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今日の悪役(仮)


【プロローグ】


「お待ちしておりました、ミラエル王女様」

「あなた、どこかで会ったことない?」



…………………………。。。…………………………




私は失態を犯した。

生まれてたった19年。

ああ、なんて呆気ない人生だろう。


「どなたかとお間違えではありませんか?」


自分を殺そうとする、人。

執事の格好をした彼───指名手配中の盗賊団頭、ラーファは口角を上げて、整った作り笑いを浮かべる。

あと3ヶ月もすれば、私はヒロインを殺す。その翌週には私はこの人に殺される。

私は後ろを向き、出口へと歩いていく。


「そっ。じゃあよろしくね、ラーファ」


しらを切り通すならご自由に。とでも言うように、私はまだ一度も聞かされていないラーファの名を呼んだ。

もう私は後ろを向いているので、残念だが計画外のことに驚いているであろうラーファの顔は見れない。だがそうでもしないと、この気付いてしまった恐怖を隠すことはできないだろう。


扉が閉まる。


────そして、私のミラエル・アプリ・カセスとしての生が始まる。




【第一話】


皇妃殺しを謀った皇族の罪人の馬車の中で、前世の私は目覚めた。

ミラエル・アプリ・カサスの生みの親、名前は…前世で忘れてしまったらしい。


「ふぁぁぁあっ!よく寝たぁ…ぁふぁっねむっ」


私は今朝、日本の◾️■のふかふかのベッドで、金曜日残業の疲れにうなされて眠っていたはずなのに、ここはどこだ?

視界と振動からは郊外へ向かう木造の馬車と思われる、赤い…うわっベルベットっぽい布の座席に座ったままでいた。そして隣と前に、男が一人ずつ。

目の前の男はまだ若く、随分がたいがいいようだ。あと胸が開きすぎててはしたない。

隣の男は…うわっ好みっ!


「起きたようですね」


男はにこっとすると糸目になる笑みを貼り付けている。私は応じてほぼ無意識にうなずいた。

青いローブに、銀の髪、そして眼鏡。どこかの王子様かな?って思ったけど、そういえば私、この表現どこかで聞いたような…。

そしてちょっと脳裏によぎったことがある。


「…まさかねぇ…」

「なにが」


目の前の男が口を開いた。

堅物そうな言い方だ。何事だろう、なんだかんだ圧が…


「まさかなんだ」


もはや聞くような態度ではない。眉間にシワのやった刑事にされるリアルな事情徴収ってこんな感じだろうかと思う。

ちょっと私は固唾を飲んで、エヘヘと笑った。


「聞こえてたぁ?」


心の中で呟いた事が漏れてた、なんて恥ずかしい。こういう時は笑って誤魔化すのが一番だ。とくに私みたいに小さな背で、メイクバッチ…リ……。


私は隣の男を二度見した。

銀髪!?

こんな人、私の知り合いにいない。外国?

目の前の人が小麦色の肌に黒髪って、日本にいそうな人だからついつい見逃してたけど、こんな威圧感すごい人だって私のお友達にはいない。

あと私の声の高いこと!子供か!


「あの…ここ、どこですか?」


私はがんばって低めの、極力おしとやかな声を作って言ってみた。

そんな我慢しきれずといった様子の私の問いに、ガタイの良い男がため息をついた。


「カリマルダラの辺境だ。ついさっき、ニアルサの街境を通った」


カリマルダラ?何語だろう。

そして銀髪の人は補足ようにこう言った。


「今から行くのは、カリマルダラの屋敷。でも心配しなくて良いよ。私がそこで贅沢な暮らしができるよう、手配したから」


贅沢な暮らし?えっと、私…あ。ドレスだ。

自分の纏う、赤いドレス。襟元、裾元にはひらひらがあそばせてあり、贅沢なバラのコサージュが螺旋状に並んでいる。

これが白ならうっとりするようなウエディングドレス。それをこんな引越し先まで馬車の中で着てるって、私って一体…?


「ま、実質幽閉だろ?温室育ちの殺人皇女にはもったいないくらいだ」


殺人皇女?…『殺人皇女』!!

心の中で復唱をして、私はさっきの予感が着実に頭の中で組み合わさっていくのを感じた。

『殺人皇女』…私が…?

血の気が引いていく気がする。


「人聞きの悪いっ!」

「でも実際そうじゃん。お前も大変だよな、王様なのに妹みたいな従姉妹がな」

「それ以上言うなよ?」


銀髪の美青年が立ち上がったせいで、ただでさえ揺れる馬車が大きく左に揺れた。


「わかった、わかったから座れ、マルトリック。お前の身に傷でもできたら、俺まで首吊りにされちまう」

「っ!」


俺まで、という言葉が気に障ったのだろう。マルトリックはガタイの良い方の美青年────ガダークを睨みつけ、舌打ちをした。

いやはや、自分で作ったキャラクターとはいえ、殺人皇女をここまで庇うとは人が良すぎる皇帝だ。

私はどこか遠くを眺めるように一部始終を見ていた。


「…ミラエル・アプリ・カサス…」


私の呟きに、何事だ、という意を含んだ視線が二つ集まるが、私は気に留めない。集中していて聞こえない、見えない、感じないというのに近いといえる。



【第二話】


ミラエル・アプリ・カサス。

『フィギュアストーリー』の冒頭より登場する■■帝国の女の皇族。冒頭ではまだ王子であったナルム・ダィア・カサスの従兄弟にあたる。


ミラエルは『フィギュアストーリー』の悪役を担っているキャラクター。

『フィギュアストーリー』のヒーローであるナムルに恋をして、ヒロインである隣国のエニーサに嫉妬し、数々の嫌がらせをする。

それはそれは様々な、…えっと、


「だから誤解だよ!エニーサのシチューに毒蛇入ってたり、エニーサから私へのパイがカエルが入ったパイにすり替わってたけど、」


あーそんなやつそんなやつ。そんなこともやってた。というかやらせてた?


「それだって薬膳の一環…」

「お前馬鹿か?」


ガダークに激しく同意する。

毒蛇、食べるんだよねーナムルが代わりに。カエルだって実は麻痺作用を持つ毒カエルだったりすんだど、食べちゃうんだなぁ。

それで生きてるんだよなぁ。なんなんだこの人間《怪物》は!

と作者ながらに思います。その後の旅を見込んでの話なんだけどね?一応。

あとはなんだっけな…。


「馬鹿じゃないよ。あと他には、私がエニーサとの婚約発表をしてからエニーサの部屋にお見合い写真が広げてあったり、エニーサが7日間の捜索をして森で見つかったり…」

「お前それ以上言うな」

「いやだ。だってそれだって、エニーサにこの私よりいい男がいないという事を教えていたわけだし、」


ちょっと待って、ナムルってこんなナルシストだったっけ?だめだ、ミラエルにはできても私には完全に恋愛対象外です。あれ?そもそも私この世界の人達は思ってた以上にキラキラしてて無理かも。

そんな事を作中にいたような気のする、胸焼けなさそうなほど美男美女の姿で現れそうなキャラクターのイメージ画像が次から次へと浮かび上がってからなで思った。15歳の頃の自分の輝きが怖くなる。

こうなんていう、イケメン勢揃い。

(…おいっ語彙力!!)

浮かれて落とされて疲れ切った笑いがこみ上げてきそうで、しゃがれた声の似合いそうな、そんな喝を自分に入れてみたりする。

ナムルのポジティブ思考の解説はまだ続く。


「エニーサに森を歩かせたのも、世界があんな城だけでできているわけじゃないっていうことを教えて…」

「うんうんお前が馬鹿のはわかったから、もう本気で言うな。この女とこれ以上同じ空気を吸いたくなくなる」

「この女?今ガダーク、ミラエルをこの女と言ったのか?私の大事な大事な…」

「スタップ!お前、ミラエル…姫…と!エニーサ妃、どっちのが大事なんだ」

「んー…難しい」

「本気で悩むな!エニーサ妃がかわいそうだろ!」


私は可哀想じゃないのか?とかいう筋合いは、私にはない。

きっと私がただの《・・》ミラエルだったらうっとりしているんだろうが、残念ながらもう今世も晩年の私にはできない。

そうだ、もっと静かなところで絶望に浸らせて欲しい。

そうして私は外を眺めた。


ミラエルは他にもあの手この手でいろいろな事をした。

そういえば、エニーサが森で発見されたのは、エニーサが奴隷商に売られていたからで、別キャラクターの助けでそこを出て、ナムルに心配させないようにと嘘をついたのだが、この様子ではナムルは一生知りそうにない。


「おいミラエル姫、街が見えてきたろ」

「え?」


ガダークの声が私を指名するので、窓の外を見るが、建物らしきものは全く見えない。


「見えないわ」

「嘘言うな、どう見ても街だ」

「やあね。この私に見えないものがあるわけないでしょ」


窓枠に身を乗り出して見てみると、はしたないからやめなさいとナムルに叱られたので、納得して潔くやめた。

また少し揺られて、いるとガダークが言った。


「見えたか?」

「見えなかったわよ」


窓に視線を投げる。と、不思議なものを見た。

標識に『街が見えてきた』と書いてあった。


「アッハハハハ」


私が大声で笑うと、こればっかりはナムルもぎょっとした顔をして眉をひそめた。


「……あ…」


私は細切れの小さな声を出す。

黒塗りの、大きな屋敷が見えてきた。

自分がこんな立派な屋敷を考えていたとは、驚きだ。


「お前それ以上馬鹿って言ったら、不敬罪で縛…」

「わかりましたわかりました陛下、言いませんから」

「ならいい」


馬車が止まった。



【第三話】


『フィギュアストーリー』作中で、必ずと言っていいほどミラエルはエニーサに殺人級の嫌がらせをする。

そして異様にミラエル想いのナムルによって、それは全て不問に付されるのだ。


ただし今回だけは違う。

ミラエルとは別に、自分の娘を皇妃にと、エニーサを殺めようと必要以上にエニーサに近づいた皇族、ミラエルの叔母がミラエルがエニーサの為に仕掛けた罠にハマって命を落とした。

この叔母(モブなので名前はない)は皇族の妾で元いた正妻を殺し自身がその座についた。しかし実際権力は低く、ただでさえ横暴で傲慢な性格で国民にも知られている三大悪女の一人だが、仮にも皇族なのでここぞとばかりにエニーサ派の人間がミラエルの処刑を要求したのだ。


そこでもナムルは頑張った。


ミラエルの処刑を要求する7割の大臣達の要求をかわしにかわし、幽閉で収めたのだ。

正直すごいと思う。15の私はどんな設定でやってのけたんだろうと思うのだが、確実にナムルの株は下がっただろう。だからこそ、第二王子のみでありながらこの後旅に出る自由があったのだが。


ともかく!


その嫌がらせの一つで最終的にエニーサは死ぬ。エニーサの死に耐えられなかったナムルはエニーサの遺体をを魔法で不腐の魔法で保存し、100日間の断食をし、死体を愛でる。


(今思い返せば、こんな優男が気狂いになってしまうわけなのだが。)


ある時、ナムルの耳に噂話が聞こえて来る。

『────死者を蘇らせる、蘇りの黄金花』

そしてそこからナムルが蘇りの黄金花を探し長い長い旅に出て、RPGテイストの旅に出て、ミラエルの墓に咲いていた向日葵を煎じて飲ませたところ、生き返るというのがクライマックスだ。

そしてそのあとすぐ、病弱であった兄がナムルとエニーサの結婚を祝福して死に、ナムルはその旅で挙げた功績や継承権などを考慮され、なんの疑いもなく国王の座について、話は終わる。


私はここに宣言しよう。実に堂々と!

ちなみにこの話、読み返したことはない。

そして私この話、終わるには終わるが、クライマックスからして断片的で途中で、私が飽きたせいで完結してない。

だってさこの話!RPGテイストのとこ、グダグタで疲れちゃったんだもん!


というわけで、私はそんな15の夏休みの後、一度も本というものを書かなくなった。

謎にライバル心が燃えて、偉大な小説家の小説も読まず、勉強に徹し、第一志望に合格し、就職し、えっとそれから…あーあ、思い出せない。


『楽しかったな、あの頃は。』


お酒飲むとそんなことばっか言ってたのを思い出すからわけわかんないし、なんか悔しい。

っていうかさ!読み返せよ!ぶっちゃけあんな頑張った事他にないから内容だいたい覚えてるけどさ!小説って推敲とかするじゃん!

と思う、(かなしいかな既に)異邦人。



【閑話】


あ、ペンだ。

私は相変わらず馬車に揺られている。

そして腰に硬いものを感じて、ベルトに挟まっているのが、前世で自分の愛用していた万年筆だとわかる。

15の誕生日にもらった万年筆。少し古風だけど、おじいちゃんのそういうところが好きだった。


『本には命が宿っているんだよ』


執筆をしていると仕切りに思い出されるおじいちゃんの言葉。


「…そういう事ね…」


それが今はすごくわかる気がする。

本はたくさんの登場人物を生かす、舞台なのだ。


もっとも私の場合、『フィギュアストーリー』は───このタイトルの元ネタから言って残酷なのだが───殺し合いの舞台の気もして来る。

ごめんなさい、おじいちゃん。



【閑話の閑話】


『フィギュアストーリー』


私はWordでやっと160000字に到達した作品の上段に、この文字をタイプした。

そして打ち疲れた手を逸らして、作中のベッドを想像しながらここのところしきっぱなしの布団にダイブする。


「あのね、フィギュアストーリーって名前にしたの」


私は翌日の朝、お母さんに言った。


「なにが?」

「内緒」

「…」


お母さんはにやけのとまらない私をじっと見る。


「ま、いいけど」

「えー聞いてよ」

「だってあんた、今内緒って言ったじゃない」

「お父さん、聞きたいな」


漬物で箸を進めながら、横目で私たちの様子を伺っていたお父さんが間に入って来る。

これでいっつもその場を収めた気になってるからいやんなっちゃうわ。


「お父さんじゃやなの!」


すると父さんは怯む。


「ねえねえお母さーん」

「お父さん聞きたいって。あたしはお皿洗うので忙しいの」

「えーー」


私はそう言って、お母さんの袖を引っ張っていた手を離して、もう一度お父さんを見る。

3秒程目があって、私はショートカットで舞わない髪をお母さんの方へ向け直した。


「やっぱりお父さんじゃやなのー!」


父、タロウは、胸がずきっと痛むのを感じた。





頑張ってるお父さんごめんなさい。

面白がって、主人公の幼少期に気の弱いお父さんを引き合いに出した家庭を描いてみましたが、なんだかんだみんな親を尊敬してますから!

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