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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

世界よ、これが文学賞だ。

作者: Kei.ThaWest
掲載日:2019/06/20

酷い短編が完成しました。

今年書いたやつの中ではダントツで酷いです。


どうか、笑ってください。

 円卓を囲んで会議が行われている。侃々諤々(かんかんがくがく)の白熱した議論は続く。議題は何かというと、今年のヌーブラ文学賞の受賞作の選定である。


 ヌーブラ文学賞は世界的に権威ある賞だ。その昔とても偉い人が考えた賞でこれを受賞するということはたいへんな名誉である。


「グレイ議長、今年の順位はこんな感じでどうでしょう?」


「あぁ、まあまあなんじゃないか?

 でも、ちょい偏りすぎかな。

 あー、これはダメだろイエロー君」


 グレイ議長はイエローの手書きのメモをとんとん叩いて指摘する。


 メモには今年の1位から10位までがずらっと並んでいる。ヌーブラ文学賞はランキング制なのだ。


「白人男性が多すぎるよ、3人までにしなさい」


「え、でも議長!

 これなんか大傑作ですよ!

 プロのフォトグラファーが世界中の貧困層を写真に収めながら綴ったエッセイです。

 貧しくとも明るく生きる子供達の様子がていねいに描かれていて前評判も上々でしたし」


 ホワイトが言った。彼の一押しなのだ。


「でも白人でしょ?

 ダメダメ、近頃は“団体”がうるさいからね。

 あと、売れないでしょ、それ。

 今さら紙の本なんか買う変人ったら富裕層ばかりなんだから、そんな底辺目線に寄り添った作品じゃなくてさぁ、もっとこう……上から目線で、貧しいのは悲惨ですね、悲しいですね、手を差し伸べましょうね、みたいなやつじゃないと」


 グレイ議長によってひとまず、白人男性作家の作品は一つだけに絞られた。

 『朝、起きたら、夜だった』という作品である。アルコール中毒の男性が書いた、読んでいるだけで目眩を起こしそうな散文集である。いや、はっきりと言おう。駄文集である。


「あと、もっと女流作家を増やしなさい。

 あの“団体”はうるさいんだ!」


「議長!

 その“女流作家”というのは少し、レイシスト的発言ですね」


 ブラックが横槍を入れてきた。


「お、言葉狩りか!?

 やんのか、こら?」


 グレイ議長は興奮して粘液を飛ばした。

 皆はそれを見て苦笑している。大丈夫、いつものことだ。


「コホン、よろしい。

 では、“女性の”作家をもう少し増やそうではないか」


「ではこれなど如何です?

 伝統的な機織(はたお)りに携わるアフリカ大陸の女性達を追ったらルポルタージュです。

 地域の伝統の継承を通じて人々の豊かな」


「うーん、却下」


「議長!

 最後まで聞いて下さいよ」


「だって、地味でしょ?

 もっとエキセントリックなやつで行こうよ。

 今年のノーヘル文学賞見た?

 あっちなんか頭イッちゃってるラインナップでしょ。

 一位が『ラリった星条旗』だよ?

 こういうのが、ヌーブラ文学賞には足りないんだと思うね」


 世界規模の文学賞は二つある。

 ヌーブラ文学賞とノーヘル文学賞である。


 ちなみにより古くからあるのはヌーブラ文学賞だ。だから審査員にも矜持がある。質の高い作品をノミネートさせようという気概があるのだ。が、残念ながらグレイ議長にはそんな人間達の思惑など関係ないようだ。


「じゃあこれなんかは?」


 ちょっと投げやりにイエローが一冊の本を指差した。


 『世界風俗大紀行』


 性転換した“女性”ジャーナリストが文字通り世界中の一風変わった風俗店へ突撃取材する作品である。たくさんの写真を用いた毒々しいパッケージが、まるでアメリカのド派手な色のケーキみたいだ。


「うん、採用!」


 当たり前のように採用されてしまった。イエローは口をあんぐり開いて無言のまま着席する。


「あと、ほら、黒人枠は?

 うるさいからね!」


 そうなのだ、黒人枠は毎年必須なのである。

 かつて、たまたま10位までに黒人作家の作品が一つもなかった年があった。その年、ヌーブラ文学賞が発表されると世界中で暴動が起こった。やれ、現代にまで蔓延る差別主義だの、白人至上主義団体の陰謀だの、政府の仕業だの、妖怪の仕業だの、宇宙人の仕業だのと、それはそれは凄まじい暴動であった。


 ちなみにこのところ、海外ドラマや映画では黒人の俳優が100パーセント登場するが(ちなみにLGBTいずれかのキャラも絶対出てくる)、もしこの慣例を破った場合はとてつもなく重い制裁が待っているのである。差別主義者として業界から追放されてしまうのだ。


 余談ではあるが、ならばこれでどうだと面白がって登場キャラのほぼ全員を黒人で揃えた映画を作ったところ、世界中で空前の大ヒットとなった。まぁこれは差別意識がそれだけ根深いということの裏返しでもあるわけだが余談終了。


「では、黒人枠はこれで」


 ブラックがすっと本を差し出してきた。


『漆黒の黒豹』


「ううん、これは何だね?

 まだ英語に訳出(やくしゅつ)されてないじゃないか!」


「タイトルだけ翻訳しましたよ?」


「中身は?」


「私もよくは知らないのですが、どうもアフリカの儀式についての本らしいです」


「うむ、じゃあいいや、採用!」


 雜い。雑さが凄い。

 読者諸兄はどうか気を悪くしないで頂きたい。これはヌーブラ文学賞なのだから。


「あとレズビアンのも入れときなさい。

 これなんかどうだね?

 表紙が扇情的で売れそうじゃないか?」


『レズビアン~美しき誘い~』


 表紙は裸の二人の女性が今まさに舌を絡めようとしているところである。レズビアンの作者の実体験を基にしたノンフィクションであるらしい。


「あとレズビアンを入れたらゲイも入れとくか。

 あ、今年はノミネート作無いの?」


「ゲイは外しても文句言わないから要らないって、グレイ議長が去年仰ってたじゃないですか!」


 ホワイトが言った。


「あれれ?

 そうだっけ、まぁいいか。

 っと、おいおいおい、これは何だね?」


 (にわか)に、グレイ議長の目が光った。非常に興味関心をそそられる本を見つけたようだ。


「一応、ご用意しましたがそれは“文学”というにはちょっと……」


 イエローはもじもじしている。


「中国人の女装子の写真集……ふむ、なかなかかわいいな。

 こういうのは意外性があっていいぞ。

 採用だ」


「よろしいんですか!?」


「えっ?

 なんかダメだった?」


「いや、議長がいいと言うなら」


「だからさっきから採用だって言ってんじゃん!

 採用ね!

 あと、日本人の作品が欲しいね。

 アジア人枠は日本人を入れときゃ文句出ないでしょ?」


「でしたら、こちらの作品がよろしいかと」


 ホワイトが、全裸の少女が悪霊に取り囲まれている表紙デザインのペーパーバックを差し出す。


「セント・ヤマグチ、日系アメリカ人の作家です。

 タイトルは『The Greedy Exorcist And His Kinky Crazy Nudy Girl』」


「長ったらしいタイトルだなぁ、なろう小説かよ?

 もっとざっくりしたタイトルにしなさい。

 『がめつい悪魔祓いと変態全裸少女』これでいいだろ。

 で、内容は?面白いの?」


「娯楽小説としては及第点だと思いますが、文学的かと言われると」


「でもパッケージがエロそうじゃないか?

 過激なセックスシーンとかあるんじゃないのか?」


 鼻息荒くグレイ議長がホワイトに訊いている。欲望に忠実である。


「一応全年齢対象なのでそういうシーンは無いです。

 ですが少女が全裸になる場面は」


「あるのか!?」


「……はい」


 すごい剣幕でグレイ議長が尋ねてくるのでホワイトは若干引いている。


「いいね全裸少女、充分文学的じゃないか。

 洋の東西を問わず全裸の少女というのは、性にまつわるエトセトラを書く際の古典的なアイコンだよ、君」


「さ、左様ですか」


「うむ。

 にしてもやはり、日本人は変態だなぁ。

 あぁ、そうそう、私は日本人の書く小説というのは陰鬱で好かんがマンガは大好きなのだ。

 特に好きなのはアレ。

 あー名前が浮かんでこないな、ほら、あっただろ、くたびれた木造アパートでイエスとアッラーが同居してて、近所のお風呂屋巡る話」


「『(セントウ)☆おにいさん』ですね」


 イエローがすかさず名前を言い当てる。実はサブカル好きなのである。


「それそれ!『(セントウ)☆おにいさん』だよ。

 あれ私、大好きなんだ。

 だいたいいつも爆乳のトルコ人が自分とこの風呂に誘うオチがたまらなくシュールでよい。

 “オスマン帝国ーー!”て言いながらみんなでズッコケるシーンで何度笑った事か」


 ひとしきりバカ笑いをした後、グレイ議長は真顔に戻った。


「というわけで、その変態小説は採用。

 ええっと、もう10作品出揃ったかね?」


「いえ、議長。

 まだ4作品選ばなくてはなりません」


「えー、もう面倒くさくなってきたなぁ。

 あと2作品はもう私の方で決めてあるんだけど、残り2作品はどうしたものかね。

 誰か、オススメは?」


「あの、議長」


 イエローが上下分冊のハードカバー本を重ねて提示する。赤と緑、書店に並んでいるとさぞや目を惹くであろう装丁(そうてい)である。


「おお、そいつはあれじゃないか。

 だいたいいつもノミネートされるけど決して1位にはなれないあの日本人作家の!」


 そうなのだ、ヌーブラ文学賞では毎年、絶対にノミネートされるけれど1位を取ったことが一度もない日本人作家がいるのである。

 ちなみにノーヘル文学賞の方はしょっちゅう日本人が1位を取る。去年だとY沢A吉の『ホタテの勇者の成りあがり』が1位を獲得している。ムール貝を改造したバイク集団が深夜の首都高を爆走するシーンは多くの読者の感動を呼んだ。


「うん、恒例行事だからな。

 今回もそいつを2位にしてやろう」


 こうして、下町夏海の『そのへんの森』が2位になることが確定した。なんて雑なタイトルなのだ。ちなみにこの小説、冒頭からいきなり主人公の回想シーンが始まる上に、全体の7割くらいが回想シーンで締められているとんでもない小説である。しかも肝心の回想というのがほとんど主人公の音楽の趣味と好きな曲の解説に終始しているところが大いに物議を醸し出した。


 この下町夏海という作家は毎作品ごとに裏のテーマとして何らかの音楽をモチーフとする特徴がある。たいていはビートルズのような古典的ロックであったりクラシックであったりするのだが、何を思ったか本作においてはデスメタルを取り上げてしまったのだ。

 これにあやかり、一時期多くのレコード店の店頭に刺々しいメタルのアルバム達が平積みされてたのは記憶に新しい。


「あと一作だが……何だね君、その薄汚い石は?」


 ブラックがカバンから白っぽい色の石版を引っ張り出してきた。


「いえね、ここまで来たら思いっきり奇を衒ってみるのもよろしいのではないかと思いまして。

 この石版はちょっと前に島民が全滅した島から回収された、未知の言語が刻まれたものです。

 外界との交流を一切絶っていたこの島民達は独自の言語体系を持っていたもので、学術的には非常に貴重なサンプルとなるはずだったのですが」


「あ、知ってるぞ。

 ニュースで見た。

 セントラルだったかセンチメンタルだったかいう島だな。

 普通の風邪で全滅したんだろ?」


 それは悲しい事件であった。

 ネット上の有名な動画サイトで活動しているイキリオタクが、面白半分でその島へ上陸し動画撮影を行ったのだ。

 島民はすぐにこのイキリオタクを殺害し死体を海へ流したのだが、残念なことに彼の持ち込んだごくごく一般的な風邪菌が島中に蔓延してしまったのである。

 島民は外界に存在する菌への耐性を持っていなかった。そして一月を経ずして、島民は全滅することになる。


「文学賞のノミネートが石版って、これはシュールだな。

 しかも解明されていない未知の言語か、ロマンがあるねぇ。

 よし採用。

 こういう意味不明なやつは見る人間がそれぞれ勝手に解釈するから面白いんだよな、抽象画と一緒で」


 グレイ議長にとって島民たちの悲劇など、対岸の火事どころか路傍の石くらいの価値しか持たない話題なのだろう。嬉々としてシュールだのロマンだのと語っている。


「これで8作。

 あとの2作は議長の推薦ですか?」


 ホワイトが確認する。


「うん、1個は知り合いのマフィアに頼まれてね。

 『ジェノサイドの夜明け』っていう作品だよ。

 もう前金もらっちゃったし、ノミネートさせないと私が殺されちゃうからさ」


 腐った癒着を隠す気すらないグレイ議長である。


「でもマフィアってのは羽振りがいいねぇ、驚いちゃったよ。

 娘がね、大きなガレージ付きの別荘を買ってほしいってうるさくてね。

 何でも、空飛ぶ舟を作るんだと。

 あのぐらいの年頃の娘はかわいいものだ。

 で、月の土地は既に押さえてあるんだけど物資の輸送費用なんかを考えた場合、予算に足が出そうだったのだよ。

 そこでマフィアから頂いた前金を充当したわけなのだが、余った分で私の車も買えたし文句なしだな」


 イエロー、ホワイト、ブラック、いずれもここに至っては口を(つぐ)むしかない。

 グレイ議長は人間ならば成長過程で当然獲得すべき倫理観などとは一切無縁なのだから。


「さぁようやく最後の作品だ。

 これは申し訳ないが私の自著で行かせてもらおう」


 懐から一冊の本を取り出すグレイ議長。

 まさかの、自分が書いた本を推薦とは!?


「「「えっ!?」」」


 他の審査員たちは一様に驚き、目を白黒させていた。

 厚顔無恥、ここに極まれり。

 

「そんな顔しないでくれるかね?

 これは私のエゴとは関係ない話なのだ。

 私の作品が入ってないと“団体”がうるさいんだよ。

 わかるでしょ?

 今や全方位に忖度しないとぶっ叩かれる世の中だよ?」


 グレイ議長は、粘液の滴る軟体動物のような腕で自著を持ち上げて、


「この星に居住権を持つ宇宙人(グレイ)は私だけじゃないか」


 そう言った。








 本年度のヌーブラ文学賞受賞作は以下の通り。


1位.『宇宙散歩』著:グレイ議長

2位.『そのへんの森』著:下町夏海

3位.『漆黒の黒豹』著:ンゴッタ・ンゴレラ

4位.『朝、起きたら、夜だった』著:チドリ・フット

5位.『レズビアン~美しき誘い~』著:ユーリ・コレガスキー

6位.『よくわからない文字が刻まれた石板』著:不明

7位.『世界風俗大紀行』著:ターバン・マイテマス

8位.『ジェノサイドの夜明け』著:コロンビア・ネクタイ

9位.『総天然色美女装図鑑』モデル:珍珠奶茶

10位.『がめつい悪魔祓いと変態全裸少女』著:セント・ヤマグチ


 酷いラインナップである。


 ちなみに『漆黒の黒豹』は後日正式に翻訳されて内容が判明することになるのだが、実はこの作品、とある夫婦の営みについて夫が記録をつけただけの内容だったのである。


 それと『よくわからない文字が刻まれた石板』には実は、太古の地球へ降り立ちシュメール人に文化を授けた異星人=グレイ議長の祖先の手による“最終兵器”の設計図が描かれているのだが、この言語を理解する人間が一人もいなくなった今となっては永遠に解明されることのない事実である。



世界よ、これが文学賞だ。




如何でしたか?

酷かったでしょ?


でも笑ってもらえたら本望です。

あとついでに評価とか感想とか、くれたら嬉しいなー!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「それそれ!『湯 セントウ ☆おにいさん』だよ。 >ターバン・マイテマス (∩´∀`)∩ 最高でした~♪
[一言] こちらに書いても大丈夫でしょうか? 正式には「空飛ぶモンティパイソン」でかなり昔のイギリスのコメディ番組なのですが、ナンセンスギャグがたくさんあります。 ネット上でも一部観られると思います。…
2019/06/20 22:34 退会済み
管理
[一言] 読ませていただきました! 時事にあんまり詳しくない私でも分かるネタがあって、フフ、と何度か笑ってしまいました。 楽しい作品です。 文学賞って、ホントにこんな感じで決められてるのかも知れませ…
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