれる人そんなにいるのかよ」
美香は説明されて納得したが、陽空はまだ理解できない。
「陽空、おまえは全然関心なかったけど、おまえのアップルパイはめちゃくちゃ人気があるんだぜ。せっかくできた人脈、いま使わないでいつ使うんだよ?」
「俺、配るの二人に任せっぱなしだったからそこまで人脈とか人気があるなんて思えないけどな」
「だから俺たちの出番だってこと。美香は三年女子中心にバレンタインに花恋ちゃんが長瀬に本当にチョコを渡したのかどうか情報集めてくれ。俺は俺で最悪の可能性にあわせてそなえる」
「じゃ、俺は?」
陽空は幼馴染ふたりの頼もしさがうれしかった。ピンチの時に信じられる味方が居るというは本当に心強い。
陽空はアップパイを焼く以外に自分にできることは何だろうと考えた。
「決まってるじゃない。陽空は花恋ちゃんと直接対決して聞くのよ。あたしが納得できる答えをね!」
美香がびしっと陽空に人差し指を突きつけた。
なろうメンテ今日じゃなかったみたいです。しかもみてみんのメンテなので全然関係なかったという(>_<)お騒がせしました。
あ、でも私事ですが、明日ワクチン接種なので熱出したら更新はお休みさせてください(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ