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絶対無敵の身体を持つ女VSヤンデレ王子

作者: タック

 いきなりなのだが、俺には殺したいほど好きな彼女がいる。

 だけど、安心して欲しい。

 巷で話題のヤンデレ等という物騒な話では無い。


 殺したくても、殺すことができないからだ。

 どういうことか、だって……?

 実際に殺せないのなら物騒では無いだろう?


 また質問か?

 殺せないのは愛ゆえにためらって(・・・・・)? いいや――その意中の彼女が無敵の身体を持っているからだ。

 さて、好きな人を殺したいというのはよくある話だが、丁度良い機会なので説明させて頂きたく思う。


 ***


 彼女に初めて出会ったのは0歳の時。

 彼女が0歳の時では無い。

 俺が0歳の時だ(・・・・・・・)


 本当の愛を知れば理解できると思うのだが、運命の出会いともなれば鮮烈すぎる印象で0歳の時のことも覚えているのは当然だ。

 彼女は俺より十歳年上で、ベビーベッドを覗き込んでニッコリと笑ってくれた。


 神話の黄金の川を束ねたようなサラサラの金髪、澄み切った青空よりもなお蒼い瞳――彼女の最初の印象は美しく可愛く格好良く脳がグチャグチャにかき混ぜられるくらい酔ってしまい、いや、意識はハッキリとしているのだがな、心が! 魂が吸い込まれるような!


 ……つまり言い尽くせない。

 未熟な俺程度の言葉では言い尽くせないくらいの魅力に溢れた人物だったのだ。

 それも外見だけではない。


 今この状況――周囲に倒れているゴブリン、オーク、トロール、スケルトン、ゴーレム、デーモン、サイクロプス、ドラゴン、異形の魔王。

 これらすべてから俺を守ってくれていたのだ。

 彼女が俺にかけてくれた最初にして最後の言葉。


「王子様、ご無事ですか?」


 知能の発達していない当時はわからなかったが、後々思い出してはゾクゾクしてしまう。

 この俺を、彼女が王子様扱いしてくれたのだ。

 たとえ、本当に俺が大国の王子で、魔王に浚われて助けに来てくれただけだとしても……だ。




 俺が客観的に見てどんな人間かは、一歳の時に周囲の言動を解して分かった。

 世界一の大国、月の女神の加護を受けしルナテリクの第一王子。

 代々、第一王子として生まれた者は類い希なる才を持ち、また邪にも聖にも染まりやすいというのだ。


 そのために異形の魔王が最も影響されやすい生まれた直後に(さら)って行ったのだが、英雄として生まれ無敵の加護を持つ〝彼女〟が救出に向かったというわけである。




 俺は二歳になり、基礎学習を終えた。

 周囲からは信じられないと言われたが、こんな簡単なことに十数年もかける人間たちの方が低脳過ぎて意味がわからなかった。


 もちろん、彼女以外の人間という意味だ。

 彼女は特別。

 そろそろ走ることもできるようになったので、城にやってきていた愛する彼女へ会いに行った。


 十二歳の彼女と、二歳の俺。

 たった十歳の年の差だし、結婚を申し込むには問題ないと思っていた。

 本当は年上の彼女からプロポーズしてもらえると嬉しいのだが、彼女は内気で思慮深い性格なので、自分から王子へと言うのは畏まってしまうだろう。


 そこもまた好きだ。

 俺は人生で一番の笑顔だったのだが、彼女が通るはずの廊下を曲がったとき、表情が氷獄の最下層(コキュートス)のように固まった。

 彼女はいた。

 いたのだが、男が一緒だったのだ。


 男の素性は、彼女の周囲を調べたので知っている。

 出身地の村が同じだけという、いわゆる幼なじみだ。

 特別な能力も無く、執事見習いのような立場として城で働いている。

 俺とは比べ物にならないくらい、低脳な人間。

 だと思っていた男に――


「……彼女が笑いかけている」


 自分だけに向けてくれていたと思っていた笑顔を、彼女は幼なじみの男にも向けていたのだ。

 信じられない。

 これは浮気というやつだ。


 血が凍り付き、殺意だけで百回は幼なじみの男を殺せそうだが、俺は寛容なので我慢した。

 彼女もまだ若い女の子だし、他の男に目移りしてしまうことがあるかもしれない。

 それに幼なじみが死んでしまっては、優しい彼女はきっと悲しむだろう。

 彼女の事情を考慮した俺はその場を無言で立ち去った。


 その帰り道、執務室の扉を血が出るくらい強く叩いた。

 大臣に幼なじみの男を僻地に送り、そこの領主の娘と婚約させるように指示をしたのである。

 領主の娘は優しくて顔もいいと評判だ。

 彼女は介入しないだろう。

 後日、幼なじみの男から感謝の言葉をもらったが、彼女以外の言葉などゴミである。




 俺が三歳の時、再び城にやってきた彼女。

 もう彼女は十三歳なので少し大人の雰囲気を漂わせている。

 毎日、数十人の臣下を使って監視させていたので情報としては知っていたのだが、実際に見ると神々しさに目が潰れそうだ。


 彼女の為なら眼球などいくらでも捧げるのだから、別に問題はないが。

 遠くからジッと眺める恍惚の時間を過ごし、勇気を出して話しかけようとしたのだが――またしても悲劇が起きた。

 男が彼女に近付き、親しげにボディタッチをしたのだ。


 殺す。

 いや、ダメだ。

 アレは彼女の弟だ。

 安易に殺してしまっては彼女が悲しんでしまう。


 だが以前、魔法でDNAを調べさせたところ、実の弟では無いらしい。

 年頃の彼女が誘惑されたら大変なことになる可能性もある。

 隣国の美しく聡明な王女を紹介することにしよう。




 それから年月が経過して俺は九歳になった。

 不思議なことに、彼女の近くには未婚の男が絶えなかった。

 パーティーメンバーの戦士、僧侶、魔法使い、狩人。


 ご近所の自称お兄さん、財閥跡取り息子、湧いて出た従兄弟。

 そして冒険者学校の同級生が偶然にも全員男子、教師まで男、あげくに理事長までショタエルフ。

 英雄色を好むと言うが、これではいくら処理してもキリが無い。


 彼女が他の男に微笑む、これはもう浮気だ。

 どうにかして、彼女に浮気をさせないように、恋人の俺がもっと特別にならなければいけない。

 彼女の特別になるとはどういうことだろう?


 彼女が俺を愛しているというのは知っているので、それ以上の特別ということだ。

 365日寝ずに考え続け、世界中の賢者たちを招集して連日会議を行った。

 結果、出た答えが――絶対無敵の彼女を傷付けることができれば、それは世界でただ一人の本当の意味での〝特別〟になれるのではないか? というモノだった。


 理にかなっている、素晴らしい。

 素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしいすばらしいすばらしいすばらしいすばらしいすばらしいすばらしい。すばらしいすばらしいすばらしい、すばらしいすばらしいすばらしいすばらしいすばらしいすばらしい。


 この俺が、彼女の、本当の特別になれる。

 それから俺の人生は、彼女の特別になるために。

 喜びを与えるために誠心誠意、突き進むことになる。




 さっそく騎士団長にオススメの武器を聞いたところ『初心者は護身用のナイフから始めると良い』と言われた。

 俺はそれに従い、ナイフを持ってアサシンギルドに入門した。


 一日目でアサシンギルドの技術をすべて吸収し、二日目には敵国の国王を単独で暗殺することに成功した。

 俺はナイフをオススメしてくれた騎士団長に感謝をした。

 なぜなら、初心者の小僧がナイフ一本で国を滅ぼすことができてしまったんだから。




 俺の十歳の誕生日、特別なプレゼントを受け取るのに相応しい記念日。

 顔を隠した黒ずくめの格好で、完全に気配を消して、彼女の自宅の天井に張り付きながら待った。


 十二時間後、彼女が帰宅した瞬間に天井から落下しながら、神速でナイフを突き立てる。

 しかし、アダマンタイト製のナイフが砕け散った。

 さすが絶対無敵の彼女である。


(非力な力で振るう小さなナイフ程度じゃ、傷一つ付けることができない……さすがだな……)


 俺は、彼女が振り向く前に影に溶け込んで離脱した。




 彼女の絶対無敵に対しての仮説をいくつか立てて、それを地道に潰していくことにした。

 最初は、彼女の絶対無敵は意識したときにしか発動しないのでは? というものだ。

 試しに彼女が歩いているときに、離れた場所から投げナイフを放ってみた。

 剥き出しの手首に当たったのだが、何かの障壁のようなもので弾かれてしまった。


 撤退。

 次に考えたのは、投擲武器程度の距離では気付かれてしまうということだ。

 それなら射程距離を伸ばせばいい。

 投擲より射程距離が長いと言えば、神話の時代から〝弓〟と決まっている。


 騎士団長からオススメの初心者用の弓を借りて、狩人ギルドで一日修行をした。

 コツを掴んだので雷神世界競技祭(オリンピュイア)に出場してみたのだが、世界記録を出してしまった。

 沸き立つ歓声を受けて彼女を射貫く勇気(言い回しに照れる)が出てきたので、次の日に決行した。


 道を歩く彼女に照準を合わせるという行為に興奮して震えていたのだが、これでは矢の軌道が危うくなってしまう。

 心を平坦にする強力な魔法薬を飲み、呼吸で指先が振動しないように息止めを行う。


 手元の1ミリにも満たない誤差が、3540メートルという距離では大きく影響される。

 気温、湿度、風速、魔素濃度、惑星のコリオリ力を頭の片隅で計算しても、まだ精度が足りない。

 心臓の鼓動すらうるさく感じられる。


(そうだ、これも止めるか)


 意思の力で心臓をスッと止めて――その瞬間に矢を放った。

 綺麗な放物線を描き、常人の肉眼では確認できないくらい小さく見える彼女のハートにヒットした。


 ……ように見えたのだが、障壁に阻まれてしまった。

 残念ながら射程は関係ないらしい。




 次の作戦を考えながら日課の〝彼女観察〟をしていたときのことである。

 通りすがりの少年が投げたボール、それが彼女の障壁に阻まれずに当たったのだ。

 彼女にボールをぶつけた少年をどうやって死罪にするか考え……いや、ボールが彼女に直接当たったという事実に気が付く。


 どう見ても市販されている一般的なボールで、少年も凡人だ。

 彼女が立ち去ったあと、少年に金貨の入った袋を渡して事情を聞いた。


「なんかね~、手が滑って当たっちゃった感じ~」


 彼女を害する気はなかったようだ。許そう。

 そこで仮説が閃いた。

 もしかしたら、彼女を害する気がないのなら攻撃が通るのではないか? と。


 どうしたら、彼女を害しないで害することができるのか。

 偶然にも、そのとき劇団のチラシが目に入った。

 これだ……! と確信を持つ。


 自分すら騙す演技力を手に入れれば、攻撃しても攻撃した認識にはならない。

 俺はすぐ劇団に入ることにした。

 一日目に見習いをして、二日目には世界的な脚本家に注目されて主役を任せられてしまった。


 劇は大盛況でその年の主演男優賞を獲得。

 これで必要最低限の技術は得たということで、電撃引退をして世間を賑わせた。

 演技力を手に入れたとしても、彼女に相応しい舞台を用意しなければならない。


 こんなこともあろうかと最難関のダンジョンを踏破して入手した、世界を破滅に導く指輪を使う。

 もちろん、世界を破滅に導くために使うのではない。


 これを偶然拾ったと演技で騙し、彼女に任務として『火口に投げ捨ててきてくれ』と言って渡すのだ。

 第一王子として任務を出した俺は表向きには付いて行きにくいので、特殊メイクで案内役の異形の小男に化けることにした。


 それから彼女は様々な困難に立ち向かい、旅の仲間たちと共に火口に辿り着いた。

 足が滑ったフリをして彼女を火口へ叩き込んだ。

 障壁は発生してなかったので仮説は正しかったのだが――彼女は笑顔で戻ってきた。


 どうやら障壁がなくても無敵の身体らしい。

 試しに氷河にも叩き落としたが結果は一緒だった。

 作戦を練り直す。




 それなら体内からダメージを与えようと、世界中の毒を研究し始めた。

 王都で黒竜死病というのが猛威を振るい始めた時期だったのだが、サンプルを集めていく内に副産物で特効薬ができてしまい、全世界から称賛される事態に陥ってしまった。


 興味がないのでトロフィーと感謝の手紙束は捨てた。

 気を取り直して、毒性を三千倍に強化した黒竜神死病を完成させた。

 彼女の弟に化け、紅茶に入れて飲ませることに成功。


 しかし、彼女は美味いと言ってお代わりまでしたのだが効果は無し。

 美味いと言われたことが嬉しすぎてその場で泣いてしまったのだが、また彼女の特別にはなれなかった。




 ***




 そうこうしている内に俺は十八歳になった。

 世間一般の常識でも結婚できるようになったはずだが、彼女からのプロポーズはなかった。

 それで俺は最後の手段に出たんだ。わかるな?


 これを読んでいる貴様に言っているんだぞ?

 つまり物理的に彼女を殺せないのなら、概念的に殺せば良いと気が付いた。

 研究していた次元の壁――いわゆる第四の壁を越えることに成功して、これを読ませている。


 もうわかったよな?

 俺と彼女の話を読ませて、貴様がページを閉じることによって二人とも概念的に終わりを迎える。つまり、死ぬんだ(・・・・)


 ありがとう、彼女との本当の愛に荷担してくれて! 感謝するぞ、共犯者!

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど!この発想はなかった!
[良い点] もう「お似合いだよ何から何まで……」となりつつ最後に「おおっ!」となりました。面白かったです!
[良い点] 生まれながらにしてのヤンデレ、最高……!とニヤニヤしつつ斜め上の努力たちに爆笑していたら、まさかのラストに驚かされ、ぞくぞくしました……。 ブレない主人公の愛の重さ、一生懸命さ、本当に最高…
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